古典ライブラリー

源氏物語 第2帖 帚木(10)

空蟬との逢瀬

登場人物:光源氏・空蟬・中将の君

皆が寝静まった夜更け、源氏は掛け金のかかっていない襖を開けて、ひとり寝ている空蟬のもとへ入る。驚く空蟬を抱きかかえて奥の部屋へ連れていき、言葉を尽くして口説くが、空蟬は人妻の身を恥じて、なよ竹のように折れることなく、かたくなに拒みつづける。

夏の夜更け、灯火のほの暗い部屋で、几帳を隔てて座る源氏と、衣を引き寄せてうつむく空蟬の場面(AI生成)
夏の夜更け、灯火のほの暗い部屋で、几帳を隔てて座る源氏と、衣を引き寄せてうつむく空蟬の場面
  1. 1「「「廂ひさし廂ひさしひさしにににぞぞぞ大殿籠おほとのごも大殿籠おほとのごもおおとのごもりりりぬるぬるぬる。。。音ね音ねねににに聞き聞きききききつるつるつる御有樣おほんありさま御有樣おほんありさまおおんありさまををを見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりつるつるつる、、、實げ實げげにににこそこそこそめでたかりめでたかりめでたかりけれけれけれ」」」とととみそかみそかみそかにににいふいふいう。。。
  2. 2「「「晝ひる晝ひるひるならならならましかましかましかばばばのぞきのぞきのぞきててて見み見みみ奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりてててましましまし」」」とととねぶたげねぶたげねぶたげにににいひいひいいててて顏かほ顏かほかおひきひきひき入い入いいれれれつるつるつるこゑこゑこえすすす。。。
  3. 3ねたうねたうねとう、、、心こころ心こころこころ留とど留とどとどめめめてててももも問と問ととひひい聞き聞ききけけけかしかしかしとととあぢきなくあぢきなくあじきなくおぼすおぼすおぼす。。。
  4. 4「「「まろまろまろははは端はし端はしはしににに寢ね寢ねね侍はべ侍はべはべらららむむん。。。あなあなあなくらしくらしくらし」」」とととててて火ひ火ひひかゝげかゝげかかげなどなどなどすすすべしべしべし。。。
  5. 5をんなをんなおんな君ぎみ君ぎみぎみははは、、、唯ただ唯ただただこのこのこのさうじさうじそうじ口ぐち口ぐちぐちすぢかひすぢかひすじかいたるたるたる程ほど程ほどほどにににぞぞぞ臥ふ臥ふふしししたるたるたるべきべきべき。。。
  6. 6「「「中將ちゆうじやう中將ちゆうじやうちゅうじょうのののはははいづくいづくいずくにににぞぞぞ。。。人ひと人ひとひとげげげ遠とほ遠とほとおききき心地ここち心地ここちここちしししててて物もの物ものもの恐おそろ恐おそろおそろししし」」」ととといふいふいうなれなれなればばば長押なげし長押なげしなげしのののしもしもしもににに人々ひとびと人々ひとびとひとびと臥ふ臥ふふしししててていらへいらへいらえすすすなりなりなり。。。
  7. 7「「「しもしもしもににに湯ゆ湯ゆゆにににおりおりおりててて只今ただいま只今ただいまただいま參まゐ參まゐまいらららむむんととと侍はべ侍はべはべりりり」」」ととといふいふいう。。。
  8. 8皆みな皆みなみな靜しづ靜しづしずまりまりまりぬるぬるぬるけはひけはひけわいなれなれなればばばををを試こころみ試こころみこころみににに引ひ引ひひきききあけあけあけ給たま給たまたまへへえれれればばばあなたあなたあなたよりよりよりはははさゝさゝささざりざりざりけりけりけり。。。
  9. 9几帳きちやう几帳きちやうきちょうをををさうじぐちさうじぐちそうじぐちににに立た立たたてゝてゝてて火ひ火ひひはははほのぐらきほのぐらきほのぐらきににに見み見みみ給たま給たまたまへへえばばば、、、唐櫃からびつ唐櫃からびつからびつだつだつだつ物もの物ものものどもどもどもををを置お置おおきききたれたれたればばば、、、亂みだ亂みだみだりがはしきりがはしきりがわしき中なか中なかなかををを分わ分わわけけけ入い入いいりりり給たま給たまたまひひいてててけはひけはひけわいしししつるつるつる處ところ處ところところににに入い入いいりりり給たま給たまたまへへえれれればばば唯ただ唯ただただ一人ひとり一人ひとりひとりいといといとさゝやかさゝやかささやかにてにてにて臥ふ臥ふふしししたりたりたり。。。
  10. 10なまなまなま煩わづら煩わづらわずらはしけれはしけれわしけれどどど上うへ上うへうえなるなるなるきぬきぬきぬををを押お押おおしししやるやるやるまでまでまで覓もと覓もともとめめめつるつるつる人ひと人ひとひとととと思おも思おもおもへへえりりり。。。
  11. 11「「「中將ちゆうじやう中將ちゆうじやうちゅうじょうめしめしめしつれつれつればばば、、、人ひと人ひとひと知し知ししれれれぬぬぬ思おも思おもおもひひいのののしるししるししるしあるあるある心地ここち心地ここちここちしししててて」」」とととのたまふのたまふのたまうををを、、、ともかくもともかくもともかくも思おも思おもおもひひいわかわかわかれれれずずず、、、物もの物ものものにににおそはるゝおそはるゝおそわるる心地ここち心地ここちここちしししててて「「「ややや」」」とととおびゆれおびゆれおびゆれどどど、、、顏かほ顏かほかおにににきぬきぬきぬのののさはりさはりさわりててておとおとおとにもにもにも立た立たたてててずずず、、、
  12. 12「「「うちつけうちつけうちつけににに深ふか深ふかふかからからからぬぬぬ心こころ心こころこころののの程ほど程ほどほどととと見み見みみ給たま給たまたまふふうらむらむらん、、、ことわりことわりことわりなれなれなれどどど、、、年比としごろ年比としごろとしごろ思おも思おもおもひひいわたるわたるわたる心こころ心こころこころのののうちうちうちももも聞きこ聞きこきこえええ知し知ししらせらせらせむむんとととてててなむなむなんかゝるかゝるかかる折をり折をりおりををを待ま待ままちちち出い出いいでででたるたるたるももも、、、更さら更さらさらににに淺あさ淺あさあさくくくはははあらあらあらじじじととと思おも思おもおもひひいなしなしなし給たま給たまたまへへえ」」」
  13. 13ととといといといとやはらかやはらかやわらかにににのたまひのたまひのたまいててて鬼神おにがみ鬼神おにがみおにがみももも荒あら荒あらあら立だ立だだつつつまじきまじきまじき御おん御おんおんけはひけはひけわいなれなれなればばば、、、はしたなくはしたなくはしたなく「「「此處ここ此處ここここににに人ひと人ひとひと」」」ともともともえええのゝじらのゝじらののじらずずず、、、心こころ心こころこころちちちはたはたはたわびしくわびしくわびしく、、、あるまじきあるまじきあるまじき事こと事ことことととと思おも思おもおもへへえばばば、、、
  14. 14「「「あさましくあさましくあさましく、、、人ひと人ひとひとたがへたがへたがえにににこそこそこそ侍はべ侍はべはべるるるめれめれめれ」」」ととといふいふいうももも息いき息いきいきのののしたしたしたなりなりなり。。。
  15. 15消き消ききえええ惑まど惑まどまどへへえるるるけしきけしきけしきいといといと心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしくしくしくらうたげらうたげろうたげなれなれなればばばをかしをかしおかしととと見み見みみ給たま給たまたまひひいててて、、、
  16. 16「「「違たが違たがたがふふうべくべくべくもももあらあらあらぬぬぬ心こころ心こころこころのののしるべしるべしるべををを思おも思おもおもははわずずずにもにもにも給たま給たまたまふふうかなかなかな。。。すきがましきすきがましきすきがましきさまさまさまにはにはにはよによによに見み見みみえええ奉たてまつ奉たてまつたてまつらららじじじ。。。思おも思おもおもふふう事こと事ことこと少すこ少すこすこししし聞きこ聞きこきこゆゆゆべきべきべきぞぞぞ」」」
  17. 17とととててていといといとちひさやかちひさやかちいさやかなれなれなればばば搔か搔かかききき抱いだ抱いだいだきききてててさうじさうじそうじのののもともともとににに出い出いいででで給たま給たまたまふふうにににぞぞぞ、、、覓もと覓もともとめめめつるつるつる中將ちゆうじやう中將ちゆうじやうちゅうじょうだつだつだつ人ひと人ひとひときあひきあひきあいたるたるたる。。。
  18. 18「「「やゝやゝやや」」」とととのたまふのたまふのたまうににに怪あや怪あやあやしくしくしくててて探さぐ探さぐさぐりりり寄よ寄よよりりりたるたるたるにににぞぞぞ、、、いみじくいみじくいみじくにほひにほひにおい滿み滿みみちちちててて顏かほ顏かほかおにもにもにもかゝるかゝるかかる心地ここち心地ここちここちするするするににに思おも思おもおもひひいよりよりよりぬぬぬ。。。
  19. 19あさましうあさましうあさましゅう、、、こはこはこは如何いか如何いかいかなるなるなる事こと事ことことぞぞぞととと思おも思おもおもひひい惑まど惑まどまどははわるれるれるれどどど聞きこ聞きこきこえええむむんかたかたかたなしなしなし。。。並々なみなみ並々なみなみなみなみののの人ひと人ひとひとならならならばばばこそこそこそ荒あら荒あらあららからからかにににももも引ひ引ひひきききめめめ。。。それそれそれだにだにだに人ひと人ひとひとのののあまたあまたあまたしらしらしらむむんはははいかゞいかゞいかがあらあらあらむむん。。。
  20. 20心こころ心こころこころもももさわぎさわぎさわぎててて慕した慕したしたひひい來き來ききたれたれたれどどどもももなくなくなくててて奧おく奧おくおくなるなるなるおましおましおましににに入い入いいりりり給たま給たまたまひひいぬぬぬ。。。
  21. 21さうじさうじそうじをををひきひきひきたてゝたてゝたてて「「「曉あかつき曉あかつきあかつきににに御迎おほんむかへ御迎おほんむかへおおんむかえにににものせよものせよものせよ」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、
  22. 22女をんな女をんなおんなはははこのこのこの人ひと人ひとひとののの思おも思おもおもふふうらむらむらん事こと事ことことさへさへさへ死し死ししぬぬぬばかりばかりばかりわりなきわりなきわりなきににに流なが流ながながるゝるゝるるまでまでまで汗あせ汗あせあせににになりなりなりててていといといとなやましげなやましげなやましげなるなるなるいとほしけれいとほしけれいとおしけれどどど、、、
  23. 23例れい例れいれいのののいづくいづくいずくよりよりよりとうとうとう出い出いいででで給たま給たまたまふふう言こと言ことことののの葉は葉ははにににかかかあらあらあらむむん、、、あはれあはれあわれしらしらしらるばかりるばかりるばかりなさけなさけしくなさけなさけしくなさけなさけしくのたまひのたまひのたまい盡つ盡つつすすすべかべかべかめれめれめれどどど、、、
  24. 24猶なほ猶なほなおいといといとあさましきあさましきあさましきににに、、、「「「現うつつ現うつつうつつともともとも覺おぼ覺おぼおぼえええずずずこそこそこそ。。。數かず數かずかずならならならぬぬぬ身み身みみながらながらながらももも覺おぼ覺おぼおぼしししくだしくだしくだしけるけるける御心みこころ御心みこころみこころののの程ほど程ほどほどもももいかゞいかゞいかが淺あさ淺あさあさくくくははは思おも思おもおもひひい給たま給たまたまへへえざらざらざらむむん。。。いといといとかやうかやうかようなるなるなるきはきはきわはははきはきはきわとととこそこそこそ侍はべ侍はべはべるるるなれなれなれ」」」とととててて
  25. 25かくかくかく押お押おおしししたちたちたち給たま給たまたまへへえるるるををを、、、深ふか深ふかふかくくくなさけなくなさけなくなさけなく憂う憂ううしししととと思おも思おもおもひひい入い入いいりりりたるたるたるさまさまさまももも、、、實げ實げげにににいとほしくいとほしくいとおしく心こころ心こころこころ耻はづか耻はづかはずかしきしきしきけはひけはひけわいなれなれなればばば
  26. 26「「「そのそのそのきはぎはきはぎはきわぎわをををまだまだまだ思おも思おもおもひひい知し知ししらららぬぬぬぞぞぞややや。。。なかなかなかなかなかなかおしなべおしなべおしなべたるたるたるつらつらつらににに、、、思おも思おもおもひひいなしなしなし給たま給たまたまへへえるるるなむなむなんうたてうたてうたてありありありけるけるける。。。
  27. 27おのづからおのづからおのずから聞き聞ききききき給たま給たまたまふふうやうやうようもももあらあらあらむむん、、、あながちあながちあながちなるなるなるすきすきすき心ごころ心ごころごころははは更さら更さらさらにににならはならはならわぬぬぬををを、、、さるべきさるべきさるべきにににややや、、、實げ實げげにににかくかくかくられられられ奉たてまつ奉たてまつたてまつるるるももも、、、ことわりことわりことわりなるなるなる心惑こころまど心惑こころまどこころまどひひいををを自みづか自みづかみずからららももも怪あや怪あやあやしきしきしきまでまでまでなむなむなん」」」
  28. 28などなどなど、、、まめだちまめだちまめだちててて萬よろづ萬よろづよろずにににのたまへのたまへのたまえどどど、、、いといといとたぐひたぐひたぐいなきなきなき御有樣おほんありさま御有樣おほんありさまおおんありさまのののいよいよいよいよいよいようちうちうち解と解ととけけけ聞きこ聞きこきこえええむむん事こと事ことことわびしけれわびしけれわびしければばば、、、すくよかすくよかすくよかににに心こころ心こころこころづきなしづきなしずきなしとととははは見み見みみえええ奉たてまつ奉たてまつたてまつるるるともともとも、、、さるさるさるかたかたかたのののいふがひなきいふがひなきいうがいなきにてにてにてすぐしすぐしすぐしてててむむんととと思おも思おもおもひひいててて、、、つれなくつれなくつれなくのみのみのみもてなしもてなしもてなしたりたりたり。。。
  29. 29人ひと人ひとひとがらがらがらのののたをやぎたをやぎたおやぎたるたるたるににに强つよ强つよつよききき心こころ心こころこころををを强し强ししひひいててて加くは加くはくわへへえたれたれたればばば、、、竹たけ竹たけたけののの心こころ心こころこころちちちしししてててさすがにさすがにさすがに折をり折をりおりるるるべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。
  30. 30誠まこと誠まことまことににに心こころ心こころこころやましくやましくやましくててて强あなが强あながあながちちちなるなるなる御おん御おんおん心こころ心こころこころばへばへばえををを言い言いいふふう方かた方かたかたなしなしなしととと思おも思おもおもひひいててて泣な泣ななくくくさまさまさまなどなどなどいといといと哀あはれ哀あはれあわれなりなりなり。。。
  31. 31心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしくしくしくはははあれあれあれどどど見み見みみざらざらざらましかましかましかばばば口惜くちを口惜くちをくちおしからしからしからましましましとととおぼすおぼすおぼす。。。
  32. 32慰なぐさ慰なぐさなぐさめめめ難かた難かたかたくくく憂う憂ううしししととと思おも思おもおもへへえれれればばば、、、「「「などなどなどかくかくかくうとましきうとましきうとましきものものものにににしもしもしも覺おぼ覺おぼおぼすすすべきべきべき。。。覺おぼ覺おぼおぼえええなきなきなきさまさまさまなるなるなるしもしもしもこそこそこそ契ちぎり契ちぎりちぎりありありありとととははは思おも思おもおもひひい給たま給たまたまははわめめめ。。。むげにむげにむげに世よ世よよををを思おも思おもおもひひいしらしらしらぬぬぬやうやうようににに給たま給たまたまふふうなむなむなんいといといとつらきつらきつらき」」」ととと怨うら怨うらうらみみみられられられててて、、、
  33. 33「「「いといといとかくかくかくうきうきうき身み身みみののの程ほど程ほどほどののの定さだ定さださだらららぬぬぬありありありしししながらながらながらののの身み身みみにてにてにてかゝるかゝるかかる御おん御おんおん心こころ心こころこころばへばへばえををを見み見みみましかましかましかばばば、、、あるまじきあるまじきあるまじき我わ我わわががが賴たの賴たのたのにてにてにて見み見みみ直なほ直なほなおししし給たま給たまたまふふうもももやややととと思おも思おもおもひひい給たま給たまたまへへえ慰なぐさ慰なぐさなぐさめめめましましましををを、、、
  34. 34いといといとかうかうこう假かり假かりかりなるなるなるののの程ほど程ほどほどををを思おも思おもおもひひい侍はべ侍はべはべるるるにににたぐひたぐひたぐいなくなくなく思おも思おもおもううう給たま給たまたまへへえ惑まど惑まどまどははわるゝるゝるるなりなりなり。。。よしよしよし今いま今いまいまははは見み見みみきききとととなななかけかけかけ」」」とととててて、、、思おも思おもおもへへえるるるさまさまさま實げ實げげにににいといといとことわりことわりことわりなりなりなり。。。
  35. 35おろかおろかおろかならならならずずず契ちぎり契ちぎりちぎりりりり慰なぐさ慰なぐさなぐさめめめ給たま給たまたまふふうことことこと多おほ多おほおおかるかるかるべしべしべし。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

「お客様は廂の間でお休みになったわ。噂に聞いていたお姿を拝見したけれど、本当にすばらしかった」と、小君がひそひそと言う。「昼間だったら、のぞいて拝見したのに」と、空蟬は眠そうに言って、顔を夜具に引き入れた声がする。源氏は、いまいましい、もう少し気を入れて尋ねたらよいのに、とおもしろくなくお思いになる。「私は端の方に寝ましょう。ああ暗い」と言って、小君は灯火をかき立てたりしているらしい。

女君は、ちょうどこの襖口の筋向かいのあたりに寝ているのだろう。「中将の君はどこにいるの。人の気配が遠くて、なんとなく恐ろしいわ」と言うと、長押の下に女房たちが寝ていて、返事をしているようだ。「中将の君は下屋に湯を使いに行って、すぐ参ると申しておりました」と言う。

皆寝静まった様子なので、源氏が掛け金を試しに引き開けてごらんになると、向こう側からは鍵がかけてなかった。几帳を襖口に立てて、灯火はほの暗い中をご覧になると、唐櫃のような物などが置いてあるので、雑然とした中を分け入って、気配のしたところにお入りになると、ただひとり、たいそう小柄な様子で寝ていた。なんとなく気がひけるが、上に掛けている衣を押しやるまで、空蟬は呼んでいた中将の君だと思っていた。

源氏が「中将をお呼びでしたので、人知れずお慕いしていた思いがかなった気がして」とおっしゃるのを、空蟬は何が何だかわからず、物の怪に襲われたような心地がして、「あっ」とおびえるが、顔に衣がかかっていて声にもならない。

源氏は「出来心の浅い思いだとお思いになるでしょう、無理もないことですが、長年お慕いしていた心のうちも申し上げようと思って、こういう折を待っていたのですから、決して浅い気持ちではないとお思いください」と、たいそうやさしくおっしゃって、鬼神でも荒れようのないようなご様子なので、はしたなく「ここに人が」とも騒ぎたてることができず、心の中ではたいそうつらく、あってはならないことと思うので、「あまりのことです。人違いでいらっしゃるのでしょう」と言う声も、息も絶え絶えである。消え入りそうに惑っている様子が、たいそう痛々しく、かわいらしいので、源氏は好ましくご覧になって、

「間違えるはずもない恋心に導かれて来たのに、思いもよらないようにとぼけていらっしゃるのですね。色好みめいた振る舞いは、決してお見せしません。思っていることを少し申し上げたいのです」と言って、たいそう小柄なので、抱きかかえて襖のところにお出になると、呼んでいた中将の君らしい女房が来合わせた。

源氏が「おい」とおっしゃるので、不審に思って手探りで近寄ると、たいそうよい香りがあたりに満ちて、顔にまで漂いかかる気がするので、源氏だと気づいた。中将の君は、あきれたことだ、これはどういうことかと途方に暮れるが、何とも申し上げようがない。普通の身分の人なら、乱暴にでも引き離すだろう。それでさえ、大勢の人に知られたらどうなることか。胸も騒いで後を追ってきたが、源氏は平然として、奥のご座所に入ってしまわれた。

源氏は襖を閉めて、「明け方に迎えに来なさい」とおっしゃるので、空蟬は、この女房がどう思うかさえ死ぬほどつらく、流れるほど汗をかいて、たいそう苦しそうなのが気の毒だけれど、源氏は例によって、どこから出てくるお言葉なのか、心が動かされるほど情のこもった言葉を、言い尽くしていらっしゃるようである。

それでも空蟬はなおあまりのことに、「現実のこととも思えません。取るに足らない身ではありますが、見くだしていらっしゃるお心のほども、どうして浅いと思わずにいられましょう。このような身分の者には、それなりの身分の定めがあるのです」と言って、こうして強引に振る舞われたことを、深く情けない、つらいと思いつめている様子も、本当にお気の毒で、こちらが気後れするような様子なので、

源氏は「その身分の違いというものを、まだ知らない初めての経験なのですよ。かえって、ありふれた男と同じように思っていらっしゃるのが、つらいことです。自然とお聞きになることもあるでしょうが、むやみな浮気心は少しも持ったことがないのに、前世からの因縁なのでしょうか、本当に、こうしてさげすまれるのも、もっともな心の乱れを、我ながら不思議なほどで」などと、まじめにいろいろおっしゃるけれども、空蟬は、まことに比類ないご様子に、ますます打ち解け申し上げることがつらいので、強情で気にくわない女だと思われても、そういう情けを解さない女としてやり過ごしてしまおうと思って、ひたすらつれなく振る舞っていた。

人柄はものやわらかなのに、強い心を無理に加えているので、なよ竹のような感じがして、さすがに折れそうにもない。本当にいやで、強引なお振る舞いを言いようもなく思って泣く様子など、たいそう哀れである。源氏は気の毒ではあるが、この人に会わなかったら残念だったろうとお思いになる。

空蟬が慰めようもなくつらいと思っているので、源氏は「どうしてこんなに嫌なものとお思いになるのですか。思いがけない出会いだからこそ、前世からの縁があるのだとお思いなさい。むやみに男女の仲を知らないようにとぼけていらっしゃるのが、たいそうつらい」と恨みなさる。

空蟬は「こうしてつらい身の上が定まらない、昔の娘のままの身で、こうしたお気持ちをいただいたのなら、とんでもないうぬぼれでも、いつかは見直していただける後の日もあろうかと思って、気持ちを慰めましょうに、こうした仮初めのはかない一夜の契りだと思いますと、たとえようもなく心が乱れるのです。もうよいのです、今となっては、私と会ったなどと、決して人におっしゃらないでください」と言って、思い悩んでいる様子は、本当にもっともなことである。

源氏は、心をこめて約束し、慰めなさることも多かったのだろう。

意訳

空蟬は、受領の後妻という「中の品」の女性である。源氏の強引な振る舞いに対して、空蟬は身分の違いと人妻であることを理由に、最後まで心を許さない。「いとかやうなるきははきはとこそ侍るなれ」(このような身分の者には、それなりの定めがある)という言葉には、身分の低さを自覚しながらも、自分の誇りを守ろうとする空蟬の強さが表れている。

「なよ竹の心ちしてさすがに折るべくもあらず」という比喩は、空蟬の人柄をよく表している。外見はものやわらかで弱々しいが、芯は強く、たやすく折れない。空蟬が嘆く「ありしながらの身」(結婚前の娘のままの身)であったなら、という言葉には、伊予介の後妻となった自分の運命への悲しみがこもっている。この夜の出来事は、源氏にとっても、思い通りにならない女性との初めての出会いとなった。

語釈・文法注

中將の君
空蟬に仕える女房の呼び名。
かけがね
掛け金。襖などの戸締まりの金具。
中將めしつればなむ
空蟬が女房の「中将の君」を呼んだのを、近衛中将である源氏が、自分を呼んだのだと言いなした言葉。
おぼめく
そらとぼける、知らないふりをする。
くゆる
香が漂う、くすぶる。源氏の衣にたきしめた香の香り。
かなぐる
荒々しく引き離す、むしり取る。
どう
動(どう)。動揺すること。「どうもなくて」で、平然として。
初事(ういごと)
初めての経験。
あばむ
軽んじる、さげすむ。「あはむ」と同じ。
なよ竹
しなやかな若竹。たわんでも折れないことから、柔らかいが芯の強い人のたとえ。
おぼゝる
ぼんやりする、とぼける。
のちせ
後瀬(のちせ)。後日の逢瀬。
浮寢
仮寝、旅寝。水鳥が水に浮いて寝ることから、落ち着かない、はかない共寝。
見きとなかけそ
私と逢ったなどと口にしないでください。「な…そ」の禁止。『古今和歌集』の「君が名もわが名も立てじ難波なるみつとも言ふなあひきとも言はじ」をふまえるとされる。

文法

反実仮想「ましかば…まし」(見ざらましかば口惜しからまし)
「もし会わなかったら、残念だっただろう」。事実に反する仮定と、その結果を想像する。
禁止「な…そ」(見きとなかけそ)
副詞「な」と終助詞「そ」で動詞をはさみ、柔らかく禁止する。
推量「べし」(臥したるべき・多かるべし)
語り手が場面を推し量る言い方。「…しているのだろう」「…が多かったのだろう」。語り手が直接は見ていないことを示す草子地。

解説

源氏と空蟬の一夜は、源氏物語の中でも、源氏が拒まれる珍しい場面である。源氏は、身分が低く人妻である空蟬なら、たやすくなびくと思っていたのかもしれない。しかし空蟬は、源氏の美しさに心を動かされながらも、自分の立場を守り、心を許さなかった。

襖の掛け金がかかっていなかった、香の香りで源氏とわかる、小柄なので抱きかかえて連れていく、といった細部は、寝殿造の暮らしを具体的に思い描かせる。几帳や唐櫃、長押の下に寝る女房たちなど、当時の住まいの様子も生き生きと描かれている。

最後の「おろかならず契り慰め給ふこと多かるべし」は、語り手が場面の外から推し量る草子地である。二人の間に何があったのかを、語り手ははっきりとは語らない。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、40–42頁(コマ22–23)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日