古典ライブラリー

源氏物語 第13帖 明石(2)

落雷と故院の夢

登場人物:光源氏・桐壺院

翌日の明け方から嵐はさらに激しくなり、人々は死を覚悟して神仏に祈る。源氏は住吉の神に願を立て、供人たちは源氏の身代わりになろうと叫ぶ。ついに雷が廊に落ちて焼け、源氏は大炊殿に移る。夜、疲れてまどろんだ源氏の夢に故桐壺院が現れ、住吉の神の導きに従って須磨を去れと告げ、内裏に奏上することがあると言って去っていく。

嵐の去った須磨の夜、源氏の夢に故桐壺院が現れ、その身を案じて語りかける場面(AI生成)
嵐の去った須磨の夜、源氏の夢に故桐壺院が現れ、その身を案じて語りかける場面
  1. 1かくかくかくしししつゝつゝつつ世よ世よよははは盡つ盡つつきききぬぬぬべきべきべきにににやややととと思おぼ思おぼおぼさささるゝるゝるるにににそのそのその又また又またまたののの日ひ日ひひののの曉あかつき曉あかつきあかつきよりよりより風かぜ風かぜかぜいみじういみじういみじゅう吹ふ吹ふふききき潮しほ潮しほしお高たか高たかたこううう滿み滿みみちちちててて浪なみ浪なみなみののの音おと音おとおとあらきあらきあらきことことこと嚴いは嚴いはいわほほおももも山やま山やまやまももも殘のこ殘のこのこるるるまじきまじきまじき氣色けしき氣色けしきけしきなりなりなり。。。
  2. 2神かみ神かみかみののの鳴な鳴ななりりり閃ひらめ閃ひらめひらめくくくさまさまさま更さら更さらさらにににいはいはいわむむんかたかたかたなくなくなくててて落お落おおちちちかゝりかゝりかかりぬぬぬとととおぼゆるおぼゆるおぼゆるににに有あ有ああるるるかぎりかぎりかぎりさかしきさかしきさかしき人ひと人ひとひとなしなしなし。。。「「「我わ我わわはははいかなるいかなるいかなる罪つみ罪つみつみををを犯をか犯をかおかしししてててかくかくかく悲かな悲かなかなしきしきしきめめめををを見み見みみるるるらむらむらん。。。父母ちちはは父母ちちははちちははにににもももあひあひあい見み見みみずずず悲かな悲かなかなしきしきしきめこめこめこののの顏かほ顏かほかおをををももも見み見みみででで死し死ししぬぬぬべきべきべきことことこと」」」とととなげくなげくなげく。。。
  3. 3君きみ君きみきみははは御心みこころ御心みこころみこころをををしづめしづめしずめててて、、、何なに何なになにばかりばかりばかりのののあやまちあやまちあやまちにてにてにてかかかこのこのこの渚なぎさ渚なぎさなぎさににに命いのち命いのちいのちをををばばば極きは極きはきわめめめむむんととと、、、强つよ强つよつようううおぼしおぼしおぼしなせなせなせどどどいといといと物もの物ものものさわがしけれさわがしけれさわがしければばばいろいろいろいろいろいろのののみてぐらみてぐらみてぐら捧ささ捧ささささげげげさせさせさせ給たま給たまたまひひいててて、、、
  4. 4「「「住吉すみよし住吉すみよしすみよしののの神かみ神かみかみ近ちか近ちかちかききき境さかひ境さかひさかいをををしづめしづめしずめ守まも守まもまもりりり給たま給たまたまへへえまことまことまことににに跡あと跡あとあとををを垂た垂たたれれれ給たま給たまたまふふう神かみ神かみかみならならならばばば助たす助たすたすけけけ給たま給たまたまへへえ」」」ととと多おほ多おほおおくくくののの大願だいぐわん大願だいぐわんだいがんををを立た立たたててて給たま給たまたまふふう。。。
  5. 5おのおのおのおのおのおの自みづか自みづかみずからららののの命いのち命いのちいのちをををばばばさるさるさるものものものにてにてにてかゝるかゝるかかる御身おほんみ御身おほんみおおんみのののまたまたまたなきなきなき例ためし例ためしためしににに沈しづ沈しづしずみみみ給たま給たまたまひひいぬぬぬべきべきべきことことことのののいみじういみじういみじゅう悲かな悲かなかなしきしきしきににに心こころ心こころこころををを起おこ起おこおこしししててて少すこ少すこすこししし物もの物ものもの覺おぼ覺おぼおぼゆるゆるゆるかぎりかぎりかぎりははは「「「身み身みみををを代か代かかへへへてててこのこのこの御身おほんみ御身おほんみおおんみ一ひと一ひとひとつつつををを救すく救すくすくひひい奉たてまつ奉たてまつたてまつらららむむん」」」ととととよみとよみとよみててて諸聲もろごゑ諸聲もろごゑもろごえにににほとけほとけほとけ神かみ神かみかみををを念ねん念ねんねんじじじ奉たてまつ奉たてまつたてまつるるる。。。
  6. 6「「「帝王ていわう帝王ていわうていおうののの深ふか深ふかふかききき宮みや宮みやみやににに養やしな養やしなやしなははわれれれ給たま給たまたまひひいててていろいろいろいろいろいろのののたのしみたのしみたのしみににに驕おご驕おごおごりりり給たま給たまたまひひいしかしかしかどどど深ふか深ふかふかききき御おん御おんおんうつくしみうつくしみうつくしみ大八洲おほやしま大八洲おほやしまおおやしまににに普あまね普あまねあまねくくく沈しづ沈しづしずめめめるるるともがらともがらともがらをををこそこそこそ多おほ多おほおおくくくうかべうかべうかべ給たま給たまたまひひいしかしかしか。。。今いま今いまいま何なに何なになにのののむくいむくいむくいにににかかかこゝらこゝらここら橫よこ橫よこよこさまさまさまなるなるなる波風なみかぜ波風なみかぜなみかぜにににはははおぼゝれおぼゝれおぼおれ給たま給たまたまははわむむん。。。
  7. 7天地あめつち天地あめつちあめつちことわりことわりことわり給たま給たまたまへへえ。。。罪つみ罪つみつみなくなくなくててて罪つみ罪つみつみにににあたりあたりあたり、、、つかさつかさつかさくらゐくらゐくらいををを取と取ととららられれれ家いへ家いへいえををを離はな離はなはなれれれ境さかひ境さかひさかいををを去さ去ささりりりててて明暮あけくれ明暮あけくれあけくれ安やす安やすやすききき空そら空そらそらなくなくなく歎なげ歎なげなげききき給たま給たまたまふふうににに、、、かくかくかく悲かな悲かなかなしきしきしきめめめをををさへさへさへ見み見みみ、、、命いのち命いのちいのち盡つく盡つくつくさささなななむむんとととするするするははは前さき前さきさきののの世よ世よよのののむくいむくいむくいかかか、、、このこのこの世よ世よよのののをかしをかしをかしかかか、、、神かみ神かみかみほとけほとけほとけ明あきらか明あきらかあきらかにににましまさましまさましまさばばばこのこのこのうれへうれへうれえやめやめやめ給たま給たまたまへへえ」」」
  8. 8とととみみみ社やしろ社やしろやしろののの方かた方かたかたににに向む向むむきききてててさまざまさまざまさまざまののの願ぐわん願ぐわんがんををを立た立たたててて、、、又また又またまた海うみ海うみうみののの中なか中なかなかのののりうわうりうわうりゅうおう、、、萬よろづ萬よろづよろずののの神かみ神かみかみたちたちたちににに願ぐわん願ぐわんがんたてたてたてさせさせさせ給たま給たまたまふふうにににいよいよいよいよいよいよ鳴な鳴ななりりり轟とどろ轟とどろとどろきききててておはしますおはしますおわしますににに續つづ續つづつづきききたるたるたる廊らう廊らうろうににに落お落おおちちちかゝりかゝりかかりぬぬぬ。。。
  9. 9ほのほほのほほのお燃も燃ももえええあがりあがりあがりててて廊らう廊らうろうははは燒や燒ややけけけぬぬぬ。。。こゝろこゝろこころたましひたましひたましいなくなくなくてててあるあるあるかぎりかぎりかぎり惑まど惑まどまどふふう。。。うしろうしろうしろののの方かた方かたかたなるなるなる大炊おほひ大炊おほひおおいとととおぼしきおぼしきおぼしき屋や屋ややににに移うつ移うつうつししし奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりててて上下かみしも上下かみしもかみしもとととなくなくなく立た立たたちちち込こ込ここみみみててていといといとらうがはしくらうがはしくろうがわしく泣な泣ななきききとよむとよむとよむ聲こゑ聲こゑこえいかづちいかづちいかずちにににももも劣おと劣おとおとらららずずず。。。空そら空そらそらははは墨すみ墨すみすみをををすりすりすりたるたるたるやうやうようにてにてにて日ひ日ひひももも暮く暮くくれれれにににけりけりけり。。。
  10. 10やうやうやうやうようよう風かぜ風かぜかぜなほりなほりなおり雨あめ雨あめあめのののあしあしあししめりしめりしめり星ほし星ほしほしののの光ひかり光ひかりひかりももも見み見みみゆるゆるゆるにににこのこのこのおましどころおましどころおましどころのののいといといと珍めづ珍めづめずらからからかなるなるなるもももいといといとかたじけなくかたじけなくかたじけなくててて、、、寢殿しんでん寢殿しんでんしんでんにににかへしかへしかへし移うつ移うつうつししし奉たてまつ奉たてまつたてまつらららむむんとととするするするににに燒や燒ややけけけ殘のこ殘のこのこりりりたるたるたる方かた方かたかたもももうとましげうとましげうとましげにににそこらそこらそこらののの人ひと人ひとひとののの蹈ふ蹈ふふみみみ轟とどろか轟とどろかとどろかししし惑まど惑まどまどへへえるるるにににみすみすみすなどなどなどももも皆みな皆みなみな吹ふ吹ふふきききちらしちらしちらしてててけりけりけり。。。
  11. 11夜よ夜よよををを明あか明あかあかしししてててこそこそこそはははとととたどりたどりたどりあへあへあえるるるににに君きみ君きみきみははは御おん御おんおんねんずねんずねんずししし給たま給たまたまひひいててておぼしおぼしおぼしめぐらすめぐらすめぐらすにににいといといと心こころ心こころこころあわたゞしあわたゞしあわただし。。。月つき月つきつきさしさしさし出い出いいででで潮しほ潮しほしおののの近ちか近ちかちかくくく滿み滿みみちちちけるけるけるあとあとあともももあらはあらはあらわににに名殘なごり名殘なごりなごり猶なほ猶なほなお寄よ寄よよせせせかへるかへるかえる浪なみ浪なみなみ荒あら荒あらあらきききををを柴しば柴しばしばののの戶と戶とと押お押おおしししあけあけあけててて詠なが詠ながながめめめおはしますおはしますおわします。。。
  12. 12近ちか近ちかちかききき世界せかい世界せかいせかいににに物もの物ものものののの心こころ心こころこころををを知し知ししりりり、、、きしきしきし方かた方かたかた行ゆ行ゆゆくくくさきさきさきののの事こと事ことことうちうちうちおぼえおぼえおぼえ、、、とやかくやとやかくやとやかくやとととはかばかしうはかばかしうはかばかしゅう悟さと悟さとさとるるる人ひと人ひとひともももなしなしなし。。。あやしきあやしきあやしき海士あま海士あまあまどもどもどもなどなどなどののの、、、たかきたかきたかき人ひと人ひとひとおはするおはするおわする所ところ所ところところとととててて集あつま集あつまあつまりりり參まゐ參まゐまいりりりててて聞き聞きききききももも知し知ししりりり給たま給たまたまははわぬぬぬ事こと事ことことどもどもどもををを囀さへづ囀さへづさえずりりりあへあへあえるるるもももいといといと珍めづ珍めづめずらからからかなれなれなれどどどえええ追お追おおひひいももも拂はら拂はらはらははわずずず。。。
  13. 13「「「このこのこの風かぜ風かぜかぜ今いま今いまいま暫しば暫しばしばしししやまやまやまざらざらざらましかましかましかばばば潮しほ潮しほしおのぼりのぼりのぼりててて殘のこ殘のこのこるるる所ところ所ところところなからなからなからましましまし、、、神かみ神かみかみののの助たす助たすたすけけけおろかおろかおろかならならならざりざりざりけりけりけり」」」ととといふいふいうををを聞き聞ききききき給たま給たまたまふふうもももいといといと心こころ心こころこころ細ぼそ細ぼそぼそしししととといへいへいえばばばおろかおろかおろかなりなりなり「「「海うみ海うみうみにににますますます神かみ神かみかみのののたすけたすけたすけにににかゝらかゝらかからずずずははは鹽しほ鹽しほしおのののやほあひやほあひやおあいにににさすらへさすらへさすらえなななましましまし」」」。。。
  14. 14ひねもすひねもすひねもすにににいりいりいりもみもみもみつるつるつる風かぜ風かぜかぜののの騷さわ騷さわさわぎぎぎににに、、、さささこそこそこそいへいへいえ、、、いたういたういとうこうじこうじこうじ給たま給たまたまひひいにににけれけれければばば心こころ心こころこころにににもももあらあらあらずずずうちうちうちまどろみまどろみまどろみ給たま給たまたまふふう。。。かたじけなきかたじけなきかたじけなきおましどころおましどころおましどころなれなれなればばばたゞたゞただ寄よ寄よよりりり居ゐ居ゐい給たま給たまたまへへえるるるににに故こ故ここ院ゐん院ゐんいん唯ただ唯ただただおはしましおはしましおわしましゝゝしさまさまさまながらながらながら立た立たたちちち給たま給たまたまひひいててて、、、
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  17. 17「「「いといといとあるあるあるまじきまじきまじきことことこと。。。これこれこれははは唯ただ唯ただただいさゝかいさゝかいささかなるなるなるものものものゝゝのむくいむくいむくいなりなりなり。。。我わ我わわははは位くらゐ位くらゐくらいにににありありありししし時とき時ときとき、、、過あやま過あやまあやまつつつことことことなかりなかりなかりしかしかしかどどど、、、おのづからおのづからおのずからをかしをかしをかしありありありけれけれければばばそのそのその罪つみ罪つみつみををを終を終をおふるふるうる程ほど程ほどほどいとまいとまいとまなくなくなくててて、、、このこのこの世よ世よよをををかへりみかへりみかえりみざりざりざりつれつれつれどどど、、、
  18. 18いみじきいみじきいみじき憂うれへ憂うれへうれえににに沈しづ沈しづしずむむむををを見み見みみるるるににに堪た堪たたへへえ難がた難がたがたくくくててて海うみ海うみうみににに入い入いいりりり渚なぎさ渚なぎさなぎさにににのぼりのぼりのぼり、、、いたくいたくいたくこうじこうじこうじにににたれたれたれどどど、、、かゝるかゝるかかる序ついで序ついでついでにににだいりだいりだいりににに奏そう奏そうそうすすすべきべきべき事こと事ことことあるあるあるににによりよりよりてててなむなむなん急いそ急いそいそぎぎぎのぼりのぼりのぼりぬるぬるぬる」」」とととててて立た立たたちちち去さ去ささりりり給たま給たまたまひひいぬぬぬ。。。
  19. 19飽あ飽ああかかかずずず悲かな悲かなかなしくしくしくててて、、、「「「御供とも御供ともともににに參まゐ參まゐまいりりりなななむむん」」」ととと泣な泣ななききき入い入いいりりり給たま給たまたまひひいててて見み見みみ上あ上ああげげげ給たま給たまたまへへえれれればばば、、、人ひと人ひとひともももなくなくなくててて、、、月つき月つきつきののの顏かほ顏かほかおのみのみのみきらきらきらきらきらきらとととしししててて夢ゆめ夢ゆめゆめののの心地ここち心地ここちここちもももせせせずずず。。。御おん御おんおんけはひけはひけわいとまれとまれとまれるるる心こころ心こころこころちちちしししててて空そら空そらそらののの雲くも雲くもくもあはれあはれあわれにににたなびけたなびけたなびけりりり。。。
  20. 20年頃としごろ年頃としごろとしごろ夢ゆめ夢ゆめゆめののの中なか中なかなかにににももも見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららででで戀こひ戀こひこいしうしうしゅう覺束おぼつか覺束おぼつかおぼつかなきなきなき御おん御おんおんさまさまさまをををほのかほのかほのかなれなれなれどどどさだかさだかさだかににに見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりつるつるつるのみのみのみ面影おもかげ面影おもかげおもかげににに覺おぼ覺おぼおぼえええ給たま給たまたまひひいててて、、、我わ我わわかくかくかく悲かな悲かなかなしみしみしみををを極きは極きはきわめめめ命いのち命いのちいのちつきつきつきなななむむんとととしししつるつるつるををを助たす助たすたすけけけにににかけりかけりかけり給たま給たまたまへへえるるるととと哀あはれ哀あはれあわれにににおぼすおぼすおぼすににに
  21. 21よくよくよくぞぞぞかゝるかゝるかかるさわぎさわぎさわぎもももありありありけるけるけるととと名殘なごり名殘なごりなごりたのもしうたのもしうたのもしゅう嬉うれ嬉うれうれしししとととおぼえおぼえおぼえ給たま給たまたまふふう事こと事ことこと限かぎり限かぎりかぎりなしなしなし。。。胸むね胸むねむねつとつとつとふたがりふたがりふたがりてててなかなかなかなかなかなかなるなるなる御おん御おんおん心こころ心こころこころ惑まど惑まどまどひひいににに、、、現うつつ現うつつうつつののの悲かな悲かなかなしきしきしきことことことももも打う打ううちちち忘わす忘わすわすれれれててて夢ゆめ夢ゆめゆめにににももも御おん御おんおんいらへいらへいらえををを今いま今いまいま少すこ少すこすこししし聞きこ聞きこきこえええずずずなりなりなりぬるぬるぬる事こと事ことことととといぶせさいぶせさいぶせさににに、、、又また又またまたややや見み見みみえええ給たま給たまたまふふうととと殊更ことさら殊更ことさらことさらににに寢ね寢ねね入い入いいりりり給たま給たまたまへへえどどど更さら更さらさらににに御目め御目めめもももあはあはあわででで曉方あかつきがた曉方あかつきがたあかつきがたににになりなりなりにににけりけりけり。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

こうしてこの世も終わってしまうのだろうかとお思いになっていると、その翌日の明け方から、風がひどく吹き、潮が高く満ちて、波の音の荒いことは、岩も山も残りそうにない様子である。雷の鳴りひらめく様子は、さらに言いようもなく、今にも落ちかかってくるように思われるので、居合わせた者で落ち着いている人はいない。

「私はどんな罪を犯して、このように悲しい目にあうのだろう。父母にも会えず、いとしい妻子の顔も見ないで死んでしまうことよ」と嘆く。源氏はお心を静めて、どれほどの過ちのために、この渚で命を終えることがあろうかと、気を強くお持ちになるが、たいそう騒がしいので、色とりどりの幣を捧げさせなさって、

「住吉の神よ、近くのこの地を鎮め守ってください。本当にこの世に姿を現していらっしゃる神ならば、お助けください」と、多くの大願をお立てになる。供人たちは、それぞれ自分の命はもちろんのこと、このようなお方が、またとない例として海に沈んでしまわれそうなことがたいそう悲しいので、気を奮い起こして、少しでも正気のある者は皆、「わが身に代えて、このお方お一人をお救い申し上げよう」と大声を上げて、声を合わせて仏や神に祈り申し上げる。

「帝王の奥深い宮殿で育てられなさって、さまざまな楽しみにおごっていらっしゃったが、深いご慈しみは日本の国の隅々まで行き渡り、沈んでいた多くの人々を救い上げてこられた。今、何の報いで、このような理不尽な波風に溺れなさるのか。天地の神々よ、是非を明らかにしてください。罪もないのに罪に当たり、官位を取り上げられ、家を離れ、都の境を去って、明け暮れ心の安まる時もなく嘆いていらっしゃるのに、このような悲しい目にまであって、命を落とそうとしているのは、前世の報いか、この世の罪か。神仏が明らかにいらっしゃるなら、この嘆きを止めてください」と、

住吉の社の方に向かって、さまざまな願を立て、また海の中の竜王やあらゆる神々にも願を立てさせなさると、いよいよ雷が鳴り轟いて、源氏のいらっしゃる御殿に続いている廊に落ちかかった。炎が燃え上がって、廊は焼けてしまった。正気を失って、居合わせた者は皆うろたえる。後ろの方にある大炊殿と思われる建物にお移し申し上げて、身分の上下の区別なく立てこんで、たいそう騒がしく泣き叫ぶ声は、雷にも劣らない。空は墨をすったように真っ暗で、日も暮れてしまった。

だんだん風がおさまり、雨脚も弱まって、星の光も見えるので、この御座所がたいそう粗末なのももったいなく、寝殿にお戻し申し上げようとするが、焼け残った所も気味悪く、大勢の人が踏み鳴らしうろたえたせいで、御簾なども皆吹き散らしてしまっていた。夜を明かしてからにしようと、皆が途方に暮れていると、源氏は念誦をなさって、思いめぐらしなさるが、たいそう心が落ち着かない。月がさし出て、潮が近くまで満ちてきた跡もはっきりと見え、名残でなおも寄せては返す波の荒いのを、柴の戸を押し開けて眺めていらっしゃる。

近くには、物の道理を知り、過去や未来のことを心得て、あれこれとしっかり判断できる人もいない。身分の低い海人たちなどが、高貴な方がいらっしゃる所だというので集まってきて、源氏にはわからないことをしゃべり合っているのも、たいそう珍しいが、追い払うこともできない。「この風が、もうしばらくやまなかったら、潮が上ってきて、残る所もなかっただろう。神のお助けは並々ではなかった」と言うのをお聞きになるにつけても、たいそう心細いなどと言ってもとても言い尽くせない。「海においでになる神の助けにすがらなかったなら、潮の八百会う沖にさまよっていただろう」。

一日中もみくちゃにした風の騒ぎに、気丈にしていらっしゃったとはいえ、ひどくお疲れになったので、思わずうとうととなさる。粗末な御座所なので、ただ物に寄りかかっていらっしゃると、故院が、ご在世の時のお姿のままでお立ちになって、「どうしてこのような見苦しい所にいるのか」と言って、お手を取って引き立てなさる。「住吉の神のお導きのままに、早く船出して、この浦を去りなさい」とおっしゃる。

たいそううれしくて、「恐れ多いお姿にお別れ申し上げてからこのかた、さまざま悲しいことばかり多くございましたので、今はこの渚に身を捨ててしまおうかと存じます」と申し上げなさると、院は「とんでもないことだ。これはただ、ちょっとした事の報いなのだ。私は帝位にあった時、過ちを犯すことはなかったが、自然と罪があったので、その罪を償い終える間は暇がなくて、この世を顧みることもなかったが、

そなたがひどい憂き目に沈んでいるのを見ると耐えがたくて、海に入り、渚に上り、ひどく疲れてしまったが、このついでに内裏に奏上すべきことがあるので、急いで都に上るのだ」と言って、立ち去っておしまいになった。名残惜しく悲しくて、「お供して参りましょう」と泣き入りなさって、見上げなさると、人の姿もなく、月の面ばかりがきらきらと輝いて、夢を見たという気もしない。院の気配がまだ残っている気がして、空の雲がしみじみとたなびいていた。

長年、夢の中でもお目にかかれずに、恋しく気がかりだったお姿を、ほのかではあるが、はっきりと拝見したのだけが面影に浮かびなさって、自分がこのように悲しみを極め、命も尽きようとしていたのを、助けに天翔ってきてくださったのだと、しみじみとお思いになるにつけ、よくぞこのような騒ぎもあったものだと、夢の名残が頼もしく、うれしくお思いになることこの上ない。

胸がいっぱいにふさがって、かえってお心が乱れて、現実の悲しいことも忘れて、夢の中でも、ご返事をもう少し申し上げられなかったことがもどかしくて、またお姿が見えるだろうかと、わざと寝入ろうとなさるが、まったくお目も合わずに、明け方になってしまった。

意訳

翌日、嵐はさらに激しくなり、供人たちは死を覚悟して嘆く。源氏は住吉の神に大願を立て、供人たちは源氏の身代わりになろうと神仏に祈り、源氏の無実を天地に訴える。ついに雷が廊に落ちて焼け、人々は大炊殿に逃れる。

夜、疲れてまどろんだ源氏の夢に故桐壺院が現れ、住吉の神の導きに従って須磨を去れと告げる。院は、内裏に奏上することがあると言って去る。源氏は、父院が自分を助けに来てくれたことをうれしく思う。

語釈・文法注

大炊でん
大炊殿(おおいどの)。食事を調える建物。台所。

文法

反実仮想の「ましかば…まし」(やまざらましかば…なからまし)
「もしやまなかったら、残る所もなかっただろう」。
反実仮想の「ずは…まし」(かゝらずは…さすらへなまし)
「もしすがらなかったら、さまよっていただろう」。

和歌

海にます神のたすけにかゝらずは鹽のやほあひにさすらへなまし

詠者
光源氏
状況
嵐の夜、浦人の言葉を聞いて詠んだ歌。海においでになる神の助けにすがらなかったなら、潮の八百会う沖にさまよっていただろう。

解説

嵐の頂点で、雷が源氏の住まいに落ちる。源氏の供人たちは、源氏の無実を天地に訴え、身代わりになろうとまで祈る。この場面は、源氏がいかに人々に慕われていたかを示すとともに、源氏の流謫が理不尽なものであったことを強調している。

故桐壺院の霊の出現は、物語の大きな転機である。院は、自らも在位中の罪を償っていると語り、内裏に奏上することがあると言って去る。これは、のちに朱雀帝の夢に院が現れて、源氏の召還につながる伏線となる。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、258–261頁(コマ132–133)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日