古典ライブラリー

源氏物語 第2帖 帚木(6)

木枯らしの女

登場人物:左馬頭・木枯らしの女・殿上人・光源氏・頭中将

左馬頭の二つ目の体験談。才気があり、和歌や琴にすぐれた女のもとへ通っていたが、ある月夜、ほかの男と琴と笛を合わせて歌を交わす姿を見てしまい、通うのをやめた。左馬頭は、浮ついた女には気をつけるよう源氏たちに忠告する。

神無月の月夜、荒れた邸の縁先で殿上人が笛を吹き、御簾の内から女が琴を合わせ、庭の菊と紅葉が月光に浮かぶ場面(AI生成)
神無月の月夜、荒れた邸の縁先で殿上人が笛を吹き、御簾の内から女が琴を合わせ、庭の菊と紅葉が月光に浮かぶ場面
  1. 1「「「さてさてさて又また又またまた同おな同おなおなじじじ頃ころ頃ころころ罷まか罷まかまかりりり通かよ通かよかよひひいししし所ところ所ところところははは、、、人ひと人ひとひとももも立た立たたちちちまさりまさりまさり心こころ心こころこころばせばせばせ誠まこと誠まことまことににに故ゆゑ故ゆゑゆえありありありととと見み見みみえええぬぬぬべくべくべく、、、うちうちうち讀よ讀よよみみみ走はし走はしはしりりりかきかきかき、、、搔か搔かかいいい彈ひ彈ひひくくく爪音つまおと爪音つまおとつまおと手て手ててつきつきつき口くち口くちくちつきつきつき皆みな皆みなみなたどたどしからたどたどしからたどたどしからずずず見み見みみ聞き聞ききききき渡わた渡わたわたりりり侍はべ侍はべはべりりりききき。。。
  2. 2見み見みみるるるめめめももも事こと事ことこともももなくなくなく侍はべ侍はべはべりりりしかしかしかばばば、、、このこのこのをををうちとけうちとけうちとけたるたるたる方かた方かたかたにてにてにて時々ときどき時々ときどきときどきかくろへかくろへかくろえ見み見みみ侍はべ侍はべはべりりりししし程ほど程ほどほどははは、、、いといといとこよなくこよなくこよなく心こころ心こころこころとまりとまりとまり侍はべ侍はべはべりりりききき。。。
  3. 3このこのこの人ひと人ひとひとうせうせうせててて後のち後のちのちいかゞいかゞいかがはははせせせむむん。。。哀あはれ哀あはれあわれながらながらながらももも過す過すすぎぎぎぬるぬるぬるはははかひかひかいなくなくなくてててしばしばしばしばしばしば罷まか罷まかまかりりり馴な馴ななるゝるゝるるまゝまゝままににに、、、少すこ少すこすこしししまばゆくまばゆくまばゆく、、、艶えん艶えんえんににに好この好このこのましきましきましき事こと事ことことははは目め目めめにににつかつかつかぬぬぬ所ところ所ところところあるあるあるににに、、、うちうちうち賴たの賴たのたのむむむべくべくべくははは見み見みみえええずずずにににのみのみのみ見み見みみせせせ侍はべ侍はべはべるるる程ほど程ほどほどににに、、、
  4. 4忍しの忍しのしのびびびててて心こころ心こころこころかはせかはせかわせるるる人ひと人ひとひとぞぞぞありありありけらしけらしけらし。。。
  5. 5月つき月つきつきのののころほひころほひころおい月つき月つきつきおもしろかりおもしろかりおもしろかりししし夜よ夜よようちうちうちよりよりよりまかでまかでまかで侍はべ侍はべはべるるるににに、、、あるあるある來き來きき會あ會ああひひいてててこのこのこの車くるま車くるまくるまにににあひあひあい乘の乘ののりりりててて侍はべ侍はべはべれれればばば、、、大納言だいなごん大納言だいなごんだいなごんののの家いへ家いへいえににに罷まか罷まかまかりりりとまらとまらとまらむむんとととするするするににに、、、
  6. 6このこのこの人ひと人ひとひとのののいふいふいうやうやうよう、、、今宵こよひ今宵こよひこよい人ひと人ひとひとまつまつまつらむらむらんやややとととなむなむなん怪あや怪あやあやしくしくしく心苦こころぐる心苦こころぐるこころぐるしきしきしきとととててて、、、このこのこの女をんな女をんなおんなののの家いへ家いへいえはははたよきたよきたよきぬぬぬ道みち道みちみちなりなりなりけれけれければばば、、、荒あ荒ああれれれたるたるたるくづれくづれくずれよりよりより池いけ池いけいけののの水みづ水みづみずかげかげかげ見み見みみえええててて月つき月つきつきだにだにだにやどれやどれやどれるるるすみかすみかすみかををを過す過すすぎぎぎむむんもももさすがにさすがにさすがにててておりおりおり侍はべ侍はべはべりりりぬぬぬかしかしかし。。。
  7. 7素もと素もともとよりよりよりさるさるさる心こころ心こころこころをををかはせかはせかわせるるるにににやややありありありけむけむけん、、、このこのこの男をとこ男をとこおとこいたくいたくいたくててて門かど門かどかど近ちか近ちかちかきききらうらうろうのののすのこすのこすのこだつだつだつものものものににに尻しり尻しりしりかけかけかけててて、、、とばかりとばかりとばかり月つき月つきつきををを見み見みみるるる。。。
  8. 8菊きく菊きくきくいといといと面白おもしろ面白おもしろおもしろくくく移うつ移うつうつろひろひろいりりりててて、、、風かぜ風かぜかぜにににきほへきほへきおえるるる紅葉もみぢ紅葉もみぢもみじのののみだれみだれみだれなどなどなど哀あはれ哀あはれあわれととと實げ實げげににに見み見みみえええたりたりたり。。。
  9. 9懷ふところ懷ふところふところなりなりなりけるけるける笛ふえ笛ふえふえ取と取ととりりり出い出いいでゝでゝでて吹ふ吹ふふきききならしならしならし、、、かげかげかげもももなどなどなどつゞしりつゞしりつづしりうたふうたふうたう程ほど程ほどほどににに、、、よくよくよく鳴な鳴ななるるるをををしらべしらべしらべとゝのへとゝのへととのえたりたりたりけるけるけるをををうるはしくうるはしくうるわしく搔か搔かかききき合あは合あはあわせせせたりたりたりししし程ほど程ほどほど、、、けしうけしうけしゅうはははあらあらあらずずずかしかしかし。。。
  10. 10のののしらべしらべしらべははは女をんな女をんなおんなののの物もの物ものもの柔やはら柔やはらやわらかかかににに搔か搔かかきききならしならしならしてててすのすのすの內うち內うちうちよりよりより聞きこ聞きこきこえええたるたるたるももも今いま今いまいまめきめきめきたるたるたる物もの物ものものののの聲こゑ聲こゑこえなれなれなればばば、、、淸きよ淸きよきよくくく澄す澄すすめめめるるる月つき月つきつきにににをりをりおりつきなからつきなからつきなからずずず、、、
  11. 11男をとこ男をとこおとこ痛いた痛いたいたくくくめでゝめでゝめでてすのすのすのもともともとににに步あゆ步あゆあゆみみみ來き來ききててて、、、にはにはにはののの紅葉もみぢ紅葉もみぢもみじこそこそこそふみふみふみわけわけわけたるたるたる跡あと跡あとあともももなどなどなどねたまねたまねたますすす。。。菊きく菊きくきくををを折をり折をりおりりりりててて、、、
  12. 12「「「琴こと琴ことことのののねねねももも月つき月つきつきもももえならえならえならぬぬぬ宿やど宿やどやどながらながらながらつれなきつれなきつれなき人ひと人ひとひとをををひきひきひきやややとめとめとめけるけるける。。。わろかわろかわろかめりめりめり」」」などなどなどいひいひいいててて、、、和歌
  13. 13「「「今いま今いまいま一ひと一ひとひと聲こゑ聲こゑこえ聞き聞きききききはやすはやすはやすべきべきべき人ひと人ひとひとのののあるあるある時とき時ときときににに手て手ててなななのこひのこひのこい給たま給たまたまひひい」」」などなどなど、、、いたくいたくいたくかゝれかゝれかかればばば、、、女をんな女をんなおんないたういたういとう聲こゑ聲こゑこえつくろひつくろひつくろいててて、、、
  14. 14「「「木こ木ここがらしがらしがらしににに吹ふ吹ふふきききあはすあはすあわすめるめるめる笛ふえ笛ふえふえのののねねねをををひきひきひきとゞむとゞむとどむべきべきべき言こと言ことことのののはははぞぞぞなきなきなき」」」ととと、、、なまめきなまめきなまめきかはすかはすかわすににににくゝにくゝにくくなるなるなるをををももも知し知ししらららででで和歌
  15. 15又また又またまた箏さう箏さうそうののの琴こと琴ことことをををににに調しら調しらしらべべべててて今いま今いまいまめかしくめかしくめかしくかいかいかい彈ひ彈ひひきききたるたるたるつまおとつまおとつまおとかどかどかどなきなきなきにににはははあらあらあらねねねどどど、、、まばゆきまばゆきまばゆき心地ここち心地ここちここちなむなむなんししし侍はべ侍はべはべりりりししし。。。
  16. 16唯ただ唯ただただ時々ときどき時々ときどきときどきうちうちうち語かた語かたかたらふらふらう宮仕人みやづかへびと宮仕人みやづかへびとみやずかえびとなどなどなどののの飽あ飽ああくくくまでまでまで過す過すすぎぎぎたるたるたるははは、、、さてもさてもさても見み見みみるるる限かぎり限かぎりかぎりはははをかしうをかしうおかしゅうもももありぬありぬありぬべしべしべし。。。
  17. 17時々ときどき時々ときどきときどきにてもにてもにてもさるさるさる所ところ所ところところにてにてにて忘わす忘わすわすれれれぬぬぬよすがよすがよすがととと思おも思おもおもううう給たま給たまたまへへえむむんにににははは、、、賴たの賴たのたのもしげもしげもしげなくなくなくさしさしさしすぐいすぐいすぐいたりたりたりととと心こころ心こころこころおかおかおかれれれててて、、、そのそのその夜よ夜よよののの事こと事ことことにににことづけことづけことずけてててこそこそこそ罷まか罷まかまかりりりたえたえたえにににしかしかしか。。。
  18. 18このこのこの二ふた二ふたふたつつつののの事こと事ことことををを思おも思おもおもううう給たま給たまたまへへえ合あは合あはあわするするするににに、、、若わか若わかわかききき時とき時ときときののの心こころ心こころこころにににだにだにだに猶なほ猶なほなおさやうさやうさようにににもてもてもて出い出いいでででたるたるたる事こと事ことことはははいといといと怪あや怪あやあやしくしくしく賴たの賴たのたのもしげもしげもしげなくなくなく覺おぼ覺おぼおぼえええ侍はべ侍はべはべりりりききき。。。今いま今いまいまよりよりより後のち後のちのちははは、、、ましてましてましてさささのみのみのみなむなむなん思おも思おもおもううう給たま給たまたまへへえらるらるらるべきべきべき。。。
  19. 19御心みこころ御心みこころみこころのののまゝまゝままににに、、、をらをらおらばばば落おと落おとおとちちちぬぬぬべきべきべき萩はぎ萩はぎはぎののの露つゆ露つゆつゆ、、、ひろはひろはひろわゞゞば消き消ききえええなむなむなんととと見み見みみゆるゆるゆる玉たま玉たまたまざゝざゝざさののの上うへ上うへうえのののあられあられあられなどなどなどののの艶えん艶えんえんににになるなるなるすきずきしさすきずきしさすきずきしさのみのみのみこそこそこそをかしくをかしくおかしくおぼさおぼさおぼさるるるらめらめらめ。。。
  20. 20今いま今いまいまさりともさりともさりとも、、、七年ななとせ七年ななとせななとせあまりあまりあまりががが程ほど程ほどほどにににおぼしおぼしおぼし知し知ししりりり侍はべ侍はべはべりりりなむなむなん。。。なにがしなにがしなにがしががが賤いや賤いやいやしきしきしき諫いさめ諫いさめいさめにてにてにて、、、すきすきすきらむらむらん女をんな女をんなおんなにはにはには心こころ心こころこころおかおかおかせせせ給たま給たまたまへへえ。。。あやまちあやまちあやまちしししててて見み見みみむむん人ひと人ひとひとのののかたくなかたくなかたくななるなるなる名な名ななをををももも立た立たたてててつつつべきべきべきものものものなりなりなり」」」ととと誡いまし誡いましいましむむむ。。。
  21. 21中將ちゆうじやう中將ちゆうじやうちゅうじょう例れい例れいれいのののうなづくうなづくうなずく。。。君きみ君きみきみ少すこ少すこすこしししててて、、、「「「さるさるさる事こと事ことこととととははは覺おぼ覺おぼおぼすすすべかべかべかめりめりめり。。。何方いづかた何方いづかたいずかたにににつけつけつけてててももも人ひと人ひとひとわろくわろくわろくはしたなかりはしたなかりはしたなかりけるけるける御物語おほんものがたり御物語おほんものがたりおおんものがたりかなかなかな」」」とととてててうちうちうち笑わら笑わらわらひひい。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

「さて、また同じ頃に通っていた女は、人柄もまさり、気立ても本当にたしなみ深いと見えて、歌を詠み、すらすらと字を書き、琴をかき鳴らす爪音も、手つきも口つきも、みなしっかりしていると、見聞きしておりました。容貌も悪くありませんでしたので、あの嫉妬深い女を気を許せる妻としながら、時々こっそり通っていた頃は、たいそうこのうえなく心ひかれておりました。

あの女が亡くなってから後は、どうしようもありません。かわいそうではあっても、亡くなってしまった人のことは仕方がなく、たびたび通ってなじむにつれて、少し派手で、色っぽく好ましいことばかりで、気に入らないところがあるので、頼りにできるとは思えず、途切れがちに通っておりますうちに、こっそりと心を通わせている男がいたようです。

十月の頃、月の美しかった夜、私が宮中から退出しますと、ある殿上人が来合わせて、私の車に同乗しましたので、私は大納言の家に行って泊まろうとしていたのですが、この人が言うには、『今夜、私を待っている人がいるだろうと思うと、妙に気になって』と言って、この女の家はちょうど通り道でしたので、荒れた築地の崩れから池の水に映る月影が見え、月さえ宿っている住まいを通り過ぎるのも惜しくて、車を降りたのです。

もともとそういう仲だったのでしょうか、この男はたいそうそわそわして、門に近い廊の簀子のようなところに腰かけて、しばらく月を見ています。菊がたいそう美しく色変わりし、風に争うように散る紅葉の乱れなど、まことにしみじみと見えました。男は懐から笛を取り出して吹き鳴らし、『影もよし』などと口ずさんで歌ううちに、よく鳴る和琴を調子を整えてあったものを、女が見事に合わせて弾いたのは、なかなか悪くないものでした。

律の調べは、女がもの柔らかにかき鳴らして、御簾の中から聞こえてくるのも、今風の音色なので、清らかに澄んだ月に、折にふさわしくないこともありません。男はたいそう感心して、御簾のもとに歩み寄り、『庭の紅葉を踏み分けた跡もありませんね』などとすねてみせます。菊を折って、

『琴の音も月もすばらしいお宅なのに、つれない男を引きとめることはできなかったのですね。いけませんね』などと言って、『もう一曲、聞いてほめそやす人がいる時に、手を惜しまないでください』などと、たいそうふざけかかると、女はたいそう声を作って、

『木枯らしに吹き合わせるようなあなたの笛の音を、引きとめるような言葉は、私にはございません』と、色めいたやりとりをしているので、私が憎らしく思っているのも知らないで、今度は箏の琴を盤渉調に調えて、今風にかき鳴らす爪音は、才気がないわけではありませんが、見ていられない気がしました。

ただ時々言葉を交わす宮仕えの女などで、どこまでも洒落ていて風流すぎる人は、それはそれで、付き合っている間はおもしろいでしょう。けれども、時々にしても、そういうところを忘れられない通い所と思うには、頼りなく、出過ぎていると気が引けて、その夜のことを口実にして通うのをやめてしまったのです。

この二つのことを思い合わせますと、若い頃の心でさえ、やはりあのように表に出る女は、たいそう怪しく頼りないと思われました。今から後は、まして、そうとばかり思われるでしょう。あなた方はお心のままに、折れば落ちてしまいそうな萩の露や、拾えば消えてしまいそうな玉笹の上の霰のように、艶やかではかなげな風流ばかりを、おもしろくお思いでしょう。今はそうでも、七年あまりのうちには、おわかりになるでしょう。私のつまらない忠告として、色めいた、なびきやすい女にはお気をつけください。過ちを犯して、夫の評判まで落とすものです」と戒める。

頭中将はいつものようにうなずく。源氏は少しほほえんで、「そういうものだと思っているのだろう」と頭中将をご覧になり、「どちらの話も、人聞きが悪く、体裁の悪いお話だね」と言って、お笑いになる。

意訳

二つ目の体験談「木枯らしの女」は、一つ目とは正反対の女の話である。歌も琴も字も上手で、風流をよく解する女だが、それゆえに浮ついたところがあり、ほかの男とも風雅なやりとりをしていた。左馬頭は、月夜の荒れた邸で、男と女が琴と笛を合わせ、歌を交わす場面を目撃してしまう。

嫉妬深くても誠実な女と、才気はあるが浮気な女。左馬頭はこの二人を比べて、表に出る才気よりも、頼りになる誠実さが大切だと結論づける。萩の露や玉笹の霰のたとえは、はかなく美しいが、すぐに消えてしまう恋のことである。若い源氏たちに「七年たてばわかる」と言う左馬頭の口ぶりには、年長者としての自負が感じられる。

語釈・文法注

さがなもの
意地の悪い女。ここでは一つ目の話の、嫉妬深い女(指喰ひの女)を指す。
かれがれ
途切れがちなさま。男の訪れが間遠になること。
かみな月
神無月。陰暦十月。初冬の頃。
うへびと
殿上人。
すゞろぐ
そわそわする、落ち着かない。
移ろふ
色が変わる。菊は霜にあたって白から紫へと色が変わる「移ろひ菊」が賞美された。
かげもよし
催馬楽「飛鳥井」の一節「飛鳥井に宿りはすべし、や、おけ、陰もよし、御水(みもひ)も寒し、御秣(みまくさ)もよし」を口ずさむ。ここに宿りたい、という気持ちをこめる。
和琴
日本古来の六弦の琴。あずま琴。
りち
律(りち)。日本の音階の一つで、秋の調子とされた。
にはの紅葉こそふみわけたる跡もなけれ
『古今和歌集』の「秋は来ぬ紅葉は宿に降りしきぬ道ふみわけてとふ人はなし」をふまえ、ほかに訪ねて来る人もいないようですね、と女をからかう。
手なのこひ給ひそ
手を惜しまないでください。「な…そ」の禁止。「のこふ」は「のごふ(拭ふ)」で、手を拭って弾くのをやめること。
あざる
ふざける、たわむれる。
盤涉調(ばんしきちょう)
雅楽の六調子の一つ。冬の調子とされる。
ざればむ
洒落ている、風流めいている。
あえか
か弱く、はかなげなさま。
すきたわむ
色好みで、なびきやすい。
かたゑみ
片笑み。ほほえむこと。
おはさうず
「おはします」に近い尊敬語。いらっしゃる。

文法

推定の助動詞「らし」(ありけらし)
「けるらし」が縮まった形。根拠をもって推定する「…たらしい」。
禁止「な…そ」(手なのこひ給ひそ)
副詞「な」と終助詞「そ」で動詞をはさみ、「…しないでください」と柔らかく禁止する。
疑問の係助詞「や」の結び(ひきやとめける)
係助詞「や」を受けて、過去の助動詞「けり」が連体形「ける」で結ばれている。

和歌

琴のねも月もえならぬ宿ながらつれなき人をひきやとめける

詠者
殿上人
状況
女の家の縁先で、菊を折って女に贈った歌。琴の音も月もすばらしい家なのに、つれない恋人(自分)を引きとめることはできなかったのですね、と女をからかう。

修辞

掛詞
「ひき」に、琴を「弾き」と、人を「引き」とめるの意を掛ける。

木がらしに吹きあはすめる笛のねをひきとゞむべき言のはぞなき

詠者
木枯らしの女
状況
殿上人への返歌。木枯らしに合わせて吹くようなあなたの笛の音を引きとめる言葉など、私にはありません。

修辞

掛詞・縁語
「ひき」に「弾き」と「引き」を掛ける。「木がらし」「吹き」「言のは(葉)」が縁語。
呼び名
この歌から、この女は「木枯らしの女」と呼ばれる。

解説

「木枯らしの女」の呼び名は、女の返歌「木がらしに吹きあはすめる笛のねを」による。月夜の荒れた邸、移ろい菊と紅葉、笛と和琴の合奏という場面は、絵巻にも描かれる美しい一場面だが、それを見ているのが恋人に裏切られた男だという点に、皮肉なおかしみがある。

平安貴族にとって、和歌や音楽の才は女性の大切な教養だった。しかし左馬頭は、才気をあまりに表に出す女は妻には向かないと言う。教養と慎み深さの釣り合いをどうとるかは、当時の女性に求められた難しい課題であった。紫式部自身も、『紫式部日記』の中で、才気を見せすぎる女房を批判している。

源氏が「人わろくはしたなかりける御物語かな」と笑うのは、二つの話がどちらも左馬頭の失敗談だからである。若い源氏はまだ、この話を自分のこととして聞いてはいない。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、29–31頁(コマ16–17)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日