源氏物語 第2帖 帚木(9)
中川の宿
品定めの翌日、源氏は左大臣邸に帰るが、方角が悪いため、方違えに紀伊守の中川の邸へ移る。そこには紀伊守の父伊予介の若い後妻が来ていた。源氏は女房たちの噂話を聞き、空蟬の弟の小君と言葉を交わし、夜更けに襖の向こうの空蟬の気配に耳を澄ます。

- 1辛辛かろうううじてじてじて今日今日きょうははは日日ひののの氣色氣色けしきももも直直なおれれれりりり。。。かくかくかくのみのみのみ籠籠こもりりり侍侍はべらひらひらい給給たまふふうもももおほおほおお殿殿どのののの御心御心みこころいとほしけれいとほしけれいとおしければばばまかでまかでまかで給給たまへへえりりり。。。
- 2大方大方おおかたののの氣色氣色けしき人人ひとのののけはひけはひけわいもももけざやかけざやかけざやかにににけだかくけだかくけだかく亂亂みだれれれたるたるたる所所ところ交交まじらららずずず、、、猶猶なおこれこれこれこそこそこそはははかのかのかの人々人々ひとびとののの棄棄すててて難難かたくくく取取とりりり出出いでででしししまめまめまめにはにはには賴賴たのまままれれれぬぬぬべけれべけれべけれとととおぼすおぼすおぼすものものものからからから、、、
- 3あまりあまりあまり麗麗うるわはしきはしきわしき御有樣御有樣おおんありさまののの解解とけけけ難難かたくくく耻耻はずかしげしげしげにににのみのみのみ思思おもひひいしづまりしづまりしずまり給給たまへへえるるるををを、、、さうざうしくさうざうしくそうぞうしくててて中納言中納言ちゅうなごんののの君君きみ中務中務なかつかさなどなどなどやうやうようのののおしなべおしなべおしなべたらたらたらぬぬぬわかうどわかうどわこうどどもどもどもにににたはぶれたはぶれたわぶれ事事ことなどなどなどのたまひのたまひのたまいつゝつゝつつ、、、暑暑あつさささににに亂亂みだれれれ給給たまへへえるるる御有樣御有樣おおんありさまををを見見みるるるかひかひかいありありありととと思思おもひひい聞聞きこえええたりたりたり。。。
- 4おとゞおとゞおとどももも渡渡わたりりり給給たまひひいててて、、、うちうちうち解解とけけけ給給たまへへえれれればばば御御み几帳几帳きちょう隔隔へだてゝてゝてて坐坐おわしししましましましててて御御おおん物語物語ものがたり聞聞きこえええ給給たまふふうををを、、、暑暑あつきききにににとととにがみにがみにがみ給給たまへへえばばば人々人々ひとびとわらふわらふわらう。。。
- 5「「「」」」とととててて脇息脇息きょうそくににに寄寄よりりりおはすおはすおわす。。。いといといと安安やすらからからかなるなるなる御御おんふるまひふるまひふるまいなりなりなりややや。。。
- 6暗暗くらくくくなるなるなるほどほどほどににに「「「今宵今宵こよいうちうちうちよりよりよりはははふたがりふたがりふたがりててて侍侍はべりりりけりけりけり」」」ととと聞聞きこゆゆゆ。。。「「「さかしさかしさかし、、、例例れいももも忌忌いみみみ給給たまふふう方方かたなりなりなりけりけりけり。。。二條院二條院にじょうのいんにもにもにも同同おなじじじすぢすぢすじにてにてにていづくいづくいずくにににかかか違違たがへへえむむん。。。いといといと惱惱なやましきましきましきににに」」」とととててて大殿籠大殿籠おおとのごもれれれりりり。。。
- 7「「「いといといと惡惡あしきしきしきことことことなりなりなり」」」とととこれかれこれかれこれかれ聞聞きこゆゆゆ。。。「「「紀紀きののの守守かみにてにてにて親親おやしくしくしく仕仕つこうううまつるまつるまつる人人ひとののの、、、中河中河なかがわのののわたりわたりわたりなるなるなる家家いえなむなむなん、、、このこのこの頃頃ころ水水みずせきせきせき入入いれれれててて涼涼すずしきしきしきかげかげかげににに侍侍はべるるる」」」ととと聞聞きこゆゆゆ。。。
- 8「「「いといといとよかよかよかなりなりなり、、、なやましきなやましきなやましきににに。。。牛牛うしながらながらながら牽牽ひききき入入いれれれつつつべからべからべからむむん所所ところををを」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。
- 9忍忍しのびびび忍忍しのびびびのののはははあまたあまたあまたありぬありぬありぬべけれべけれべけれどどど久久ひさしくしくしく程程ほど經經へててて渡渡わたりりり給給たまへへえるるるににに方方かたふたげふたげふたげてててひきひきひき違違たがへへえ外外ほかざまざまざまへへへととと覺覺おぼさささむむんはははいとほしきいとほしきいとおしきなるなるなるべしべしべし。。。
- 10紀紀きののの守守かみににに仰言仰言おおせごと給給たまへへえばばばうけうけうけ給給たまはりはりわりながらながらながらしぞきしぞきしぞきててて「「「伊豫伊豫いよののの守守かみののの朝臣朝臣あそんののの家家いえににに愼愼つつしむむむ事事こと侍侍はべりりりててて女房女房にょうぼうなむなむなん罷罷まかりりりうつれうつれうつれるるる頃頃ころにてにてにてせばきせばきせばき所所ところににに侍侍はべれれればばばなめげなめげなめげなるなるなることことことややや侍侍はべらららむむん」」」ととと歎歎なげくくくををを聞聞きききき給給たまひひいててて
- 11「「「そのそのその人人ひと近近ちかからからからむむんなむなむなんうれしかるうれしかるうれしかるべきべきべき。。。女女おんな遠遠とおききき旅寢旅寢たびねははは物物もの恐恐おそろしきしきしき心心こころちちちすすすべきべきべきををを唯唯ただそのそのその几帳几帳きちょうのののうしろうしろうしろににに」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「實實げににによろしきよろしきよろしきおましおましおまし所所どころにもにもにも」」」とととててて人人ひと走走はしらせらせらせやるやるやる。。。
- 12いといといと忍忍しのびびびててて殊更殊更ことさらにににことごとしからことごとしからことごとしからぬぬぬ所所ところをををととと急急いそぎぎぎ出出いででで給給たまへへえばばばおとゞおとゞおとどにもにもにも聞聞きこえええ給給たまははわずずず、、、御供御供おおんともにもにもにもむつましきむつましきむつましき限限かぎりしししててておはしましおはしましおわしましぬぬぬ。。。守守かみ俄俄にはかにににととと侘侘わぶれぶれぶれどどど人人ひとももも聞聞きききき入入いれれれずずず。。。
- 13寢殿寢殿しんでんのののひんがしひんがしひんがしおもておもておもてはらひはらひはらいあけあけあけさせさせさせててて假初假初かりそめののの御御おんしつらひしつらひしつらいしししたりたりたり。。。水水みずののの心心こころばへばへばえなどなどなどさるさるさる方方かたにににをかしくをかしくおかしくしししなしなしなしたりたりたり。。。田舍田舍いなか家家いえだつだつだつ柴垣柴垣しばがきしししててて前栽前栽せんざいなどなどなど心心こころ留留とどめめめててて植植うゑゑえたりたりたり。。。
- 14風風かぜ凉凉すずしくしくしくてててそこはかとなきそこはかとなきそこはかとなき蟲蟲むしののの聲々聲々こえごえ聞聞きこえええ螢螢ほたる繁繁しげくくく飛飛とびびびまがひまがひまがいてててをかしきをかしきおかしき程程ほどなりなりなり。。。人々人々ひとびと渡殿渡殿わたどのよりよりより出出いでででたるたるたる泉泉いずみにににのぞきのぞきのぞき居居いててて酒酒さけ飮飮のむむむ。。。
- 15あるじあるじあるじももも肴肴さかなもとむもとむもとむとととのののいそぎいそぎいそぎありくありくありくほどほどほど、、、君君きみはははのどやかのどやかのどやかににに詠詠ながめめめ給給たまひひいててて、、、かのかのかの中中なかののの品品しなににに取取とりりり出出いでゝでゝでていひいひいいしししこのこのこのなみなみなみならならならむむんかしかしかしととと覺覺おぼししし出出いづづず。。。
- 16思思おもひひいあがれあがれあがれるるる氣色氣色けしきににに聞聞ききききおきおきおき給給たまへへえるるるむすめむすめむすめなれなれなればばば、、、ゆかしくゆかしくゆかしくててて耳耳みみとゞめとゞめとどめ給給たまへへえるるるににに、、、このこのこの西西にしおもておもておもてにににぞぞぞ人人ひとのののけはひけはひけわいするするする。。。
- 17きぬきぬきぬののの音音おとなひなひないはらはらはらはらはらはらとととしししててて若若わかききき聲聲こえどもどもどもにくからにくからにくからずずず。。。さすがにさすがにさすがにしのびしのびしのびてててわらひわらひわらいなどなどなどするするするけはひけはひけわいことさらびことさらびことさらびたりたりたり。。。
- 18格子格子こうしをををあげあげあげたりたりたりけれけれけれどどど、、、かみかみかみ、、、心心こころなしなしなしとととむつかりむつかりむつかりててておろしおろしおろしつれつれつればばば、、、火火ひともしともしともしたるたるたるすきすきすき影影かげののの紙紙かみよりよりより漏漏もりりりたるたるたるににに、、、やをらやをらやおら寄寄よりりり給給たまひひいててて、、、見見みゆゆゆやややとととおぼせおぼせおぼせどどどひまひまひまもももなけれなけれなければばばしばししばししばし聞聞きききき給給たまふふうににに、、、
- 19このこのこの近近ちかきききににに集集つどひひい居居いたるたるたるなるなるなるべしべしべし、、、うちさゝめきうちさゝめきうちささめき言言いふふう事事ことどもどもどもををを聞聞きききき給給たまへへえばばば、、、我我わががが御御おんうへうへうえなるなるなるべしべしべし。。。
- 20「「「いといといといたういたういとうまめだちまめだちまめだちてててまだきまだきまだきにににやんごとなきやんごとなきやんごとなきよすがよすがよすが定定さだまりまりまり給給たまへへえるるるこそこそこそさうざうしかさうざうしかそうぞうしかめれめれめれ。。。されどされどされどさるべきさるべきさるべき隈隈くまにはにはにはよくよくよくこそこそこそかくれかくれかくれありきありきありき給給たまふふうなれなれなれ」」」などなどなどいふいふいうにもにもにもおぼすおぼすおぼす事事ことのみのみのみ心心こころにににかゝりかゝりかかり給給たまへへえれれればばばまづまづまず胸胸むね潰潰つぶれれれててて、、、かやうかやうかようのののついでついでついでにもにもにも人人ひとののの言言いひひい漏漏もさささむむんををを聞聞ききききつけつけつけたらたらたらむむん時時ときなどなどなど覺覺おぼえええ給給たまふふう。。。
- 21異異ことなるなるなる事事ことなけれなけれなければばばきゝさしきゝさしききさし給給たまひひいつつつ。。。式部卿式部卿しきぶきょうののの宮宮みやののの姫君姫君ひめぎみににに、、、朝顏朝顏あさがお奉奉たてまつりりり給給たまひひいしししなどなどなどををを、、、少少すこししし頰頰つらゆがめゆがめゆがめててて語語かたるるるももも聞聞きこゆゆゆ。。。
- 22くつろぎがましくくつろぎがましくくつろぎがましく歌歌うたずんじずんじずんじがちがちがちにもにもにもあるあるあるかなかなかな。。。猶猶なお見見み劣劣おとりりりはははしししなむなむなんかしかしかしとととおぼすおぼすおぼす。。。
- 23守守かみ出出いででできききててて、、、かけかけかけそへそへそえ火火ひあかくあかくあかくかゝげかゝげかかげなどなどなどしししててて御御おんくだものくだものくだものばかりばかりばかり參參まいれれれりりり。。。
- 24「「「もももいかにいかにいかに。。。さるさるさる方方かたののの心心こころもももなくなくなくてててはははめざましきめざましきめざましきあるじあるじあるじならならならむむん」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば「「「何何なによけよけよけむむんともともとも得得えうけうけうけ給給たまはらはらわらずずず」」」ととと畏畏かしこまりまりまりててて侍侍さぶらふふう。。。
- 25端端はしつつつ方方かたのののおましおましおましににに、、、假假かりなるなるなるやうやうようにてにてにて大殿大殿おおとのごもれごもれごもればばば人々人々ひとびともももしづまりしづまりしずまりぬぬぬ。。。
- 26あるじあるじあるじののの子子こどもどもどもをかしげをかしげおかしげにてにてにてありありあり。。。童童わらわなるなるなる殿上殿上てんじょうのののほどほどほどににに御覽御覽ごらんじじじ馴馴なれれれたるたるたるもももありありあり。。。伊豫伊豫いよののの介介すけののの子子こもももありありあり。。。あまたあまたあまたあるあるある中中なかににに、、、いといといとけはひけはひけわいあてはかあてはかあてはかにてにてにて十二三十二三じゅうにさんばかりばかりばかりなるなるなるもももありありあり。。。
- 27「「「いづれいづれいずれかかかいづれいづれいずれ」」」などなどなど問問とひひい給給たまふふうににに「「「これこれこれははは故故こ衛門衛門えもんのののののの末末すえののの子子こにてにてにていといといと悲悲かなくしくしくし侍侍はべりりりけるけるけるををををさなきをさなきおさなき程程ほどににに後後おくれれれ侍侍はべりりりててて姉姉あねなるなるなる人人ひとのののよすがよすがよすがにににかくかくかくててて侍侍はべるるるなりなりなり。。。ざえざえざえなどなどなどもももつきつきつき侍侍はべりりりぬぬぬべくべくべくけしうけしうけしゅうははは侍侍はべらららぬぬぬををを殿上殿上てんじょうなどなどなどももも思思おもううう給給たまへへえかけかけかけながらながらながらすがすがしうすがすがしうすがすがしゅうはははえええ交交まじらひらひらい侍侍はべらららざざざめるめるめる」」」ととと申申もうすすす。。。
- 28「「「あはれあはれあわれのののことことことややや。。。このこのこの姉君姉君あねぎみやややののの後後のちののの親親おや」」」、、、「「「さささなむなむなん侍侍はべるるる」」」ととと申申もうすすすににに、、、「「「似似にげなきげなきげなき親親おやをををもももまうけまうけもうけたりたりたりけるけるけるかなかなかな。。。
- 29うへうへうえにもにもにも聞聞きこしししめしめしめしおきおきおきててて、、、宮仕宮仕みやずかえににに出出いだししし立立たてててむむんととともらしもらしもらし奏奏そうせせせしししををを、、、いかにいかにいかになりなりなりにににけむけむけんととといつぞやいつぞやいつぞやのたまはせのたまはせのたまわせししし、、、世世よこそこそこそ定定さだめめめなきなきなきものものものなれなれなれ」」」などなどなどいといといとおよすげおよすげおよすげのたまふのたまふのたまう。。。
- 30「「「不意不意ふいにににかくかくかくててて物物ものししし侍侍はべるるるなりなりなり。。。世世よののの中中なかととといふいふいうものものものさささのみのみのみこそこそこそ今今いまももも昔昔むかしももも定定さだまりまりまりたるたるたる事事こと侍侍はべらららねねね。。。中中なかににについついついてててももも女女おんなののの宿世宿世すくせはははうかびうかびうかびたるたるたるなむなむなん哀哀あわれににに侍侍はべるるる」」」などなどなど聞聞きこえええさすさすさす。。。
- 31「「「伊豫伊豫いよののの介介すけはははかしづくかしづくかしずくややや。。。君君きみととと思思おもふふうらむらむらんななな」」」。。。「「「いかゞいかゞいかがははは。。。私私わたくしのののしうとしうとしゅうとこそこそこそははは思思おもひひいててて侍侍はべるるるめるめるめるををを、、、すきずきしきすきずきしきすきずきしき事事こととととなにがしなにがしなにがしよりよりより始始はじめめめめてててうけひきうけひきうけひき侍侍はべらららずずずなむなむなん」」」ととと申申もうすすす。。。
- 32「「「さりともさりともさりともまうとまうともうとたちたちたちのののつきづきしくつきづきしくつきづきしく今今いまめきめきめきたらたらたらむむんにににおろしおろしおろしたてたてたてむむんやはやはやは。。。かのかのかの介介すけはははいといといとよしよしよしありありありててて氣色氣色けしきばめばめばめるるるをををややや」」」などなどなど物語物語ものがたりししし給給たまひひいつゝつゝつつ、、、
- 33「「「何方何方いずかたにににぞぞぞ」」」、、、「「「皆皆みなしもやしもやしもやにににおろしおろしおろし侍侍はべりりりぬるぬるぬるをををえええややや罷罷まかりりりおりおりおりあへあへあえざらざらざらむむん」」」ととと聞聞きこゆゆゆ。。。醉醉えひひい進進すすみみみててて皆皆みな人々人々ひとびと簀子簀子すのこににに臥臥ふしししつゝつゝつつしづまりしづまりしずまりぬぬぬ。。。
- 34君君きみははは解解とけけけてててももも寢寢ねられられられ給給たまははわずずず、、、とととおぼさるゝおぼさるゝおぼさるるににに、、、御御おん目目め覺覺さめめめててて、、、このこのこの北北きたのののさうじさうじそうじのののあなたあなたあなたににに人人ひとのののけはひけはひけわいするするするををを、、、
- 35此方此方こなたやややかくかくかくいふいふいう人人ひとののの隱隱かくれれれたるたるたる方方かたならならならむむん、、、哀哀あわれれれやややととと御心御心みこころ留留とどめめめててて、、、やをらやをらやおら起起おきききててて立立たちちち聞聞きききき給給たまへへえばばば、、、
- 36ありありありつるつるつる子子こののの聲聲こえにてにてにて、、、「「「ものものものうけうけうけ給給たまはるはるわる。。。いづくいづくいずくにににおはしますおはしますおわしますぞぞぞ」」」とととかれかれかれたるたるたる聲聲こえのののをかしきをかしきおかしきにてにてにていへいへいえばばば、、、
- 37「「「こゝこゝここにににぞぞぞ臥臥ふしししたるたるたる。。。まらうどまらうどまろうどははは寢寢ね給給たまひひいぬるぬるぬるかかか。。。いかにいかにいかに近近ちかからからからむむんととと思思おもひひいつるつるつるををを、、、されどされどされどけどほかりけどほかりけどおかりけりけりけり」」」ととといふいふいう。。。
- 38寢寢ねたりたりたりけるけるける聲聲こえのののしどけなきしどけなきしどけなきいといといと能能よくくく似通似通にかよひひいたれたれたればばばいもうといもうといもうとゝゝと聞聞きききき給給たまひひいつつつ。。。
現代語訳
やっと今日は天気も回復した。こうして宮中にばかり籠もっていらっしゃるのも、左大臣家のお気持ちがお気の毒なので、源氏は退出なさった。邸の様子も、葵の上の人柄も、きわだって気品があり、乱れたところがなく、やはりこの人こそ、あの人々が捨てがたいと言っていた、誠実な妻として頼りにできる人なのだろうとお思いになる。けれども、あまりにきちんとしたご様子で打ち解けにくく、こちらが気後れするほどすましていらっしゃるのが物足りなくて、中納言の君や中務などといった、並々でない若い女房たちに冗談などをおっしゃりながら、暑さにくつろいでいらっしゃるお姿を、女房たちは見るかいがあると思っている。
左大臣もお越しになって、源氏がくつろいでいらっしゃるので、御几帳を隔ててお座りになり、お話し申し上げなさるのを、源氏が「暑いのに」と顔をしかめなさるので、女房たちは笑う。「静かに」と言って脇息に寄りかかっていらっしゃる。まことにのびのびとしたお振る舞いである。
暗くなる頃、女房が「今夜は、中神が宮中からこちらの方角にふさがっております」と申し上げる。「そうだった。いつも避けている方角だ。二条院も同じ方角で、どこへ方違えしたものか。たいそう気分が悪いのに」と言って、お休みになった。「とても悪いことです」と、皆が申し上げる。「紀伊守で、親しくお仕えしている者の、中川のあたりにある家が、この頃、川の水をせき入れて涼しい木陰になっております」と申し上げる。「それはたいへんよい。気分が悪いので、牛車ごと引き入れられるような所がいい」とおっしゃる。
お忍びの方違えの場所はたくさんあるだろうが、久しぶりに左大臣邸においでになったのに、方角がふさがっているからといって、ほかの女のところへ行ったとお思いになるのは、葵の上にお気の毒だと思われたのだろう。紀伊守にご命令をくだされると、お引き受けしながら引き下がって、「父の伊予守の朝臣の家に慎むことがございまして、女房たちが私の家に移ってきている時ですので、狭いところで、失礼なことがあるかもしれません」と陰で嘆くのをお聞きになって、源氏は「その人たちが近くにいるのはうれしいだろう。女のいない旅寝は、なんとなく恐ろしい気がするから、ただその几帳の後ろにでも」とおっしゃるので、「なるほど、よいご座所にも」と言って、人を走らせて準備をさせる。
ごく内密に、わざと大げさでない所をと、急いでお出かけになったので、左大臣にも申し上げず、お供にも親しい者だけを連れておいでになった。紀伊守は急なことだと困るが、誰も聞き入れない。寝殿の東の面を片付けて開けさせ、仮のご座所をしつらえた。遣水の趣なども、それなりに風情深くこしらえてある。田舎家風の柴垣をめぐらし、植え込みなども心をこめて植えてある。風が涼しくて、どこからともなく虫の声々が聞こえ、蛍がしきりに飛び交って、趣深い頃である。
お供の人々は、渡殿の下から湧き出ている泉をのぞきこむように座って酒を飲む。主人の紀伊守も、肴を探し求めて「こゆるぎの急ぎ」とばかりに走りまわっているあいだ、源氏はのんびりと物思いにふけって、あの品定めで「中の品」として取り出して言っていたのは、こういう家のことだろうとお思い出しになる。
気位が高いと前から聞いていた娘(空蟬)なので、ゆかしく思って耳をとめていらっしゃると、この西の面に人の気配がする。衣ずれの音がさらさらとして、若い女たちの声も感じがよい。さすがに遠慮して笑ったりする様子も、わざとらしい。格子を上げていたが、紀伊守が「不用心だ」と叱って下ろしたので、灯をともした明かりが襖の紙から漏れているところに、そっとお寄りになって、見えるかとお思いになるが、すき間もないので、しばらく聞いていらっしゃると、この近くの母屋に集まっているらしく、ひそひそと話していることを聞くと、ご自分の噂のようである。
「とてもまじめにしていらして、まだ若いうちに、高貴な奥方がお決まりになったのは物足りないことでしょう。けれども、しかるべき隠れ家には、よくお忍びでお通いになるそうよ」などと言うのにつけても、源氏は思い続けていること(藤壺とのこと)ばかりが気にかかっていらっしゃるので、まず胸がどきりとして、こういう折にも、人が噂をもらしているのを聞きつけるようなことがあったら、などとお思いになる。とりたてて特別な話でもないので、聞くのを途中でおやめになった。式部卿宮の姫君に、朝顔を差し上げなさった時の歌などを、少し言葉を違えて語っているのも聞こえる。くつろいで、歌を口ずさみがちなことよ、やはり会えば見劣りがするだろう、とお思いになる。
紀伊守が出てきて、灯籠を掛け加え、灯火を明るくかき立てなどして、果物だけを差し上げた。源氏が「帳台のほうはどうなっているのか。そちらの用意もなくては、気のきかない主人というものだろう」とおっしゃると、紀伊守は「何がよろしいかも存じません」と、かしこまって控えている。源氏は端の方のご座所に、仮のようにしてお休みになったので、人々も静かになった。
主人の子どもたちがかわいらしい様子でいる。殿上童として、源氏が見慣れていらっしゃる子もいる。伊予介の子もいる。大勢いる中に、たいそう上品な様子の、十二、三歳ほどの子もいる。源氏が「どれが誰の子か」などとお尋ねになると、紀伊守は「これは故衛門督の末の子で、たいそうかわいがっていましたが、幼いうちに父に先立たれまして、姉の縁でこうしてここにおります。学問なども身につきそうで、悪くはないのですが、殿上童に上がることなども考えていながら、すんなりとは宮仕えできないようです」と申し上げる。
「かわいそうなことだ。この子の姉君が、おまえの継母なのか」。「さようでございます」と申し上げると、「似つかわしくない母親を持ったものだな。帝もお聞きになっていて、宮仕えに出そうと衛門督がそれとなく申し上げていたのを、どうなったのだろうと、いつだったかおっしゃっていた。世の中は定めないものだな」などと、たいそう大人びておっしゃる。紀伊守は「思いがけずこうしているのでございます。世の中というものは、そのように今も昔も定まったことはございません。中でも、女の運命は浮き草のようで、哀れでございます」などと申し上げる。
「伊予介は大切にしているのか。主君のように思っているのだろうな」。「どうしてそうでないことがありましょう。私的な主人として大事に思っているようですが、色好みなことだと、私をはじめ、皆が賛成していないのでございます」と申し上げる。「そうはいっても、おまえたちのような似合いの年頃の、当世風な者に譲るだろうか。あの伊予介は、たいそうたしなみがあって、気取っているからな」などとお話しになりながら、「その人はどちらに」と尋ねなさると、「皆、下屋に下がらせましたが、まだ下がりきっていないかもしれません」と申し上げる。
酔いがまわって、お供の人々は皆、簀子に横になって静かになった。源氏はくつろいで眠ることもおできにならず、むなしい独り寝だとお思いになるので、目がさえて、この北の襖の向こうに人の気配がするのを、ここがあの話に出た女の隠れているところだろうか、かわいそうに、と心をおとめになって、そっと起きて立ち聞きなさると、さっきの子の声で、「もしもし、どこにいらっしゃるのですか」と、かすれた声のかわいらしい様子で言うと、「ここに寝ています。お客様はお休みになったの。どんなに近いかと思ったけれど、思ったより離れていたわね」と言う。寝ていた声のしどけない様子が、たいそうよく似通っているので、姉だとお聞き取りになった。
意訳
品定めの翌日、源氏は正妻の葵の上のもとへ帰るが、葵の上は気品があるものの、打ち解けない人だった。方違えのために中川の紀伊守邸へ移るのも、葵の上への遠慮からであった。そこに伊予介の若い後妻が来ていると聞いた源氏は、品定めの「中の品」の話を思い出し、興味をひかれる。
襖越しに聞こえる女房たちの噂話に、源氏は藤壺との秘密が漏れているのではないかと胸を騒がせる。この一瞬の描写から、源氏の心にある秘密の深さがうかがえる。空蟬の弟の小君との会話、継母と継子の関係への源氏の関心など、空蟬の物語の舞台が少しずつ整えられていく。
語釈・文法注
- まめ人
- 誠実な人。品定めで左馬頭たちが、妻にするならこういう人だと言っていた女性。
- あなかま
- しっ、静かに。人の話をさえぎる言葉。
- 中神
- 天一神(なかがみ)。陰陽道の神で、一定の日数ごとに方角を移る。この神のいる方角へ行くのは凶とされ、方違えをした。
- 方違へ
- 凶の方角へ行くのを避けるため、前夜にいったん別の方角の家に泊まり、方角を変えてから目的地へ向かうこと。
- したに
- 心の中で、陰で。
- こゆるぎのいそぎ
- 催馬楽「玉垂」の「玉垂の小瓶(こがめ)を中に据ゑて、主人(あるじ)はも、肴求(ま)ぎに、小余綾(こゆるぎ)の磯の若布(わかめ)刈り上げに」をふまえる。「こゆるぎの磯」と「急ぎ」を掛けて、主人が肴を探して走りまわる様子をいう。
- さうじ
- 障子(そうじ)。襖。部屋を仕切る建具。
- もや
- 母屋。寝殿の中央の部屋。
- 朝顏奉り給ひし歌
- 源氏が式部卿宮の姫君(のちの朝顔の姫君)に朝顔の花に添えて贈った歌。この話は物語の中ではここで初めて出てくる。
- とうろ
- 灯籠(とうろう)。
- とばりちやう
- 帳台(ちょうだい)の帷(とばり)。寝所。また、「帷帳もいかに」で、女性のもてなしはどうか、という冗談も含むと解されている。
- 衛門のかみ
- 衛門督(えもんのかみ)。衛門府の長官。空蟬と小君の亡父。
- まうと
- 真人(まうと)。目下の者を呼ぶ言葉。おまえ。
- いたづらぶし
- むなしく一人で寝ること。
文法
- 伝聞の助動詞「なり」(かくれありき給ふなれ)
- 終止形接続の「なり」は伝聞。「…そうだ」。係助詞「こそ」の結びで已然形「なれ」になる。
- 推量「べし」(我が御うへなるべし)
- 語り手の推量。「ご自分のことらしい」。
- 打消推量「じ」+疑問(え罷りおりあへざらむ)
- 「ざらむ」は打消「ず」の未然形+推量「む」。「下がりきれないでいるかもしれません」。
解説
方違えは、平安貴族の生活に深く根づいた陰陽道の習慣である。行き先の方角が凶の日には、前夜に別の家に泊まって方角を変えた。源氏が空蟬と出会うのも、この方違えがきっかけである。物語は、当時の生活の決まりごとを巧みに筋立てに取り入れている。
襖越しに女房たちの噂を聞く場面で、源氏が「おぼす事のみ心にかゝり給へれば」胸をつぶすのは、藤壺への思いが知られることを恐れているからである。源氏と藤壺の関係は、物語の表面にはまだはっきり書かれていないが、こうした描写がその存在をほのめかしている。
空蟬は、故衛門督の娘で、本来は宮仕えに出るはずだったが、父の死後、年の離れた伊予介の後妻となった女性である。品定めで語られた「もとはやんごとなきすぢなれど」落ちぶれた中の品の女性そのものであり、源氏が興味をひかれるのも、品定めの話がきっかけになっている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、36–40頁(コマ20–22)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日