源氏物語 第2帖 帚木(2)
中の品
頭中将は、欠点のない女性はめったにいないと語り、女性を上・中・下の三つの品に分ける。そこへ左馬頭と藤式部丞が加わり、議論は中流の女性へと移る。左馬頭は、荒れた家にひっそり暮らす思いがけず美しい女性こそ心ひかれる、と語る。

- 1「「「そこそこそこにににこそこそこそ多多おおくくく集集つどへへえ給給たまふふうらめらめらめ。。。少少すこししし見見みばやばやばや。。。さてさてさてなむなむなんこのこのこの厨子厨子ずしももも心心こころよくよくよく開開あくくくべきべきべき」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、
- 2「「「御覽御覽ごらんじじじ所所ところあらあらあらむむんこそこそこそ難難かたくくく侍侍はべらららめめめ」」」などなどなど聞聞きこえええ給給たまふふう序序ついでににに
- 3「「「女女おんなのののこれこれこれはははしもしもしもとととつくつくつくまじきまじきまじきははは難難かたくくくもももあるあるあるかなかなかなととと、、、やうやうやうやうようようなむなむなん見見み給給たまへへえ知知しるるる。。。
- 4唯唯ただうはべうはべうわべばかりばかりばかりのののなさけなさけなさけににに手手て走走はしりりりききき、、、折節折節おりふしのののいらへいらへいらえ心得心得こころえてててうちしうちしうちしなどなどなどばかりばかりばかりははは隨分隨分ずいぶんににによろしきよろしきよろしきももも多多おおかりかりかりととと見見みふれふれうれどどど、、、そもそもそも誠誠まことにににそのそのその方方かたををを取取とりりり出出いでででむむん選選えらににに必必かならず漏漏もるるるまじきまじきまじきはははいといといと難難かたしししややや。。。
- 5我我わががが心得心得こころえたるたるたる事事ことばかりばかりばかりをををおのがじゝおのがじゝおのがじし心心こころをををててて人人ひとをををばばばおとしめおとしめおとしめなどなどなど、、、傍痛傍痛かたわらいたききき事事こと多多おおかりかりかり。。。
- 6親親おやなどなどなど立立たちちち添添そひひいてててもてあがめもてあがめもてあがめててておひさきおひさきおいさき籠籠こもれれれるるる窓窓まどのののなるなるなる程程ほどははは唯唯ただををを聞聞きききき傳傳つたへへえててて心心こころををを動動うごすすす事事こともももあめりあめりあめり。。。
- 7かたちかたちかたちをかしくをかしくおかしく若若わかやかやかやかにてにてにて紛紛まぎるゝるゝるる事事ことなきなきなき程程ほど、、、はかなきはかなきはかなきをををももも人人ひとまねまねまねににに心心こころををを入入いるゝるゝるる事事こともももあるあるあるにににおのづからおのづからおのずから一一ひとつつつゆゑづけゆゑづけゆえずけてててししし出出いづるづるずる事事こともももありありあり。。。
- 8見見みるるる人人ひと後後おくれれれたるたるたる方方かたをををばばば言言いひひい隱隱かくしししさてさてさてありぬべきありぬべきありぬべき方方かたをををばばば繕繕つくろひひいててて、、、出出いだすすすにににそれそれそれしかしかしかあらあらあらじじじとととそらそらそらにににいかゞいかゞいかがははは推推おししし量量はかりりり思思おもひひいさささむむん。。。
- 9誠誠まことかかかととと見見みもてもてもて行行ゆくくくににに見見み劣劣おとりりりせせせぬぬぬやうやうようはははなくなくなくなむなむなんあるあるあるべきべきべき」」」とととうめきうめきうめきたるたるたる氣色氣色けしきももも耻耻はずかしげしげしげなれなれなればばば、、、
- 10いといといとなべてなべてなべてはははあらあらあらねねねどどど我我わももも覺覺おぼししし合合あわするするすることことことやややあらあらあらむむん、、、うちほゝゑみうちほゝゑみうちほほえみててて、、、「「「そのそのそのかたかどかたかどかたかどもももなきなきなき人人ひとはははあらあらあらむむんややや」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、
- 11「「「いといといとさばかりさばかりさばかりならならならむむんあたりあたりあたりにはにはには誰誰たれかかかはははすかさすかさすかされれれ寄寄よりりり侍侍はべらららむむん。。。取取とるるる方方かたなくなくなく口惜口惜くちおしきしきしききはきはきわととと優優ゆうなりなりなりととと覺覺おぼゆゆゆばかりばかりばかり優優すぐれれれたるたるたるとととははは數數かず等等ひとしくしくしくこそこそこそ侍侍はべらららめめめ。。。
- 12人人ひとのののしなしなしな高高たかくくく生生うまれれれぬれぬれぬればばば、、、人人ひとにににもてもてもてかしづかかしづかかしずかれれれててて隱隱かくるゝるゝるることことこと多多おおくくくにににそのそのそのけはひけはひけわいこよなかるこよなかるこよなかるべしべしべし。。。
- 13中中なかののの品品しなになむになむになむ人人ひとののの心々心々こころごころ己己おのがががじゝじゝじしののの立立たてててたるたるたる趣趣おもむきももも見見みえええててて分分わかるかるかるべきべきべき事事ことかたがたかたがたかたがた多多おおかるかるかるべきべきべき。。。
- 14下下しものののととといふいふいうきはきはきわににになれなれなればばば、、、殊殊ことににに耳耳みみたゝたゝたたずずずかしかしかし」」」とととててていといといと隈隈くまなるなるなる氣色氣色けしきなるなるなるもももゆかしくゆかしくゆかしくててて、、、
- 15「「「そのそのその品々品々しなじなやややいかにいかにいかに。。。いづれいづれいずれををを三三みつつつののの品品しなにににおきおきおきてててかかか分分わくくくべきべきべき。。。もともともとのののしなしなしなたかくたかくたかく生生うまれれれながらながらながら身身みははは沈沈しずみみみ位位くらい短短みじかくくくててて人人ひとげげげなきなきなき、、、又又またののの上達部上達部かんだちめなどなどなどまでまでまでなりなりなりのぼりのぼりのぼりたるたるたる我我わはははがほがほがおにてにてにて家家いえののの內內うちををを飾飾かざりりり人人ひとににに劣劣おとらららじじじととと思思おもへへえるるる、、、そのそのそのけぢめけぢめけじめをををばばばいかゞいかゞいかが別別わくくくべきべきべき」」」ととと問問とひひい給給たまふふう程程ほどににに、、、
- 16左左ひだりののの馬馬うまののの、、、藤式部藤式部とうしきぶののの御物忌御物忌おおんものいみににに籠籠こもらららむむんとととててて參參まいれれれりりり。。。
- 17世世よのののにてにてにて物物ものよくよくよく言言いひひい通通とおれれれるるるををを、、、中將中將ちゅうじょう待待まちちちとりとりとりてててこのこのこの品々品々しなじな辨辨わきまへへえ定定さだめめめ爭爭あらそふふう。。。いといといと聞聞きききき憎憎にくききき事事こと多多おおかりかりかり。。。
- 18「「「なりなりなりのぼれのぼれのぼれどもどもども素素もとよりよりよりさるべきさるべきさるべきすぢすぢすじならならならぬぬぬははは世世よののの人人ひとののの思思おもへへえるるる事事ことももも、、、さはいへどさはいへどさわいえど猶猶なお異異ことなりなりなり。。。
- 19又又またもともともとはははやんごとなきやんごとなきやんごとなきすぢすぢすじなれなれなれどどど、、、世世よにににふるふるふるすくなくすくなくすくなく時世時世ときようつろひうつろひうつろいててておぼえおぼえおぼえ衰衰おとろへへえぬれぬれぬればばば、、、心心こころはははこゝろこゝろこころとととしししててて事事こと足足たらららずずず、、、わろびわろびわろびたるたるたる事事ことどもどもども出出いででで來來きるるるわざわざわざなななめれめれめればばば、、、とりどりとりどりとりどりにににことわりことわりことわりててて中中なかののの品品しなにににぞぞぞ置置おくくくべきべきべき。。。
- 20受領受領ずりょうととと言言いひひいててて人人ひとののの國國くにののの事事ことにににかゝづらひかゝづらひかかずらいいとなみいとなみいとなみててて品品しな定定さだまりまりまりたるたるたる中中なかにもにもにも又又またきざみきざみきざみきざみきざみきざみありありありててて中中なかののの品品しなのののけしうけしうけしゅうはははあらあらあらぬぬぬえりえりえり出出いでででつつつべきべきべき頃頃ころなりなりなり。。。
- 21ののの上達部上達部かんだちめよりよりよりももも、、、ののの四位四位しいどもどもどもののの世世よのののおぼえおぼえおぼえ口惜口惜くちおしからしからしからずずずもともともとののの根根ねざしざしざし賤賤いやしからしからしからぬぬぬががが安安やすらからからかににに身身みをををもてなしもてなしもてなしふるまひふるまひふるまいたるたるたる、、、いといといとなりなりなりややや。。。
- 22家家いえののの內內うちににに足足たらららぬぬぬ事事ことなどなどなどはははたたた無無なかかかめるめるめるまゝまゝままににに、、、省省はぶかかかずずずまばゆきまばゆきまばゆきまでまでまでもてもてもてかしづけかしづけかしずけるるるむすめむすめむすめなどなどなどのののおとしめおとしめおとしめ難難かたくくく生生おひひい出出いづるづるずるももも數多數多あまたあるあるあるべしべしべし。。。
- 23宮仕宮仕みやずかえににに出出いででで立立たちちちててて、、、思思おもひひいかけかけかけぬぬぬさいはひさいはひさいわいとりとりとり出出いづるづるずる例例れいどもどもども多多おおかりかりかりかしかしかし」」」などなどなどいへいへいえばばば、、、
- 24「「「すべてすべてすべてににによるよるよるべきべきべきななななりなりなり」」」とととててて笑笑わらひひい給給たまふふうををを、、、「「「ことことこと人人ひとののの言言いははわむむんやうやうようににに心得心得こころえずずず仰仰おおせせせらるらるらる」」」とととててて中將中將ちゅうじょうにくむにくむにくむ。。。
- 25「「「もともともとのののしなしなしな時世時世ときよのののおぼえおぼえおぼえうちあひうちあひうちあい、、、やんごとなきやんごとなきやんごとなきあたりあたりあたりののの內々內々うちうちのののもてなしもてなしもてなしけはひけはひけわい後後おくれれれたらたらたらむむんははは更更さらにににもももいはいはいわずずず、、、何何なにをををしししてててかくかくかく生生おひひい出出いでででけむけむけんととといふがひなくいふがひなくいうがいなく覺覺おぼゆゆゆべしべしべし。。。
- 26うちあひうちあひうちあいててて優優すぐれれれたらたらたらむむんもももことわりことわりことわり、、、これこれこれこそこそこそはははさるべきさるべきさるべき事事こととととおぼえおぼえおぼえててて珍珍めずらかかかなるなるなる事事ことともともとも心心こころももも驚驚おどろくくくまじまじまじ。。。
- 27ががが及及およぶぶぶべきべきべき程程ほどならならならねねねばばば、、、かみかみかみがががはははうちうちうち置置おききき侍侍はべりりりぬぬぬ。。。
- 28さてさてさて世世よにににありありありととと人人ひとににに知知しららられれれずずずさびしくさびしくさびしくあばれあばれあばれたらたらたらむむん葎葎むぐらのののににに思思おもののの外外ほかにににらうたげらうたげろうたげならならならむむん人人ひとののの閉閉とぢぢじられられられたらたらたらむむんこそこそこそ限限かぎりなくなくなく珍珍めずらしくしくしくははは覺覺おぼえええめめめ。。。
- 29いかでいかでいかではははたたたがゝりがゝりかかりけむけむけんととと思思おもふふうよりよりより違違たがへへえるるる事事ことなむなむなん、、、怪怪あやしくしくしく心心こころとまるとまるとまるわざわざわざなななべきべきべき。。。
- 30父父ちちののの年年とし老老おいいい物物ものむつかしげむつかしげむつかしげにににふとりふとりふとりすぎすぎすぎ、、、ののの顏顏かおにくげにくげにくげににに思思おもひやりひやりいやりことことことなるなるなる事事ことなきなきなき閨閨ねやののの內內うちににに、、、いといといといたくいたくいたく思思おもひひい、、、はかなくはかなくはかなくししし出出いでででたるたるたる事事ことわざわざわざももも故故ゆえなからなからなからずずず見見みえええたらたらたらむむん、、、かたかどかたかどかたかどにてもにてもにてもいかゞいかゞいかが思思おもののの外外ほかにににをかしからをかしからおかしからざらざらざらむむん。。。
- 31優優すぐれれれててて疵疵きずなきなきなき方方かたのののえらびえらびえらびにこそにこそにこそ及及およばばばざらざらざらめめめ。。。さるさるさるかたかたかたにてにてにて捨捨すててて難難かたききき物物ものをををばばば」」」とととててて式部式部しきぶををを見見みやれやれやればばば、、、
- 32「「「我我わががが妹妹いもうとゞもうとゞもうとどものののよろしきよろしきよろしき聞聞きこえええあるあるあるををを思思おもひひいてててのたまふのたまふのたまうにににややや」」」とととややや心得心得こころえらむらむらん、、、ものものものももも言言いははわずずず。。。
- 33いでやいでやいでやかみかみかみののの品品しなととと思思おもふふうだにだにだに難難かたげげげなるなるなる世世よをををととと君君きみはははおぼすおぼすおぼすべしべしべし。。。
現代語訳
源氏が「あなたのところにこそ、たくさんお集めになっているのでしょう。少し見たいものです。そうしてこそ、この厨子も気持ちよく開けましょう」とおっしゃると、頭中将は「ご覧になる値打ちのあるものは、なかなかございませんでしょう」などと申し上げるついでに、こう語る。
「女で、これこそはと非の打ちどころのない人は、なかなかいないものだと、だんだんわかってまいりました。ただ表面だけの風流心で、手紙をさらさらと書き、折々の返事を心得て気のきいたことを言う程度なら、それなりにまあよい人も多いと見ておりますが、それも、本当にその方面ですぐれた人を選び出そうとすると、必ず選に漏れないという人はたいそう少ないものです。自分の得意なことばかりを、それぞれ得意げにして、人をけなしたりするなど、見ていられないことが多いのです。
親などがそばについて大切に育て、将来に望みをかけて家の奥にこもっている間は、ちょっとした一つの取り柄を聞き伝えて心を動かすこともあるでしょう。容貌が美しく、おっとりとして若々しく、ほかに気をとられることのない頃は、ちょっとした慰みごとも、人のまねをして熱心にすることがあるので、自然と一つくらいは見どころのある出来ばえになることもあります。世話をする人が、劣っているところは言い隠し、まあまあのところは取り繕って言いふらすので、それを、そうではあるまいと、見もしないで、どうして推し量ってけなすことができましょう。本当かと思って付き合っていくと、見劣りしないということは、まずないでしょう」と、ため息をつく様子も、こちらが気恥ずかしくなるほどなので、源氏は、すべてがそうではないにしても、ご自身にも思い当たることがあるのだろうか、ほほえんで、「その一つの取り柄さえない人はいるだろうか」とおっしゃる。
頭中将は「そんなひどいところには、誰がだまされて寄りつきましょう。何の取り柄もなくつまらない身分の女と、すばらしいと思うほどすぐれた女とは、数は同じくらいでございましょう。身分の高い家に生まれると、人に大切にかしずかれて、欠点も隠れることが多く、自然とその様子もこのうえなく見えるでしょう。中くらいの身分の者にこそ、人それぞれの気立てや、めいめいの考えも見えて、区別できることがあれこれ多いでしょう。下の身分ということになると、ことさら耳にとまることもありません」と言って、何でも知り尽くしたような様子なのも興味深くて、源氏は「その品々とはどういうものか。何を基準に三つの品に分けるのか。もとは家柄が高く生まれながら、落ちぶれて位も低く、人並みでない者と、また、普通の家柄から上達部にまで成り上がって、得意顔で家の中を飾り立て、人に劣るまいと思っている者と、その区別はどうつけたらよいのだろう」とお尋ねになる。
そこへ、左馬頭と藤式部丞が、御物忌に籠もろうとして参上した。世に知られた色好みで、弁舌もさわやかなので、頭中将は待ってましたとばかりに迎えて、この品々の区別を論じて言い争う。たいそう聞き苦しいことも多い。
左馬頭は言う。「成り上がっても、もともとふさわしい家柄でない者は、世間の人の見る目も、何と言ってもやはり違います。また、もとは高貴な家柄でも、世渡りの手段が乏しく、時勢が移って評判も衰えてしまうと、気位ばかり高くて暮らしが立ちゆかず、みっともないことも出てくるようですから、どちらもそれぞれに判断して、中の品に置くべきでしょう。受領といって地方の国の政治に携わり、身分の定まった者の中にも、また段階があって、中の品でもなかなか悪くない人を選び出せる時世です。中途半端な上達部よりも、非参議の四位の人で、世間の評判も悪くなく、もとの家柄も賤しくない人が、ゆったりと暮らしているのは、まことにさっぱりとしたものです。家の中に足りないものなどもないようなので、出費を惜しまず、まばゆいほどに大切に育てた娘などで、見下せないほど立派に成長した人も大勢いるでしょう。宮仕えに出て、思いがけない幸運をつかんだ例も多いのです」と言うと、源氏は「結局は金持ちかどうかで決まるようだね」と笑いなさるのを、頭中将は「ほかの人が言うようなことを、わかっていないようにおっしゃる」と憎らしがる。
左馬頭は続ける。「もとの家柄と時勢の評判がそろっていて、高貴な家の、内々の振る舞いや様子が劣っているような人は、言うまでもなく、どうしてこんなふうに育ったのだろうと、言いようもなく思われるでしょう。家柄も評判もそろってすぐれているのは当然のことで、こうあるべきだと思って、珍しいこととも驚かないでしょう。私などの手の届くところではありませんので、上の上の方々のことはさておきます。
さて、世の中にいるとも人に知られず、さびしく荒れはてた葎の門の家に、思いのほかに愛らしい人がひっそり閉じこもっていたら、それこそこのうえなく珍しく思われるでしょう。どうしてこんな人がこんなところにいたのだろうと、予想と違っていることが、不思議と心ひかれるものなのです。父親は年をとって見苦しく太りすぎ、兄弟の顔も憎らしげで、想像したところたいしたこともない家の奥に、たいそう気位が高く、ちょっとしたこともたしなみ深く見える人がいたら、たとえ一つの取り柄にしても、どうして思いのほかにおもしろく思われないことがありましょう。すぐれて欠点のない人を選ぶ場合には及ばないでしょうが、そういう人として捨てがたいものですよ」と言って、式部丞の方を見やると、式部丞は「自分の妹たちが少し評判がよいのを思っておっしゃるのだろうか」と思ったのだろうか、何も言わない。
いやいや、上の品と思う人でさえ、なかなかいない世の中なのに、と源氏はお思いになったのだろう。
意訳
いわゆる「雨夜の品定め」の始まりである。頭中将は女性を上・中・下の三つに分け、上の品は隠れて欠点が見えにくく、下の品は話題にもならない、本当に見ておもしろいのは中の品だ、と言う。この「中の品」という考え方が、帚木・空蟬・夕顔の三帖を通して、源氏の恋を導いていく。
左馬頭が語る、荒れた家に思いがけず美しい女性がひっそり暮らしている、という話は、男たちの理想の一つの型である。夕顔や末摘花、のちの宇治の姫君たちなど、源氏物語にはこの型をふまえた出会いがくり返し描かれる。源氏が「金持ちかどうかで決まるのか」と茶化すのは、まだ若い源氏が、議論を少し離れたところから聞いていることを示している。
語釈・文法注
- 難つく
- 非難する、欠点を指摘する。「難つくまじき」で、非の打ちどころがない。
- 手走り書き
- 手紙をすらすらと書くこと。
- 見給ふれ
- 「給ふ」は下二段活用の謙譲の補助動詞(「…ております」)。「見給ふれど」で、見ておりますが。
- 心をやる
- 得意になる、いい気になる。
- 窓の內
- 家の奥、深窓。白居易「長恨歌」の「養はれて深閨に在り人未だ識らず」などをふまえ、娘が家の奥で大切に育てられることをいう。
- かたかど
- 一つの取り柄、一芸。
- おほどく
- おっとりとしている。
- すさび
- 慰みごと、手すさび。
- まねぶ
- 見聞きしたことをそのまま人に語り伝える。
- 思ひくたす
- 見下す、軽んじる。
- じねん
- 自然(じねん)。おのずから。
- きざみ
- 段階、身分。
- 隈なげ
- 何でも知りつくしている様子。形容詞「隈なし」から。
- 直人(ただびと)
- 普通の家柄の人、臣下。
- 左の馬のかみ
- 左馬頭(さまのかみ)。左馬寮の長官。品定めでいちばん多く語る人物。
- 藤式部の丞
- 藤原氏の式部丞。式部省の三等官。
- すきもの
- 色好みの人。風流に通じた人。
- たつき
- 生活の手段、よりどころ。
- 頃ほひ
- 時節、時世。
- なまなま
- 中途半端な、未熟な。
- 非參議
- 三位以上で参議になっていない人、または四位で参議の資格がある人。ここでは公卿に準じる位の人。
- かはらか
- さっぱりとして感じがよい。
- にぎはゝし
- 裕福である、富み栄えている。
- なにがし
- 自称の謙譲語。私め。
- かみがかみ
- 上の上。最上級の身分の人。
- 葎の門
- 雑草のむぐらが生い茂った門。荒れはてたさびしい家のたとえ。
- せうと
- 女性から見た兄弟。
- 思ひあがる
- 誇りを高く持つ、気位が高い。
文法
- 願望の終助詞「ばや」(少し見ばや)
- 未然形について、自分の願望を表す。「少し見たい」。
- 推量の助動詞「らむ」(集へ給ふらめ)
- 目の前にないことを推量する現在推量。係助詞「こそ」の結びで已然形「らめ」になる。
- 当然・推量の「べし」の連体形(多かるべき)
- 係助詞「なむ」(中の品になむ)を受けて、連体形「べき」で結ばれている。
- 断定「なり」+推定「めり」(わざなめれば)
- 「なるめれ」の撥音便「なんめれ」の撥音無表記。「…ことのようなので」。
解説
「雨夜の品定め」は、源氏物語の中で最も有名な場面の一つである。五月雨の夜、宮中に籠もる若い男たちが、それぞれの経験から理想の女性を論じ合う。議論の中心は「中の品」、つまり受領(地方官)や非参議の四位などの中流貴族の娘である。紫式部自身も受領階級の娘であり、この場面には作者の身分への意識がにじんでいるともいわれる。
左馬頭の「葎の門」の話は、のちに源氏が夕顔の宿を訪ねる場面や、末摘花・宇治の大君と中の君などの物語で、くり返し形を変えて現れる。品定めは単なる雑談ではなく、この後の源氏の恋の道筋を予告する役割をもっている。
最後の「いでやかみの品と思ふだに難げなる世を」は、源氏の心中を語り手が推し量った言葉である。上の品の女性でさえ理想の人はなかなかいないのに、と源氏が思い浮かべているのは、藤壺のことだと考えられている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、18–21頁(コマ11–12)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日