源氏物語 第13帖 明石(8)
明石の君との文と都の異変
源氏は岡辺の家の娘に文を送るが、娘は身分の差を恥じて返事を書かず、入道が代筆する。源氏は重ねて文を送り、娘はようやく紫の紙に歌を書いて返す。その筆跡は都の高貴な人にも劣らない。二人は、互いに気位を張り合って文を交わし続ける。一方、都では天変地異が続き、朱雀帝の夢に故桐壺院が現れて睨む。帝は目を患い、太政大臣は亡くなり、大后も病む。帝は源氏を許そうとするが、大后に反対される。

- 1思思おもふふう事事ことかつかつかつかつかつかつかなひかなひかないぬるぬるぬる心地心地ここちしししてててすゞしうすゞしうすずしゅう思思おもひひい居居いたるたるたるににに、、、又又またののの日日ひののの晝晝ひるつつつ方方かた、、、岡邊岡邊おかべににに御御おん文文ふみつかはすつかはすつかわす。。。心心こころ恥恥はずかしきしきしきさまさまさまなななめるめるめるもももなかなかなかなかなかなかかゝるかゝるかかるものものものゝゝのくまくまくまにににぞぞぞ思思おもいののの外外ほかなるなるなる事事こともももこもるこもるこもるべかべかべかめるめるめるととと心心こころづかひづかひづかいししし給給たまひひいててて、、、
- 2こまこまこまのののくるみくるみくるみ色色いろののの紙紙かみにににえならずえならずえならず引引ひきききつくろひつくろひつくろいててて、、、「「「をちこちをちこちおちこちももも知知しらららぬぬぬ雲居雲居くもいにににながめながめながめわびわびわびかすめかすめかすめししし宿宿やどののの梢梢こずえをををぞぞぞとふとふとう。。。思思おもふふうにににははは」」」とととばかりばかりばかりやややありありありけむけむけん。。。
- 3入道入道にゅうどうももも人人ひと知知しれれれずずずまちまちまち聞聞きこゆゆゆとととてててかのかのかの家家いえににに來來き居居いたりたりたりけるけるけるもももしるけれしるけれしるければばば、、、御御おん使使つかいいといといとまばゆきまばゆきまばゆきまでまでまで醉醉えはすはすわす。。。御御おんかへりかへりかえりいといといとひさしひさしひさし。。。內內うちににに入入いりりりてててそゝのかせそゝのかせそそのかせどどどむすめむすめむすめははは更更さらににに聞聞きかかかずずず。。。
- 4いといといと恥恥はずかしげしげしげなるなるなる御御おん文文ふみのののさまさまさまにににさしさしさし出出いでででむむん手手てつきつきつきもももはづかしうはづかしうはずかしゅうつゝましうつゝましうつつましゅう人人ひとののの御御おんほどほどほど我身我身わがみのののほどほどほど思思おもふふうにににこよなくこよなくこよなくててて、、、心地心地ここちあしあしあしとととててて寄寄よりりり臥臥ふしししぬぬぬ。。。言言いひひいわびわびわびててて入道入道にゅうどうぞぞぞかくかくかく。。。
- 5「「「いといといともももかしこきかしこきかしこきははは田舎田舎いなかびてびてびて侍侍はべるるるたもとたもとたもとににに、、、つゝみつゝみつつみあまりあまりあまりぬるぬるぬるにににややや、、、更更さらににに見見み給給たまひひいももも及及およびびび侍侍はべらららぬぬぬかしこさかしこさかしこさににになむなむなん。。。さるはさるはさるは、、、ながむながむながむらむらむらん同同おなじじじ雲居雲居くもいをををながむるながむるながむるははは思思おもひひいもももおなじおなじおなじおもひおもひおもいなるなるなるらむらむらん。。。とととなむなむなん見見み給給たまふるふるうる。。。いといといとすきずきしすきずきしすきずきしややや」」」ととと聞聞きこえええたりたりたり。。。
- 6みちのくにがみみちのくにがみみちのくにがみにににいたういたういとうふるめきふるめきふるめきたれたれたれどどど書書かきききざまざまざまよしばみよしばみよしばみたりたりたり。。。げにげにげにもももすきすきすきたるたるたるかなかなかなととと目目めざましうざましうざましゅう見見み給給たまふふう。。。御御おん使使つかいににに、、、なべてなべてなべてならならならぬぬぬ玉玉たまもももなどなどなどかづけかづけかずけたりたりたり。。。
- 7又又またののの日日ひ「「「ははは見見み知知しらららずずずなむなむなん」」」とととててて「「「いぶせくいぶせくいぶせくももも心心こころにににものものものをををなやむなやむなやむかなかなかなやよややよややよやいかにいかにいかにととと問問とふふう人人ひともももなみなみなみ。。。いひいひいいがたみがたみがたみ」」」とととこのこのこの度度たびはははいといといといたういたういとうなよびなよびなよびたるたるたる薄樣薄樣うすようにににいといといと美美うつくしげくしげくしげににに書書かききき給給たまへへえりりり。。。
- 8若若わかききき人人ひとのののめでめでめでざらざらざらむむんもももいといといと餘餘あまりりりうもれいたからうもれいたからうもれいたからむむん。。。めでたしめでたしめでたしとととははは見見みれれれどどどなずらひなずらひなずらいならならならぬぬぬ身身みのののほどほどほどのののいみじういみじういみじゅうかひかひかいなけれなけれなければばば、、、なかなかなかなかなかなか世世よにににあるあるあるものものものととと尋尋たずねねね知知しりりり給給たまふふうにににつけつけつけててて淚淚なみだぐまぐまぐまれれれててて、、、
- 9更更さらににに例例れいのののどうなきどうなきどうなきをををせめてせめてせめていはいはいわれれれててて、、、淺淺あさからからからずずずしめしめしめたるたるたる紫紫むらさきののの紙紙かみににに墨墨すみつきつきつき濃濃こくくく薄薄うすくくくまぎらはしまぎらはしまぎらわしててて、、、「「「思思おもふふうらむらむらん心心こころのののほどほどほどややややよやよやよいかにいかにいかにまだまだまだ見見みぬぬぬ人人ひとののの聞聞ききききかなやまかなやまかなやまむむん」」」。。。手手てのののさまさまさま書書かきききたるたるたるさまさまさまなどなどなどやんごとなきやんごとなきやんごとなき人人ひとにににいたういたういとう劣劣おとるるるまじうまじうまじゅう上上じょうずめきずめきずめきたりたりたり。。。
- 10京京きょうのののことことことおぼえおぼえおぼえてててをかしをかしをかしととと見見み給給たまへへえどどど、、、うちうちうちしきりしきりしきりててて遣遣つかわさささむむんももも人人ひとめめめつゝましけれつゝましけれつつましければばば、、、二三日二三日ふつかみかへだてへだてへだてつゝつゝつつ、、、つれづれつれづれつれづれなるなるなる夕暮夕暮ゆうぐれ、、、もしはもしはもしは物物もの哀哀あわれなるなるなる曙曙あけぼのなどなどなどやうやうようににに紛紛まぎらはしらはしらわしててて
- 11折々折々おりおり人人ひとももも同同おなじじじ心心こころににに見見み知知しりりりぬぬぬべきべきべき程程ほど推推おししし量量はかりりりてててかきかきかきかはしかはしかわし給給たまふふうににに似似にげなからげなからげなからずずず。。。
- 12心心こころ深深ふかくくく思思おもひひいあがりあがりあがりたるたるたる氣色氣色けしきももも見見みでででははは止止やまままじじじとととおぼすおぼすおぼすものものものからからから、、、良淸良淸よしきよががが、、、らうじらうじろうじててていひいひいいししし氣色氣色けしきももも目目めざましうざましうざましゅう、、、年頃年頃としごろ心心こころづけづけづけてててあらあらあらむむんををを目目めののの前前まえににに思思おもひひい違違たがへへえむむんもももいとほしういとほしういとおしゅう思思おもしししめぐらさめぐらさめぐらされれれててて、、、人人ひとすゝみすゝみすすみ參參まいらららばばばさるさるさる方方かたにてにてにてももも紛紛まぎらはしらはしらわしてててむむんととと覺覺おぼせせせどどど、、、
- 13女女おんなはははたたたなかなかなかなかなかなかやんごとなきやんごとなきやんごとなき際際きわののの人人ひとよりよりよりももも、、、いたういたういとう思思おもひひいあがりあがりあがりててて妬妬ねたげげげにににもてなしもてなしもてなし聞聞きこえええたれたれたればばば心心こころくらべくらべくらべにてにてにてぞぞぞ過過すぎぎぎけるけるける。。。
- 14京京きょうののの事事ことをををかくかくかくせきせきせき隔隔へだたりたりたりてててはははいよいよいよいよいよいよ覺束覺束おぼつかなくなくなく思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまひひいててて、、、いかにいかにいかにせせせましましまし戯戯たわぶれぶれぶれにくゝにくゝにくくもももあるあるあるかなかなかな、、、忍忍しのびびびてててややや迎迎むかへへえ奉奉たてまつりりりてててましましましととと思思おもししし弱弱よわるるる折々折々おりおりあれあれあれどどどさりともさりともさりともかくかくかくてててやややははは年年としををを重重かさねねねむむん、、、今今いま更更さらににに人人ひとわろきわろきわろき事事ことをををやややはははととと思思おもししししづめしづめしずめたりたりたり。。。
- 15そのそのその年年としおほやけおほやけおおやけににに物物もののののさとしさとしさとししきりしきりしきりててて物物ものさわがしきさわがしきさわがしき事事こと多多おおかりかりかり。。。三月三月やよい十三日十三日じゅうさんにち神神かみなりなりなりひらめきひらめきひらめき、、、雨風雨風あめかぜさわがしきさわがしきさわがしき夜夜よ、、、帝帝みかどののの御御おん夢夢ゆめににに院院いんののの帝帝みかどおまへおまへおまえのののみはしみはしみはしのののもともともとににに渡渡わたらららせせせ給給たまひひいててて御御おん氣色氣色けしきいといといと惡惡あしうしうしゅうててて睨睨にらみみみ聞聞きこえええさせさせさせ給給たまふふうををを、、、畏畏かしこまりまりまりててておはしますおはしますおわします。。。
- 16聞聞きこえええさせさせさせ給給たまふふう事事ことどもどもども多多おおかりかりかり。。。源氏源氏げんじののの御御おん事事ことどもどもどもなりなりなりけむけむけんかしかしかし。。。いとゞいとゞいとど恐恐おそろしうしうしゅういとほしいとほしいとおしととと思思おぼしししててて、、、后后きさきににに聞聞きこえええさせさせさせ給給たまひひいけれけれければばば「「「雨雨あめなどなどなどふりふりふり空空そら亂亂みだれれれたるたるたる夜夜よははは、、、思思おもひひいなしなしなしなるなるなる事事ことはははさささぞぞぞ侍侍はべるるる。。。かろがろしきかろがろしきかろがろしきやうやうようににに覺覺おぼししし驚驚おどろくくくまじきまじきまじき事事こと」」」ととと聞聞きこえええ給給たまふふう。。。
- 17睨睨にらみみみ給給たまひひいしししににに見見み合合あわせせせ給給たまふふうととと見見みしししけにけにけにややや、、、御目御目め煩煩わずらひひい給給たまひひいててて堪堪たへへえ難難がとううう惱惱なやみみみ給給たまふふう。。。御御おんつゝしみつゝしみつつしみ內內うちにににももも宮宮みやにににももも限限かぎりりりなくなくなくせせせさせさせさせ給給たまふふう。。。おほきおほきおおきおとゞおとゞおとどうせうせうせ給給たまひひいぬぬぬ。。。
- 18ことわりことわりことわりののの御御おん齡齡よわいなれなれなれどどど次々次々つぎつぎにににおのづからおのづからおのずから騷騷さわがしきしきしき事事ことあるあるあるににに大宮大宮おおみやもももそこはかとなうそこはかとなうそこはかとのう煩煩わずらひひい給給たまひひいててて程程ほど經經ふれれればばば弱弱よわりりり給給たまふふうやうやうようなるなるなる、、、內內うちににに思思おもししし歎歎なげくくく事事ことさまざまさまざまさまざまなりなりなり。。。
- 19猶猶なおこのこのこの源氏源氏げんじののの君君きみ誠誠まことににに犯犯おかすすすことことことなきなきなきにてにてにて、、、かくかくかくしづむしづむしずむならならならばばば、、、必必かならずずずこのこのこのむくいむくいむくいありありありなななむむんとととなむなむなん覺覺おぼえええ給給たまふふう。。。今今いまははは猶猶なおもともともとののの位位くらいをををももも給給たまひひいてててむむんととと度々度々たびたびおぼしおぼしおぼしののの給給たまふふうををを
- 20「「「世世よのののもどきもどきもどきあはあはしきあはあはしきあわあわしきやうやうようなるなるなるべしべしべし。。。罪罪つみににに落落おちちちててて都都みやこををを去去さりりりししし人人ひとをををみとせみとせみとせをををだにだにだにすぐさすぐさすぐさずずず許許ゆるささされれれむむんことことことははは世世よののの人人ひともももいかゞいかゞいかが言言いひひい傳傳つたへへえ侍侍はべらららむむん」」」などなどなど后后きさき固固かとううう諫諫いさめめめ給給たまふふうにににおぼしおぼしおぼしはゞかるはゞかるはばかる程程ほどににに月日月日つきひかさなりかさなりかさなりててて、、、御御おんなやみなやみなやみどもどもどもさまざまさまざまさまざまににに重重おもりりり增增まさらららせせせ給給たまふふう。。。
現代語訳
入道は、願いがようやくかないそうな気持ちがして、すがすがしく思っていると、翌日の昼ごろ、源氏は岡辺の家にお手紙をお遣わしになる。こちらが気後れするような人のようだから、かえってこのような思いがけない所に、意外な人が隠れているものなのだろうと、心づかいをなさって、高麗の胡桃色の紙に、格別に念を入れて、「遠くも近くもわからない旅の空で物思いにふけりかねて、入道がほのめかした宿の梢を訪ねるのです。思う心には」とだけ書いてあったのだろうか。
入道も、人知れずお待ち申し上げようとして、あの岡辺の家に来ていたのもそのとおりで、お使いをまばゆいほどに酔わせる。ご返事はたいそう時間がかかる。入道が中に入って促すが、娘はまったく聞き入れない。たいそうこちらが恥ずかしくなるようなお手紙の様子に、返事を差し出す手つきも恥ずかしく気がひけて、源氏のご身分と自分の身のほどを思うと、比べものにならないので、気分が悪いと言って横になってしまった。
入道は言いあぐねて、自分で書く。「たいそう恐れ多いお手紙は、田舎びた娘の袂には包みきれないのでしょうか、まったく拝見することもできないほどの恐れ多さでございます。けれども、あなたが眺めていらっしゃるのと同じ空を眺めている娘は、思いも同じ思いでございましょう、と拝見いたします。たいそう色めいたことで」と申し上げた。陸奥紙に、たいそう古風ではあるが、書きぶりは由緒ありげである。本当に色好みなことだと、あきれてご覧になる。お使いには、並々でない女の装束などをかずけた。
翌日、源氏は「代筆の手紙は、まだ見たことがありません」と言って、「気がふさぐほど、心に物思いをして悩むことよ。『どうですか』と尋ねてくれる人もいないので。言いにくいので」と、今度はたいそうしなやかな薄様に、たいそう美しくお書きになった。若い女性が感動しないとしたら、あまりにも引っ込み思案すぎるだろう。
すばらしいとは思うが、比べものにならない身のほどが、たいそうどうしようもないので、かえってこの世に生きている者として尋ね知ってくださるにつけても涙ぐまれて、まったくいつものように書こうとしないのを、入道に責め立てられて、深く香をたきしめた紫の紙に、墨の色を濃く薄くまぎらわして、
「思っていらっしゃるというお心のほどは、さあどれほどでしょう。まだ見たこともない人が、噂を聞いただけで悩んだりするものでしょうか」。筆跡や書きぶりなどは、高貴な人にもたいして劣らないほど上手である。源氏は、京のことが思い出されて、趣深いとご覧になるが、しきりに手紙を送るのも人目がはばかられるので、二、三日おきに、所在ない夕暮れや、しみじみとした明け方などのように、それとなく、折々、相手も同じ気持ちで情趣を解するだろう時を推し量って、手紙を交わしなさると、似つかわしくなくはない。
源氏は、心深く気位の高い様子を、会って見ないではすまないとお思いになるものの、良清が自分のものと言っていた様子も心外で、長年思いをかけていただろう女を、目の前で横取りするのも気の毒だと思いめぐらされて、相手の方から進んで参上するならば、そういうことにしてまぎらわそうとお思いになるが、
女はまた、かえって高貴な身分の人よりも、ひどく気位が高く、憎らしいほどの態度をとり申し上げているので、互いに意地の張り合いで過ぎていった。
京のことを、このように関を隔てて遠く離れると、いっそう気がかりにお思い申し上げなさって、どうしよう、冗談ではすまないことだ、こっそりと紫の上をお迎えしようかと、気弱になられる時々もあるが、それでも、このまま何年も過ごすことがあろうか、今さら体裁の悪いことをしようかと、思いとどまっていらっしゃった。
その年、朝廷では物のさとしがしきりにあって、騒がしいことが多かった。三月十三日、雷が鳴りひらめき、雨風が騒がしい夜、帝の御夢に、院の帝が御前の階段の下にお立ちになって、ご機嫌がたいそう悪く、にらみ申し上げなさるので、帝はかしこまっていらっしゃる。院は、申し上げなさることが多かった。源氏のことなどであったのだろう。
帝はたいそう恐ろしく、気の毒だとお思いになって、大后に申し上げなさると、大后は「雨などが降って空の荒れた夜は、思いこんでいることがそのように見えるものです。軽々しくお驚きになってはいけません」と申し上げなさる。
にらまれなさった時に目が合ったと見たせいか、帝はお目をわずらいなさって、耐えがたくお苦しみになる。御物忌みを、内裏でも大后の宮でも、この上なくおさせになる。太政大臣(もとの右大臣)が亡くなった。当然のお年ではあるが、次々と自然に騒がしいことがあるうえに、大宮(大后)も何となくわずらいなさって、日がたつにつれて弱っていかれるようなので、帝は内心さまざまにお嘆きになる。
やはりこの源氏の君が、本当に罪を犯したわけでもないのに、このように沈んでいるのなら、必ずこの報いがあるだろうとお思いになる。今はやはり、もとの位をお返しになろうと、たびたびお考えになりおっしゃるが、
大后は「世間の非難を受けて、軽々しいことのようでしょう。罪に当たって都を去った人を、三年も過ぎないうちに許されることは、世間の人もどのように言い伝えるでしょう」などと、かたくお諫めになるので、帝がためらっていらっしゃるうちに月日が重なって、ご病気などが、さまざまに重くおなりになる。
意訳
源氏は明石の君に文を送るが、明石の君は身分の差を恥じて返事を書かず、入道が代筆する。源氏が重ねて文を送ると、明石の君はようやく返歌する。その筆跡は都の高貴な人にも劣らない。二人は、互いに気位を張り合って文を交わし続ける。
一方、都では天変地異が続き、朱雀帝の夢に故桐壺院が現れて睨む。帝は目を患い、太政大臣は亡くなり、大后も病む。帝は源氏を許そうとするが、大后に反対される。
語釈・文法注
- せんじがき
- 宣旨書き(せんじがき)。本人に代わって、他人が書いた手紙。代筆。
文法
- 反語の「やは」(かくてやは年を重ねむ)
- 「このまま何年も過ごすことがあろうか、いや、ない」。
- 強意+推量の「てむ」(給ひてむ)
- 「きっとお返しになろう」。
和歌
をちこちも知らぬ雲居にながめわびかすめし宿の梢をぞとふ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 岡辺の家の明石の君に初めて送った歌。遠くも近くもわからない旅の空で物思いにふけりかねて、入道がほのめかした宿の梢を訪ねるのです。
ながむらむ同じ雲居をながむるは思ひもおなじおもひなるらむ
- 詠者
- 明石の入道(代筆)
- 状況
- 返事をしない娘に代わって、入道が書いた歌。あなたが眺めていらっしゃるのと同じ空を眺めている娘は、思いも同じ思いでございましょう。
いぶせくも心にものをなやむかなやよやいかにと問ふ人もなみ
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 代筆の返事を受けて、重ねて送った歌。気がふさぐほど、心に物思いをして悩むことよ。「どうですか」と尋ねてくれる人もいないので。
思ふらむ心のほどややよいかにまだ見ぬ人の聞きかなやまむ
- 詠者
- 明石の君
- 状況
- 源氏への初めての返歌。思っていらっしゃるというお心のほどは、さあどれほどでしょう。まだ見たこともない人が、噂を聞いただけで悩んだりするものでしょうか。
解説
明石の君は、源氏からの文に容易には応じない。身分の差を自覚するがゆえに、かえって気位を高く保とうとする明石の君の姿は、物語の中でも独特の魅力を持っている。二人の関係は「心くらべ」、すなわち意地の張り合いとして描かれる。
都では、故桐壺院の霊が朱雀帝の夢に現れ、源氏の召還を促す。須磨の嵐の夜に院が源氏に告げた「内裏に奏すべき事」とは、このことであった。帝の目の病、太政大臣の死、大后の病と、右大臣方に災いが続く。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、268–271頁(コマ137–138)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日