古典ライブラリー

源氏物語 第2帖 帚木(7)

常夏の女

登場人物:頭中将・常夏の女・光源氏・左馬頭

頭中将の体験談。身寄りのない、控えめな女と忍んで通い、幼い娘も生まれた。正妻の側からの嫌がらせを受けた女は、撫子の花に添えて歌を送ってきたが、恨みを見せることはなかった。頭中将が足を遠のかせているうちに、女は娘を連れて姿を消してしまう。

秋の荒れた庭に撫子の花が咲き、露にぬれた草むらを見つめて、ひっそりと物思いにふける若い女の場面(AI生成)
秋の荒れた庭に撫子の花が咲き、露にぬれた草むらを見つめて、ひっそりと物思いにふける若い女の場面
  1. 1中將ちゆうじやう中將ちゆうじやうちゅうじょう「「「なにがしなにがしなにがしははは者もの者ものものののの物語ものがたり物語ものがたりものがたりをををせせせむむん」」」とととててて、、、
  2. 2「「「いといといと忍しの忍しのしのびびびててて見み見みみそめそめそめたりたりたりししし人ひと人ひとひとのののさてもさてもさても見み見みみつつつべかりべかりべかりしししけはひけはひけわいなりなりなりしかしかしかばばば、、、ながらふながらふながらうべきべきべきものものものとととしもしもしも思おも思おもおもううう給たま給たまたまへへえざりざりざりしかしかしかどどど、、、馴な馴ななれれれ行ゆ行ゆゆくくくまゝまゝままににに哀あはれ哀あはれあわれとととおぼえおぼえおぼえしかしかしかばばば、、、たえだえたえだえたえだえ忘わす忘わすわすれれれぬぬぬものものものににに思おも思おもおもひひい給たま給たまたまへへえしししををを、、、さばかりさばかりさばかりににになれなれなればばばうちうちうち賴たの賴たのたのめめめるるるけしきけしきけしきももも見み見みみえええききき。。。
  3. 3賴たの賴たのたのむむむにににつけつけつけてててははは、、、怨うら怨うらうらめしめしめしととと思おも思おもおもふふう事こと事ことこともももあらあらあらむむんととと心こころ心こころこころながらながらながら覺おぼ覺おぼおぼゆるゆるゆる折々をりをり折々をりをりおりおりももも侍はべ侍はべはべりりりしししををを、、、見み見みみ知し知ししらららぬぬぬやうやうようにてにてにて久ひさ久ひさひさしきしきしきとだえとだえとだえをををもももかうかうこうたまさかたまさかたまさかなるなるなる人ひと人ひとひとともともとも思おも思おもおもひひいたらたらたらずずず、、、唯ただ唯ただただ朝夕あさゆふ朝夕あさゆふあさゆうにににもてつけもてつけもてつけたらたらたらむむん有樣ありさま有樣ありさまありさまににに見み見みみえええててて心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしかりしかりしかりしかしかしかばばば、、、賴たの賴たのたのめめめ渡わた渡わたわたるるる事こと事ことことなどなどなどもももありありありきききかしかしかし。。。
  4. 4親おや親おやおやもももなくなくなくいといといと心細こころぼそ心細こころぼそこころぼそげげげにてにてにて、、、さらばさらばさらばこのこのこの人ひと人ひとひとこそこそこそはははととと事こと事ことことににに觸ふ觸ふふれれれててて思おも思おもおもへへえるるるさまさまさまもももらうたげらうたげろうたげなりなりなりききき。。。
  5. 5かうかうこうのどけきのどけきのどけきにににててて久ひさ久ひさひさしくしくしく罷まか罷まかまからららざりざりざりししし頃ころ頃ころころ、、、このこのこの見み見みみ給たま給たまたまふるふるうるよりよりよりなさけなくなさけなくなさけなくうたてうたてうたてあるあるある事こと事ことことをををなむなむなんさるさるさるたよりたよりたよりありありありてててかすめかすめかすめいはせいはせいわせたりたりたりけるけるける。。。
  6. 6後のち後のちのちにににこそこそこそ聞き聞ききききき侍はべ侍はべはべりりりしかしかしか、、、さるさるさる憂う憂ううききき事こと事ことことやややあらあらあらむむんともともとも知し知ししらららずずず、、、心こころ心こころこころにはにはには忘わす忘わすわすれれれずずずながらながらながらせうそこせうそこしょうそこなどなどなどもももせせせででで久ひさ久ひさひさしくしくしく侍はべ侍はべはべりりりしししににに、、、
  7. 7むげにむげにむげに思おも思おもおもひひいしをれしをれしおれててて心細こころぼそ心細こころぼそこころぼそかりかりかりけれけれければばば、、、をさなきをさなきおさなき者もの者ものものなどなどなどもももありありありしししににに思おも思おもおもひひい煩わづら煩わづらわずらひひいてててののの花はな花はなはなををを折をり折をりおりりりりててておこせおこせおこせたりたりたりししし」」」とととててて淚なみだ淚なみだなみだぐみぐみぐみたりたりたり。。。
  8. 8「「「さてさてさてそのそのその文ふみ文ふみふみののの詞ことば詞ことばことばははは」」」ととと問と問ととひひい給たま給たまたまへへえばばば、、、「「「いさやいさやいさや、、、異こと異ことことなるなるなる事こと事ことこともももなかりなかりなかりきききややや。。。
  9. 9「「「山やま山やまやまのののかきほかきほかきお荒あ荒ああるるるともともとも折々をりをり折々をりをりおりおりににに哀あはれ哀あはれあわれはははかけよかけよかけよなでしこなでしこなでしこののの露つゆ露つゆつゆ」」」。。。和歌
  10. 10思おも思おもおもひひい出い出いいでででしししまゝまゝままににに罷まか罷まかまかりりりたりたりたりしかしかしかばばば、、、例れい例れいれいのののもももなきなきなきものものものからからからいといといと物思ものおも物思ものおもものおもひひいがほがほがおにてにてにて荒あ荒ああれれれたるたるたる家いへ家いへいえののの露つゆ露つゆつゆ繁しげ繁しげしげきききをををながめながめながめててて、、、蟲むし蟲むしむしののの音ね音ねねにににきほへきほへきおえるるる氣色けしき氣色けしきけしき、、、昔物語むかしものがたり昔物語むかしものがたりむかしものがたりめきめきめきててておぼえおぼえおぼえ侍はべ侍はべはべりりりししし。。。
  11. 11「「「咲さ咲ささきききまじるまじるまじる花はな花はなはなはははいづれいづれいずれとととわかわかわかねねねどもどもども猶なほ猶なほなおにににしくしくしくものものものぞぞぞなきなきなき」」」。。。和歌
  12. 12やまとなでしこやまとなでしこやまとなでしこをををばばばさしさしさし置お置おおきききてててまづまづまずをををだにだにだになどなどなど親おや親おやおやののの心こころ心こころこころをををとるとるとる。。。
  13. 13「「「うちうちうちはらふはらふはらう袖そで袖そでそでももも露つゆ露つゆつゆけきけきけきとこなつとこなつとこなつにににあらしあらしあらし吹ふ吹ふふきききそふそふそう秋あき秋あきあきももも來き來ききにににけりけりけり」」」とととはかなげはかなげはかなげににに言い言いいひひいなしなしなしててて、、、まめまめしくまめまめしくまめまめしく恨うら恨うらうらみみみたるたるたるさまさまさまももも見み見みみえええずずず。。。和歌
  14. 14淚なみだ淚なみだなみだををを漏も漏ももししし落おと落おとおとしししてててもももいといといと耻はづか耻はづかはずかかしくかしくかしくつゝましげつゝましげつつましげににに紛まぎら紛まぎらまぎらはしはしわし隱かく隱かくかくしししてててつらきつらきつらきをををももも思おも思おもおもひひい知し知ししりりりけりけりけりととと見み見みみえええむむんはははわりなくわりなくわりなく苦くる苦くるくるしきしきしきものものものととと思おも思おもおもひひいたりたりたりしかしかしかばばば心安こころやす心安こころやすこころやすくくくててて又また又またまたとだえとだえとだえ置お置おおききき侍はべ侍はべはべりりりしししほどほどほどににに、、、跡あと跡あとあともももなくなくなくこそこそこそかきかきかき消け消けけちちちててて失う失ううせせせにににしかしかしか。。。
  15. 15まだまだまだ世よ世よよにににあらあらあらばばばはかなきはかなきはかなき世よ世よよにににぞぞぞさすらふさすらふさすらうらむらむらん。。。
  16. 16哀あは哀あはあわれれれととと思おも思おもおもひひいししし程ほど程ほどほどににに、、、煩わづら煩わづらわずらはしげはしげわしげににに思おも思おもおもひひいまとはすまとはすまとわす氣色けしき氣色けしきけしき見み見みみえええましかましかましかばばばかくかくかくもももあくがらさあくがらさあくがらさゞらゞらざらましましまし。。。こよなきこよなきこよなきとだえとだえとだえ置お置おおかかかずずず、、、さるさるさるものものものにににしししなしなしなしててて長なが長ながながくくく見み見みみるるるやうやうようももも侍はべ侍はべはべりりりなななましましまし。。。
  17. 17かのかのかの瞿麥なでしこ瞿麥なでしこなでしこのののらうたくらうたくろうたく侍はべ侍はべはべりりりしかしかしかばばばいかでいかでいかで尋たづ尋たづたずねねねむむんととと思おも思おもおもひひい給たま給たまたまふるふるうるををを、、、今いま今いまいまにににえええこそこそこそ聞き聞きききききつけつけつけ侍はべ侍はべはべらららねねね。。。これこれこれこそこそこそのたまひのたまひのたまいつるつるつるはかなきはかなきはかなき例れい例れいれいなななめれめれめれ。。。
  18. 18つれなくつれなくつれなくてててつらしつらしつらしととと思おも思おもおもひひいけるけるけるももも知し知ししらららででであはれあはれあわれ絕た絕たたえええざりざりざりしししもももなきなきなき片思かたおもひ片思かたおもひかたおもいなりなりなりけりけりけり。。。
  19. 19今いま今いまいまやうやうやうやうようよう忘わす忘わすわすれれれ行ゆ行ゆゆくくくきはきはきわににに、、、かれかれかれはははたたたえええしもしもしも思おも思おもおもひひい離はな離はなはなれれれずずず折々をりをり折々をりをりおりおりやりやりやりならならならぬぬぬ胸むね胸むねむねこがるゝこがるゝこがるる夕ゆふ夕ゆふゆうもももあらあらあらむむんととと覺おぼ覺おぼおぼえええ侍はべ侍はべはべるるる。。。これこれこれなむなむなんえええ保たも保たもたもつつつまじくまじくまじく賴たの賴たのたのもしげもしげもしげなきなきなき方かた方かたかたなりなりなりけるけるける。。。
  20. 20さればさればさればかのかのかのさがなものさがなものさがなものももも思おも思おもおもひひいいでいでいであるあるある方かた方かたかたににに忘わす忘わすわすれれれ難かた難かたかたけれけれけれどどど、、、さしさしさし當あた當あたあたりりりててて見み見みみむむんにはにはには煩わづら煩わづらわずらはしくはしくわしく、、、ようせようせようせずずずはははあきたきあきたきあきたき事こと事ことこともももありありありなむなむなんややや。。。琴こと琴ことことののの音ね音ねねすゝめすゝめすすめりりりけむけむけんかどかどしさかどかどしさかどかどしさももも好この好このこのきききたるたるたる罪つみ罪つみつみ重おも重おもおもかるかるかるべしべしべし。。。
  21. 21このこのこの心こころ心こころこころもとなきもとなきもとなきももも疑うたが疑うたがうたがひひい添そ添そそふふうべけれべけれべければばばいづれいづれいずれととと遂つひ遂つひついににに思おも思おもおもひひい定さだ定さださだめめめずずずなりなりなりぬるぬるぬるこそこそこそ世よ世よよののの中なか中なかなかややや。。。唯ただ唯ただただかくかくかくぞぞぞとりどりとりどりとりどりにににくらべくらべくらべ苦くる苦くるくるしかるしかるしかるべきべきべき。。。
  22. 22このこのこのさまざまさまざまさまざまのののよきよきよき限かぎり限かぎりかぎりををを採と採ととりりり具ぐ具ぐぐししし、、、難なん難なんなんずずずべきべきべきまぜまぜまぜぬぬぬ人ひと人ひとひとはははいづこいづこいずこにににかかかはははあらあらあらむむん。。。
  23. 23ををを思おも思おもおもひひいかけかけかけむむんとととすれすれすればばばげづきげづきげずきむむんこそこそこそ又また又またまたわびしかりわびしかりわびしかりぬぬぬべけれべけれべけれ」」」とととててて皆みな皆みなみな笑わら笑わらわらひひい給たま給たまたまひひいぬぬぬ。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

頭中将は「私は愚か者の話をしましょう」と言って、語りはじめる。「ごく内緒で通いはじめた女で、そのまま連れ添ってもよさそうな様子でしたので、長く続くとは思っておりませんでしたが、なじむにつれていとしく思われたので、途切れがちながらも忘れられない人と思っておりましたところ、それほどの仲になると、私を頼りにしている様子も見えました。

頼りにされるにつけては、恨めしく思うこともあるだろうと、我ながら思われる折々もありましたが、女は知らないふりをして、長い間訪れが途絶えても、たまにしか来ない人とも思わず、ただ朝夕に連れ添っている夫に対するように振る舞っていて、いじらしかったので、これからも頼りにしてよいと約束したこともありました。親もなく、たいそう心細い身の上で、それならこの人こそ頼りにしようと、何かにつけて思っている様子もかわいらしいものでした。

こうして女がおっとりしているのに安心して、長い間通わなかった頃、私の妻の方から、情けない、ひどいことを、しかるべきつてがあって、それとなく言わせたのでした。そのことは後になって聞いたのです。そんなつらいことがあったとも知らず、心の中では忘れないながらも便りもしないで、長い間たっていましたところ、女はひどく気落ちして心細かったので、幼い子どももいたことから思い悩んで、撫子の花を折って送ってきたのです」と言って涙ぐむ。

源氏が「それで、その手紙の言葉は」とお尋ねになると、頭中将は「さあ、特別なこともありませんでしたよ。

『山がつの家の垣根は荒れても、ときどきは情けをかけてください、この撫子の花に』。

それを見て思い出したままに出かけてみると、いつものように隠しだてする様子もないものの、たいそう物思いに沈んだ顔で、荒れた家の露がしげく置いた庭をながめて、虫の音と競うように泣いている様子は、昔物語のように思われました。

『咲きまじる花はどれがよいとも見分けがつかないが、やはり常夏に及ぶものはない』。

大和撫子(娘)のことはさておいて、まず『塵をだに』などと、母親の機嫌をとりました。

『涙を払う袖も露にぬれている常夏に、嵐まで吹き添う秋もやって来てしまいました』と、はかなげに言いつくろって、本気で恨んでいる様子も見えません。涙をもらしても、たいそう恥ずかしそうに、つつましく紛らわし隠して、私のつれなさを恨めしく思っていると気づかれるのは、どうにもつらいことだと思っていたので、安心してまた訪れを途絶えさせておりましたうちに、跡かたもなく姿を消してしまったのです。

まだこの世に生きているなら、頼りない身の上でさすらっていることでしょう。私がいとしいと思っていた頃に、うるさいほどまとわりつく様子を見せていたら、こんなふうに行方知れずにはさせなかったでしょう。ひどく途絶えさせることなく、それなりの妻として扱って、長く連れ添うこともあったでしょう。

あの撫子がかわいらしかったので、なんとかして探し出したいと思っておりますが、今も消息を聞きつけることができません。これこそ、先ほどおっしゃった、頼りない女の例なのでしょう。女がさりげなくしながら、つらいと思っていたのも知らないで、私が思い続けていたのも、むなしい片思いだったのです。

今ようやく忘れかけた頃に、あちらはまた、私を思い切れずに、折々、誰のせいでもない、自分から胸を焦がす夕べもあるだろうと思われます。これこそ、長く連れ添えない、頼りない方の女だったのです。

そうしてみると、あの嫉妬深い女も、思い出のある点では忘れがたいけれど、いざ連れ添うとなると煩わしくて、悪くすると嫌気がさすこともあるでしょう。琴の音にひかれたという才気ばった女も、浮気な罪が重いでしょう。この頼りない女も、疑わしさが加わるので、結局どれと決められないのが、世の中というものでしょう。ただこうして、それぞれ比べるのが難しいのです。

このいろいろなよいところばかりを取りそろえて、非難すべき点を少しもまじえない人は、どこにいるでしょう。吉祥天女に思いをかけようとすれば、抹香くさく、人間離れしているのも、また困るでしょう」と言うので、皆お笑いになった。

意訳

頭中将の語る「常夏の女」は、控えめで、恨みを口にしない女である。正妻の側から脅されても夫に訴えることなく、撫子の花に託してわずかに思いを伝えるだけだった。頭中将はその控えめさに甘えて足を遠のかせ、女は幼い娘を連れて姿を消してしまう。

この女は、のちの夕顔の巻で源氏が出会う「夕顔」その人であり、行方知れずの娘はのちの玉鬘である。品定めの中のひとつの体験談が、そのまま次の物語の伏線になっている。頭中将は、自分の恋人が親友の源氏と関わることになるとは、まだ知らない。

語釈・文法注

しれ者
愚か者、ばか者。
おだし
穏やかである、のんびりしている。
この見給ふるわたり
私が連れ添っているあたり。頭中将の正妻(右大臣の四の君)の方を遠回しに言う。
瞿麥(なでしこ)
撫子の花。夏から秋に咲く。「撫でし子」として、かわいい子どもにたとえられる。
山がつ
山里に住む身分の低い者。女が自分をへりくだっていう。
うら
心の内、隠しだて。「うらもなき」で、隠しだてのない、無邪気な。
とこなつ
常夏。撫子の別名。「床」を掛けて、共寝した女の意を含む。
ちりをだに
『古今和歌集』の凡河内躬恒の歌「塵をだにすゑじとぞ思ふ咲きしより妹とわが寝るとこなつの花」をふまえる。母親である女を大切にしている、と機嫌をとること。
やく
益(やく)。かい、効果。「やくなき」で、むなしい。
人やりならぬ
人に強いられたのでない、自分から進んでする。
くさはひ
種類、材料。ここでは非難の種。
吉祥天女
仏教の天女。美しさと福徳の象徴とされる。
法げづく
仏法くさくなる、抹香くさい。
くすし
人間離れしている、堅苦しい。

文法

反実仮想「ましかば…まし」(見えましかば…あくがらさゞらまし)
「もし…だったら、…しなかっただろうに」。事実に反する仮定と、その結果を表す。
係り結び(こそ…しか)(失せにしか)
係助詞「こそ」を受けて、過去の助動詞「き」が已然形「しか」で結ばれている。
推量の助動詞「らむ」(さすらふらむ)
目の前にない、今の様子を推量する。「今ごろさすらっているだろう」。

和歌

山がつのかきほ荒るとも折々に哀はかけよなでしこの露

詠者
常夏の女
状況
頭中将の正妻の側から嫌がらせを受け、心細くなった女が、撫子の花を折って送ってきた歌。粗末な家の垣根は荒れても、ときどきはこの撫子(幼い娘)に情けをかけてください、と頼む。

修辞

見立て
「なでしこ」に幼い娘を、「露」に情けを重ねる。撫子は「撫でし子」として、かわいがる子どもの意を含む。
縁語
「露」と「かけ」は縁語。

咲きまじる花はいづれとわかねども猶とこなつにしくものぞなき

詠者
頭中将
状況
女を訪ねた頭中将が詠んだ歌。咲きまじる花の中でどれがよいとは決めかねるが、やはり常夏(あなた)に及ぶものはない、と母である女をほめる。

修辞

掛詞
「とこなつ」は撫子の別名で、「床(とこ)」を掛け、共寝した女をいう。

うちはらふ袖も露けきとこなつにあらし吹きそふ秋も來にけり

詠者
常夏の女
状況
女の返歌。涙を払う袖も露にぬれている常夏(私)に、嵐が吹きつける秋(あなたに飽きられる時)までもが来てしまった、と嘆く。

修辞

掛詞
「秋」に「飽き」を掛け、男の心変わりをいう。「とこなつ」に「床」を掛ける。
呼び名
この歌から、この女は「常夏の女」と呼ばれる。のちの夕顔である。

解説

「常夏の女」は、品定めの体験談の中でも、物語全体にとってとくに重要な話である。この女はのちの夕顔の巻の夕顔、撫子にたとえられた幼い娘は、のちに玉鬘の巻以下で中心となる玉鬘である。頭中将の何気ない昔話が、のちに源氏と頭中将の二人を深く結びつける物語へと発展していく。

「とこなつ(常夏)」は撫子の別名で、和歌では「床」を掛けて男女の共寝を連想させる。母を「常夏」、娘を「撫子」と呼び分ける頭中将の歌は、親子を花にたとえる巧みなやりとりである。

頭中将が最後に、理想をすべて備えた女は吉祥天女くらいだが、それはそれで抹香くさくて困る、と笑わせるところで、男たちの体験談はひとまず一巡する。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、31–33頁(コマ17–18)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日