源氏物語 第13帖 明石(7)
入道の打ち明け話
夜更け、入道はついに娘のことを打ち明ける。住吉の神に十八年祈り続け、娘を都の高貴な人に差し上げたいと願ってきた。もし源氏に見捨てられたら、海に身を投げよと娘に言い置いていると、泣きながら語る。源氏は、自分が明石に来たのもこの縁のためかと感じ入り、娘を慰めにしたいと言う。入道と源氏は、明石の寂しさを詠む歌を交わす。

- 1いたくいたくいたく更更ふけけけ行行ゆくくくまゝまゝままににに、、、松風松風まつかぜ涼涼すずしうしうしゅうててて、、、月月つきももも入方入方いりがたににになるなるなるまゝまゝままににに、、、すみすみすみまさりまさりまさりててて靜靜しずかなるなるなるほどほどほどににに御御おん物語物語ものがたりのこりのこりのこりなくなくなく聞聞きこえええててて、、、このこのこの浦浦うらににに住住すみみみ始始はじめめめししし程程ほどののの心心こころづかひづかひづかい後後のちののの世世よをををつとむるつとむるつとむるさまさまさまかきかきかきくづしくづしくずし聞聞きこえええてててこのこのこのむすめむすめむすめのののありさまありさまありさま問問とはははずずずがたりがたりがたりににに聞聞きこゆゆゆ。。。
- 2をかしきをかしきおかしきものものものゝゝのさすがさすがさすがににに哀哀あわれととと聞聞きききき給給たまふふうふしぶしふしぶしふしぶしもももありありあり。。。「「「いといといととりとりとり申申もうししし難難がたききき事事ことなれなれなれどどどわがわがわが君君きみかうかうこうおぼえおぼえおぼえなきなきなき世界世界せかいににに假假かりにてにてにてもももうつろひうつろひうつろいおはしましおはしましおわしましたるたるたるははは若若もししし年頃年頃としごろおいぼうしおいぼうしおいぼうしののの祈祈いのりりり申申もうししし侍侍はべるるる神神かみほとけほとけほとけののの憐憐あわれびびびおはしましおはしましおわしましててて、、、暫暫しばしししののの程程ほど御心御心みこころをををももも惱惱なやまししし奉奉たてまつるるるにににやややとととなむなむなん思思おもううう給給たまふるふるうる。。。
- 3そのそのその故故ゆえははは住吉住吉すみよしののの神神かみををを賴賴たのみみみ始始はじめめめ奉奉たてまつりりりてててこのこのこの十八年十八年じゅうはちねんににになりなりなり侍侍はべりりりぬぬぬ。。。めめめのののわらはわらはわらわのののいときなういときなういときのう侍侍はべりりりしししよりよりより思思おもふふう心心こころ侍侍はべりりりててて、、、年頃年頃としごろののの春秋春秋はるあきごとごとごとにににかのかのかのみやしろみやしろみやしろににに參參まいるるることことことなむなむなん侍侍はべるるる。。。
- 4ひるひるひるよるよるよるののののののつとめつとめつとめにににみづからみづからみずからのののはちすはちすはちすののの上上うえののの願願ねがひひいをををばばばさるさるさる物物ものにてにてにて、、、唯唯ただこのこのこの人人ひとををを高高たかきききほいほいほいかなへかなへかなえ給給たまへへえとととなむなむなん念念ねんじじじ侍侍はべるるる。。。さきさきさきののの世世よののの契契ちぎりつたなくつたなくつたなくてててこそこそこそかくかくかく口惜口惜くちおしきしきしき山山やまがつがつがつとととなりなりなり侍侍はべりりりけめけめけめ。。。
- 5おやおやおやおとゞおとゞおとどののの位位くらいををを保保たもちちち給給たまへへえりりりききき。。。自自みずからららかくかくかく田舍田舍いなかののの民民たみとととなりなりなりててて侍侍はべりりり。。。次々次々つぎつぎさささのみのみのみ劣劣おとりりりまからまからまからむむんははは何何なにののの身身みにににかかかなりなりなり侍侍はべらららむむんととと悲悲かなしくしくしく思思おもひひい侍侍はべるるるををを、、、これこれこれははは生生うまれれれししし時時ときよりよりより賴賴たのむむむ所所ところなむなむなん侍侍はべるるる。。。
- 6いかにいかにいかにしししててて都都みやこのののたかきたかきたかき人人ひとににに奉奉たてまつらららむむんととと思思おもふふう心心こころ深深ふかきききににによりよりより、、、ほどほどほどほどほどほどにににつけつけつけてててあまたあまたあまたののの人人ひとのののそねみそねみそねみををを負負おひひい、、、身身みのののためためためからきからきからきめめめををを見見みるるる折々折々おりおりももも多多おおくくく侍侍はべれれれどどど更更さらににに苦苦くるしみみみととと思思おもひひい給給たまへへえずずず。。。
- 7命命いのちののの限限かぎりはははせばきせばきせばき袖袖そでにににもももはぐゝみはぐゝみはぐくみ侍侍はべりりりなななむむん。。。かくかくかくながらながらながら見見み棄棄すててて侍侍はべりりりなななばばば海海うみののの中中なかにににもももまじりまじりまじり失失うせせせねねねとととなむなむなんおきおきおきててて侍侍はべるるる」」」などなどなどすべてすべてすべてまねぶまねぶまねぶべくべくべくもももあらあらあらぬぬぬ事事ことどもどもどもをををうちうちうち泣泣なきききうちうちうちなきなきなき聞聞きこゆゆゆ。。。
- 8君君きみももも物物ものをををさまざまさまざまさまざまおぼしおぼしおぼし續續つづくるくるくるをりをりおりからからからはははうちうちうち淚淚なみだぐみぐみぐみつゝつゝつつ聞聞きこしししめすめすめす。。。「「「横横よこさまさまさまののの罪罪つみにににあたりあたりあたりててて思思おもひひいがけがけがけぬぬぬ世界世界せかいににに漂漂ただよふふうももも何何なにののの罪罪つみにににかかかととと覺束覺束おぼつかなくなくなく思思おもひひいつるつるつるををを、、、こよひこよひこよいののの御御おん物語物語ものがたりにににこそこそこそはははとととあはれあはれあわれににになむなむなん。。。
- 9などなどなどかかかはははかくかくかくさだかさだかさだかににに思思おもひひい知知しりりり給給たまひひいけるけるけることことことををを今今いままでまでまでははは告告つげげげ給給たまははわざりざりざりつつつらむらむらん。。。都都みやこ離離はなれれれししし時時ときよりよりより世世よののの常常つねなきなきなきもももあぢきなうあぢきなうあじきのうおこなひおこなひおこないよりよりより外外ほかのののことことことなくなくなくててて月日月日つきひををを經經ふるるるににに心心こころももも皆皆みなくづほれくづほれくずおれにににけりけりけり。。。
- 10かゝるかゝるかかる人人ひとものものものししし給給たまふふうとととはははほのほのほの聞聞ききききながらながらながらいたづらいたづらいたずら人人びとをををばばばゆゝしきゆゝしきゆゆしきものものものにににこそこそこそ思思おもひひい捨捨すててて給給たまふふうらめらめらめととと思思おもひひいくしくしくしつるつるつるををを、、、さらばさらばさらば導導みちびききき給給たまふふうべきべきべきにににこそこそこそあああなれなれなれ。。。心心こころぼそきぼそきぼそき獨寢獨寢ひとりねのののなぐさめなぐさめなぐさめにににももも」」」などなどなどののの給給たまふふうをををかぎりかぎりかぎりなくなくなく嬉嬉うれしししととと思思おもへへえりりり
- 11「「「ひとりねひとりねひとりねははは君君きみもももしりしりしりぬぬぬやややつれづれつれづれつれづれととと思思おもひひいあかしあかしあかしののの浦浦うらさびしささびしささびしさををを。。。ましてましてまして年月年月としつき思思おもひひい給給たまへへえわたるわたるわたるいぶせさいぶせさいぶせさをををおしおしおしはからはからはからせせせ給給たまへへえ」」」ととと聞聞きこゆるゆるゆるけはひけはひけわいうちうちうちわなゝきわなゝきわななきたれたれたれどどど、、、さすがさすがさすがにににゆゑゆゑゆえなからなからなからずずず。。。
- 12「「「されどされどされど浦浦うらなれなれなれたらたらたらむむん人人ひとははは」」」とととててて「「「旅衣旅衣たびごろもうらうらうらかなしさかなしさかなしさにににあかしあかしあかしかねかねかね草草くさのののまくらまくらまくらはははゆめゆめゆめもももむすばむすばむすばずずず」」」とととうちうちうち亂亂みだれれれ給給たまへへえるるる御御おんさまさまさまはははいといといとぞぞぞ愛敬愛敬あいきょうづきづきづきいふいふいうよしよしよしなきなきなき御御おんけはひけはひけわいなるなるなる。。。
- 13數數かず知知しらららぬぬぬ事事ことどもどもども聞聞きこえええ盡盡つくしししたれたれたれどどどうるさしうるさしうるさしややや。。。ひがことひがことひがことどもどもどもにににかきかきかきなしなしなしたれたれたればばばいとゞいとゞいとどをこをこおこにににかたくなしきかたくなしきかたくなしき入道入道にゅうどうののの心心こころばへばへばえももも顯顯あらわれれれぬぬぬべかべかべかめりめりめり。。。
現代語訳
たいそう夜が更けていくにつれて、松風が涼しく、月も沈みかけるにつれて、いっそう澄みまさって静かな時に、入道はお話を残りなく申し上げて、この浦に住み始めたころの心づもりや、来世のために勤めている様子を、少しずつ申し上げて、この娘の有り様を、問わず語りに申し上げる。おかしいと思いながらも、さすがにしみじみとお聞きになるところどころもある。
「たいそう申し上げにくいことですが、あなた様がこのように思いがけない土地に、仮にもお移りになりましたのは、もしかすると、長年この老法師がお祈り申し上げております神仏がお憐れみになって、しばらくの間お心を悩ませ申し上げているのではないかと存じます。そのわけは、住吉の神をお頼み申し始めて、今年で十八年になりました。
娘が幼うございましたころから、思うところがございまして、毎年春秋ごとに、あの住吉の社に参詣いたしております。昼夜六時の勤行で、自分の極楽往生の願いはさておき、ただこの娘を高い望みをかなえさせてくださいと祈っております。前世の宿縁がつたなくて、このように残念な山里の者となったのでございましょう。
親は大臣の位を保っておりました。私自身はこのように田舎の民となっております。子孫が次々とこのように落ちぶれていったら、どんな身の上になるのだろうと悲しく思っておりましたが、この娘は生まれた時から頼みにするところがございます。何とかして都の高貴な方に差し上げたいと思う心が深いので、身分相応に多くの人のねたみを受け、つらい目にあう時も多うございましたが、まったく苦しみとは思いません。
命のある限りは、狭い袖でも育てましょう。このまま私が先立ちましたら、海の中にでも身を投げてしまえと言い置いております」など、とても書き記せないようなことを、泣く泣く申し上げる。
源氏も、さまざまに思い続けていらっしゃる折なので、涙ぐみながらお聞きになる。「理不尽な罪に当たって、思いがけない土地にさすらっているのも、何の罪のためかと不審に思っていたが、今夜のお話で、そのわけがわかったと、しみじみと思います。どうして、このようにはっきりとわかっていらっしゃったことを、今まで告げてくださらなかったのか。
都を離れた時から、世の無常もつまらなく思い、勤行のほかのことはせずに月日を過ごしてきたので、心もすっかりくじけてしまった。このような方がいらっしゃるとはほのかに聞いていたが、私のような落ちぶれた者を、縁起でもないと思い捨てていらっしゃるだろうと気がくじけていたが、それならば導いてくださるのですね。心細い独り寝の慰めにも」などとおっしゃるのを、入道はこの上なくうれしく思った。
入道は「独り寝のつらさは、あなたもおわかりになったでしょうか。所在なく物思いに夜を明かす、明石の浦の寂しさを。まして長年思い続けてまいりました私のもどかしさを、お察しください」と申し上げる様子は、身を震わせているが、さすがに趣がなくはない。
源氏は「それでも、浦に住み慣れた人は」と言って、「旅の身の心悲しさに、夜を明かしかねて、草の枕では夢も結ばないことです」と、くつろいでいらっしゃるご様子は、たいそう愛嬌があって、言いようもないほどすばらしい。
入道は数知れないことを申し上げ尽くしたが、書くのは煩わしいことだ。間違ったことばかりを書いたので、いっそう愚かで頑固な入道の気性も表れてしまったことだろう。
意訳
夜更け、入道はついに娘のことを打ち明ける。住吉の神に十八年祈り続け、娘を都の高貴な人に差し上げたいと願ってきた。もし自分が先に死んだら、海に身を投げよと娘に言い置いていると、泣きながら語る。
源氏は、自分が理不尽な罪で明石に来たのも、この縁のためだったのかと感じ入り、娘を独り寝の慰めにしたいと言う。入道と源氏は、明石の夜の寂しさを詠む歌を交わす。
語釈・文法注
- 六時のつとめ
- 一日を晨朝・日中・日没・初夜・中夜・後夜の六つに分け、それぞれの時刻に行う勤行。
文法
- 疑問の「にや」(惱し奉るにや)
- 「お悩ませ申し上げているのではないか」。下に「あらむ」が省略されている。
- 反語の「などかは…らむ」(などかは…告げ給はざりつらむ)
- 「どうして今まで告げてくださらなかったのか」。
和歌
ひとりねは君もしりぬやつれづれと思ひあかしの浦さびしさを
- 詠者
- 明石の入道
- 状況
- 源氏が「心細い独り寝の慰めにも」と言ったのに答えた歌。独り寝のつらさは、あなたもおわかりになったでしょうか。所在なく物思いに夜を明かす、明石の浦の寂しさを。
修辞
- 掛詞
- 「あかし」に「明かし(夜を明かす)」と地名の「明石」をかける。
旅衣うらかなしさにあかしかね草のまくらはゆめもむすばず
- 詠者
- 光源氏
- 状況
- 入道への返歌。旅の身の心悲しさに、夜を明かしかねて、草の枕では夢も結ばない(眠れない)ことです。
修辞
- 掛詞
- 「うら」に「裏(衣の)」と「心(うら)」、「あかし」に「明かし」と「明石」をかける。
解説
入道の打ち明け話は、明石の巻の中心をなす場面である。入道は、大臣の家に生まれながら田舎に下った自分の境遇を嘆き、娘の高い宿縁にすべてを賭けてきた。その執念は、住吉の神への十八年にわたる祈りに表れている。
源氏は、須磨・明石への流離が、明石の君との縁を結ぶための運命だったと受けとめる。物語は、源氏の苦難を、新たな運命への道筋として意味づけていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、266–269頁(コマ136–137)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日