源氏物語 第2帖 帚木(1)
長雨の宿直
「光る源氏」と名ばかりはもてはやされるが、実は人目を忍ぶ恋も多かった、と語り手は語りはじめる。五月雨の続く夜、宮中の宿直所で、源氏は親友の頭中将に、厨子にしまった恋文を見せてほしいとせがまれる。

- 1名名なのみのみのみひひい消消けたれたれたれ給給たまふふうとかめとかめとがめ多多おおかなるかなるかなるににに
- 2いとゞいとゞいとどかゝるかゝるかかるどもどもどもををを末末すえののの世世よにもにもにも聞聞きききき傳傳つたへへえててて輕輕かろびたるびたるびたる名名なをををややや流流ながさささむむんととと忍忍しのびびび給給たまひひいけるけるけるをををさへさへさへ語語かたりりり傳傳つたへへえけむけむけん人人ひとののの物物もの言言いひひいよよよ。。。
- 3はははいといといと痛痛いたくくく世世よををを憚憚はばかりりり給給たまひひいけるけるけるほどほどほどににににににをかしきをかしきおかしき事事ことはははなくてなくてなくて、、、ののの少將少將しょうしょうにはにはには笑笑わらははわれれれ給給たまひひいけむけむけんかしかしかし。。。
- 4まだまだまだ中將中將ちゅうじょうなどなどなどにににものしものしものし給給たまひひいししし時時ときはははにににのみのみのみさぶらひさぶらひさぶらい給給たまひひいててておほいおほいおおいにはにはにはたえだえたえだえたえだえまかでまかでまかで給給たまふふうををを、、、「「「」」」ととと疑疑うたがひひい聞聞きこゆるゆるゆることことこともももありありありしかしかしかどどど、、、
- 5さしもさしもさしも目目め馴馴なれれれたるたるたるのののすきずきしさすきずきしさすきずきしさなどなどなどはははこのましからこのましからこのましからぬぬぬ御本性御本性ごほんじょうにてにてにて、、、稀稀まれにはにはにはあながちにあながちにあながちに引引ひきききたがへたがへたがえづくしづくしずくしなるなるなることことことををを御心御心みこころにににおぼしおぼしおぼしとゞむるとゞむるとどむるくせくせくせなむなむなん、、、にてにてにて、、、さるまじきさるまじきさるまじき御御おんふるまひふるまひふるまいもももうちまじりうちまじりうちまじりけるけるける。。。
- 6ながながなが晴間晴間はれまなきなきなきころころころ、、、うちうちうちのののさしつゞきさしつゞきさしつづきててていとゞいとゞいとど長居長居ながいさぶらひさぶらひさぶらい給給たまふふうをををにはにはにはおぼつかなくおぼつかなくおぼつかなく恨恨うらめしくめしくめしく覺覺おぼしししたれたれたれどどど、、、萬萬よろずののの御御おんよそひよそひよそい何何なにくれくれくれととと珍珍めずららしきらしきらしきさまさまさまににに調調ちょうじじじ出出いででで給給たまひひいつゝつゝつつ御御おんむすこむすこむすこののの君君きみだちだちだち唯唯ただこのこのこの御御おん所所ところののの宮仕宮仕みやずかえををを勤勤つとめめめ給給たまふふう。。。
- 7ののの中將中將ちゅうじょうははは中中なかににに親親したしくしくしく馴馴なれれれ聞聞きこえええ給給たまひひいててて遊遊あそびたはぶれたはぶれたわぶれをををももも人人ひとよりよりよりははは心心こころやすくやすくやすくなれなれしくなれなれしくなれなれしくふるまひふるまひふるまいたりたりたり。。。
- 8右右みぎののののののいたはりいたはりいたわりかしづきかしづきかしずき給給たまふふうすみかすみかすみかはははこのこのこの君君きみもももいといといとしししてててすきがましきすきがましきすきがましきあだあだあだなりなりなり。。。
- 9里里さとにてもにてもにても我我わがががかたかたかたのののしつらひしつらひしつらいしししててて君君きみのののいでいりいでいりいでいりししし給給たまふふうにににうちつれうちつれうちつれ聞聞きこえええ給給たまひひいつゝつゝつつよるひるよるひるよるひる學問學問がくもんをををももも遊遊あそびをををももも諸共諸共もろともにににしししててて立立たちちち後後おくれれれずずず、、、いづくいづくいずくにてもにてもにてもまつはれまつはれまつわれ聞聞きこえええ給給たまふふうほどほどほどににに、、、おのづからおのづからおのずからをををもももおかおかおかずずず、、、心心こころののの中中なかににに思思おもふふうことことことをををももも隱隱かくしししあへあへあえずずずなむなむなん聞聞きこえええ給給たまひひいけるけるける。。。
- 10つれつれつれつれつれつれととと降降ふりりりくらしくらしくらしてててしめやかしめやかしめやかなるなるなる宵宵よいののの雨雨あめににに殿上殿上てんじょうにもにもにもをさをさをさをさおさおさ人人ひとずくなずくなずくなににに御御おんとのゐとのゐとのい所所ところももも例例れいよりよりよりはははのどやかのどやかのどやかなるなるなる心地心地ここちするするするににに、、、
- 11近近ちかくくくてててふみふみふみどもどもどもなどなどなど見見み給給たまふふうついでついでついでににに近近ちかきききなるなるなるいろいろいろいろいろいろののの紙紙かみなるなるなるふみふみふみどもどもどもをををひきひきひき出出いでゝでゝでて、、、中將中將ちゅうじょうわりなくわりなくわりなくばばば、、、
- 12「「「さりぬべきさりぬべきさりぬべき少少すこしししははは見見みせせせむむん。。。なるなるなるべきべきべきもももこそこそこそ」」」とととゆるしゆるしゆるし給給たまははわねねねばばば、、、
- 13「「「そのそのそのうちとけうちとけうちとけててて傍痛傍痛かたわらいたととと覺覺おぼささされれれむむんこそこそこそゆかしけれゆかしけれゆかしけれ。。。押押おしししなべなべなべたるたるたる大大おおかたかたかたのののははは數數かずならならならねねねどどどにににつけつけつけてててかきかはしかきかはしかきかわしつゝつゝつつももも見見み侍侍はべりりりなむなむなん。。。おのがじゝおのがじゝおのがじしうらめしきうらめしきうらめしき折々折々おりおり待顏待顏まちがおならならならむむん夕暮夕暮ゆうぐれなどなどなどのののこそこそこそ見所見所みどころはははあらあらあらめめめ」」」ととと怨怨えんずれずれずればばば、、、
- 14やんごとなくやんごとなくやんごとなく切切せちににに隱隱かくししし給給たまふふうべきべきべきなどなどなどははは、、、かやうにかやうにかようになるなるなる御厨子御厨子みずしなどなどなどにににうちうちうち置置おきききちらしちらしちらし給給たまふふうべくべくべくもももあらあらあらずずず深深ふかくくくとりとりとり隱隱かくししし給給たまふふうべかべかべかめれめれめればばばこれこれこれははは二二にのののののの心心こころやすきやすきやすきなるなるなるべしべしべし。。。
- 15づゝづゝずつ見見みるるるににに、、、「「「かくかくかくさまざまさまざまさまざまなるなるなるものものものどもどもどもこそこそこそ侍侍はべりりりけれけれけれ」」」とととててて、、、あてあてあてににに「「「それそれそれかかかかれかれかれかかか」」」などなどなど問問とふふう中中なかににに言言いひひい當當あたつるつるつるもももありありあり、、、
- 16もてもてもてはなれはなれはなれたるたるたる事事ことをををももも思思おもひひいよせよせよせててて疑疑うたがふふうもももをかしをかしおかしととと覺覺おぼせせせどどど、、、詞詞ことばずくなずくなずくなにてにてにてとかくとかくとかく紛紛まぎらはしはしわしつゝつゝつつとりとりとり隱隱かくししし給給たまひひいつつつ。。。
現代語訳
「光る源氏」と、名前ばかりは大げさにもてはやされているが、実は人から非難されるような過ちも多かったというのに、そのうえ、こうした色恋沙汰を後の世まで聞き伝えられて、軽々しい評判を立てられはしないかと、ご本人が人目を忍んでいらっしゃった秘め事までも語り伝えたという人の、なんと口さがないことか。
とはいえ、源氏はたいそう世間をはばかって、まじめに振る舞っていらっしゃったので、なまめかしく趣のある話はなく、色好みで名高い交野の少将には笑われてしまったことだろう。
まだ中将などでいらっしゃった頃は、宮中にばかり好んでお仕えなさって、左大臣邸には途切れ途切れにしかお帰りにならなかったので、「誰かを忍んで、心を乱しておられるのでは」と疑い申し上げることもあった。けれども源氏は、そのようにありふれた、ゆきずりの浮気めいたことはお好きでないご性分で、まれに、わざわざ無理な、心を尽くすような恋を思い詰めなさる癖が、あいにくおありになって、ふさわしくないお振る舞いもまじるのだった。
五月雨の晴れ間もない頃、宮中の御物忌が続いて、源氏がいつもにまして長く宮中に詰めていらっしゃるのを、左大臣邸では待ち遠しく恨めしくお思いになっていたが、源氏のお召し物などをあれこれと目新しく仕立ててお届けになり、左大臣のご子息たちは、ただ源氏の宿直所でのお世話につとめていらっしゃる。
なかでも、宮腹の中将(頭中将)は、とりわけ親しくなじみ申し上げて、遊びや冗談でも、ほかの人より気安く、なれなれしく振る舞っていた。右大臣が大切にお世話して婿として迎えた先の住まいを、この君もたいそう気が進まないと思っている、色好みの浮気者である。自分の邸でも、自分の部屋の調度をまばゆいほどに整えて、源氏が出入りなさる時にはお供をし、夜も昼も、学問も遊びも一緒にして、少しも後れをとらず、どこへでもついてまわりなさるうちに、自然と遠慮もしなくなり、心の中に思うことも隠しきれずに、親しくなさっていた。
所在なく雨が降り続いて、しっとりとした宵の雨に、殿上の間にもほとんど人が少なく、宿直所もいつもよりのんびりとした感じがするので、源氏が灯台を近くに寄せて書物などをご覧になっていると、そのついでに、頭中将は近くの御厨子にあった色とりどりの紙の手紙を引き出して、むやみに見たがる。源氏は「差し障りのないものを少しは見せよう。見苦しいものもあるといけないから」と、お許しにならない。
頭中将は「その、気を許して書かれた、見られては困るとお思いのものこそ見たいのです。ありきたりの普通の手紙なら、数ならぬ私でも、身分相応にやりとりして見ておりましょう。女たちがそれぞれ恨めしく思うような折々や、男の訪れを待ち顔の夕暮れなどに書いた手紙こそ、見どころがあるでしょう」と恨むので、源氏は、本当に大切で、どうしても隠しておかなければならない手紙は、このように粗略な御厨子などに置き散らしておかれるはずもなく、深くしまいこんでいらっしゃるだろうから、これは二番手の気楽なものなのだろう、と見せてしまう。
頭中将は少しずつ見て、「よくもまあ、いろいろなものがございますね」と言って、当て推量に「これはあの人か、あれはこの人か」などと尋ねる中には、言い当てているものもあり、見当はずれのことに思いを寄せて疑うのも、源氏はおもしろいとお思いになるが、言葉少なに、あれこれとはぐらかして、しまい込んでしまわれた。
意訳
帚木の巻は、語り手が「光る源氏」という評判と、その実像とのずれを語る、少し皮肉な口調で始まる。桐壺の巻が帝と更衣の悲劇を荘重に語ったのに対し、ここからは宮廷の若い貴公子たちの恋の世界が描かれる。語り手は源氏を、手当たりしだいの浮気者ではなく、むずかしい恋にのめりこむ癖のある人として紹介している。
五月雨の夜、宮中に詰めて退屈している若者たちという設定は、この後の「雨夜の品定め」への導入である。頭中将は、源氏の正妻葵の上の兄で、源氏の親友でありライバルでもある。二人が恋文を見せ合おうとする場面は、若い貴公子たちの気安い友情と、恋に対する好奇心をいきいきと描いている。
語釈・文法注
- 光源氏
- 桐壺の巻末で「光る君」と呼ばれた源氏のこと。この巻で初めて「光源氏」という呼び名が出てくる。
- ことごとしう
- 大げさに、ものものしく。形容詞「ことごとし」の連用形のウ音便。
- 言ひ消つ
- 悪く言って価値を打ち消す、けなす。「言ひ消たれ給ふとかめ」で、けなされるような過失。
- すきごと
- 色恋に関すること。恋愛沙汰。
- かくろへごと
- 隠しごと、人目を忍んだ秘め事。
- 物言ひさがなさ
- 口が悪いこと、口さがないこと。語り手が、源氏の秘密を語り伝えた人(自分自身)を皮肉っている。
- さるは
- とはいうものの、実は。前の内容を受けて補足・訂正する。
- まめだつ
- まじめにふるまう。
- なよびか
- もの柔らかで、色めいたさま。
- 交野の少將
- 今は伝わらない物語『交野の少将』の主人公。色好みで知られた人物。まじめな源氏は、この少将に笑われるだろう、という冗談。
- うち
- 内裏、宮中。
- ようし給ふ
- 「好(よう)し給ふ」。好んでなさる。
- おほい殿
- 大殿(おおいどの)。ここでは源氏の舅である左大臣の邸。正妻の葵の上が住む。
- しのぶのみだれ
- 『伊勢物語』初段の歌「春日野の若紫のすり衣しのぶの乱れかぎり知られず」による。誰かを忍んで心が乱れているのか、という意。
- あだめく
- 浮気っぽく見える、移り気なふるまいをする。
- うちつけ
- 出来心の、軽はずみな。ゆきずりの。
- 心づくし
- あれこれと気をもむこと、心を尽くすこと。
- あやにく
- あいにくなことに、困ったことに。
- なが雨
- 長雨。五月雨(梅雨)の雨。
- 御物忌
- 帝の物忌。陰陽道で、凶事を避けるため一定期間外出や面会を慎むこと。その間、宮中に詰める者は退出できない。
- おほとの
- 大殿。左大臣家。
- とのゐ所
- 宿直所。宮中で夜勤のために詰める部屋。源氏は母の部屋だった桐壺(淑景舎)を宿直所にしている。
- 宮腹の中將
- 皇女(大宮)を母とする中将。左大臣の嫡男で、葵の上の同腹の兄。のちの頭中将。
- 右の大臣のいたはりかしづき給ふすみか
- 右大臣が大切にお世話する婿としての住まい。頭中将は右大臣の四の君と結婚している(桐壺の巻)。
- ものうし
- 気が進まない、おっくうだ。
- あだ人
- 浮気な人、移り気な人。
- まばゆく
- まぶしいほどに立派に。
- をさをさ
- (打消を伴って)ほとんど、少しも。
- かしこまり
- 恐縮すること、遠慮。
- むつる
- 親しくする、なれ親しむ。
- おほとなぶら
- 大殿油(おおとなぶら)。宮中や貴族の邸でともす灯火。
- 御厨子(みずし)
- 両開きの扉のついた戸棚。書物や手紙などを入れる。
- ゆかしがる
- 見たがる、知りたがる。
- かたは
- 見苦しいこと、不都合なこと。
- 傍痛し
- そばで見られては困る、恥ずかしい。
- ほどほど
- それぞれの身分、分相応。
- おほぞう
- 粗略な、いいかげんな。
- 二のまち
- 二流のもの、二番手。
- かたはし
- 一部分、端。「かたはしづゝ」で、少しずつ。
- 心あて
- 当て推量。
文法
- 過去推量・伝聞の助動詞「けむ」(語り傳へけむ人)
- 連体形で名詞に続くとき「…たとかいう」と伝聞の意になる。源氏の秘め事を語り伝えたという人。
- 「もこそ」(かたはなるべきもこそ)
- 係助詞「も」+「こそ」で、「…したら困る」と懸念を表す。後に「あれ」が省略されている。
- 推量の助動詞「べし」+推定「めり」(隱し給ふべかめれば)
- 「べかる」の撥音便「べかん」の無表記に「めり」がついた形。「隠しておられるはずのようなので」。
解説
帚木の巻の冒頭は、源氏物語の中でもとくに有名な書き出しの一つである。語り手が「光源氏」と名ばかりもてはやされるが、と皮肉めかして語りはじめることで、読者は源氏の恋の秘密をのぞき見る立場に置かれる。続く帚木・空蟬・夕顔の三帖は「帚木三帖」と呼ばれ、源氏の若い日の恋を描く一つのまとまりになっている。
「しのぶのみだれ」は『伊勢物語』初段の歌を踏まえる。源氏物語は、色好みの主人公の先例として『伊勢物語』の在原業平を強く意識しており、ここで早くもその名残が見える。「交野の少将」も、当時よく読まれていた色好みの物語の主人公であった。
五月雨の続く夜、帝の物忌のために宮中に詰める若者たち。退屈しのぎに始まった恋文の見せ合いが、この後、女性論へと発展していく。手紙を見せ合う場面には、平安貴族にとって恋文がいかに大切なものであったかが表れている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部1(源氏物語 上) 板倉屋書房、明治36年(1903)、17–18頁(コマ10–11)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日