大和物語 第29章(付載の説話)
付載の説話(平中の物語)
底本の末尾に「一本に以下五頁あり」として載る、『平中物語』と重なる三つの話。恋敵に讒言されて官を解かれ、世を憂えて引き籠もった男が友人たちに慰められて復職するまで、通う家の醜い女が見るたびに美しくなるのを見て交わした歌、西の京の荒れた屋敷の女たちとの出会いと、初瀬詣での帰りに飛鳥本で再会する話。
- 1ははは昔昔むかし、、、二人二人ふたりしてしてして一人一人ひとりののの女女おんなをををよばひけりよばひけりよばいけり。。。先先さきだちてよばひけるだちてよばひけるだちてよばいける男男おとこ、、、つかさまさりてそのつかさまさりてそのつかさまさりてその時時ときののの帝帝みかど近近ちこううう仕仕つこうまつりけりうまつりけりうまつりけり。。。後後うしろよりよばひけるよりよばひけるよりよばいける今一今一いまひと人人ひとののの男男おとこははは、、、そのそのその同同おなじじじ帝帝みかどのののきさいのきさいのきさいの御兄御兄みあに末末すえにてにてにて、、、つかさおくれたりけりつかさおくれたりけりつかさおくれたりけり。。。
- 2それそれそれをををいかゞいかゞいかが思思おもひけむひけむいけむ、、、後後うしろよりよばひけるよりよばひけるよりよばいける男男おとこにかのにかのにかの女女おんなはははあひにけりあひにけりあいにけり。。。さりければさりければさりければ、、、このこのこの初初はじめよりよりより言言いひけるひけるいける男男おとこははは、、、宿世宿世すくせののの深深ふかくありけるとくありけるとくありけると思思おもひけりひけりいけり。。。
- 3かくてよろづによろしからずかくてよろづによろしからずかくてよろずによろしからず、、、事事ことををを物物もののののをををりごとにりごとにりごとに帝帝みかどのなめしとおぼしめしぬべきのなめしとおぼしめしぬべきのなめしとおぼしめしぬべき事事ことををを作作つくりりり出出いでつゝでつゝでつつ聞聞きこえないけるあひだにえないけるあひだにえないけるあいだに、、、このこのこの男男おとこははは宮仕宮仕みやづかえいといといと苦苦くるしうしてしうしてしゅうして、、、唯唯ただ逍遙逍遙しょうようをををしてありきしてありきしてありきををを好好このみければみければみければ、、、のつかさにてのつかさにてのつかさにて、、、宮仕宮仕みやづかえをもをもをもせずといふせずといふせずという事事こと出出いででで來來きててて、、、そのありけるつかさそのありけるつかさそのありけるつかさをぞをぞをぞ取取とりりり給給たまひてけるひてけるいてける。。。
- 4さりければさりければさりければ、、、男男おとこ世世よののの中中なかををを憂憂うしとしとしと思思おもひてぞひてぞいてぞ籠籠こもりりり居居いててて思思おもひけるひけるいける、、、人人ひとののの命命みことといふものといふものというもの、、、いくよしもあるべきものにあらずいくよしもあるべきものにあらずいくよしもあるべきものにあらず、、、思思おもふふう時時ときははははかなきつかさもはかなきつかさもはかなきつかさも何何なににかにかにかはははあるべきあるべきあるべき、、、かゝるかゝるかかる浮世浮世うきよにににはははまじらずまじらずまじらず、、、ひたぶるにひたぶるにひたぶるに山山やま深深ふかくくく離離はなれてれてれて行行おこなひにやひにやいにや就就つきなむときなむときなむと思思おもひければひければいければ、、、近近ちかくくくをををだにだにだに放放はなたずたずたず。。。
- 5てゝてゝててはははゝのかなしくするゝのかなしくするはのかなしくする人人ひとなりければなりければなりければ、、、萬萬よろずのののうきもつらきもこれにぞさはりけるうきもつらきもこれにぞさはりけるうきもつらきもこれにぞさわりける。。。時時ときしもしもしも秋秋あきにしもありければにしもありければにしもありければ、、、ものゝいとあはれにおぼえてものゝいとあはれにおぼえてもののいとあわれにおぼえて、、、夕暮夕暮ゆうぐれにかゝるにかゝるにかかるひとりごとひとりごとひとりごとをぞをぞをぞ言言いひたりけるひたりけるいたりける、、、
- 6「「「うきうきうき世世よにににははは門門かどさせりともさせりともさせりとも見見みえなくになどえなくになどえなくになど我我わががが宿宿やどのいでがてにするのいでがてにするのいでがてにする」」」
- 7ととと言言いひてひていて居居おりけるあひだにりけるあひだにりけるあいだに、、、時々時々ときどき物物ものなどいひけるなどいひけるなどいいける人人ひとののの許許もとよりよりより、、、蔦蔦つたののの紅葉紅葉もみじのおもしろきのおもしろきのおもしろきををを折折おりてりてりて、、、やがてそのやがてそのやがてその葉葉はににに、、、「「「これこれこれををを何何なにとかとかとか見見みるるる」」」とてとてとて書書かきおこせけるきおこせけるきおこせける、、、
- 8「「「野山野山のやまののの露露つゆのもみぢのもみぢのもみじ葉葉ばははは物思物思ものおもふふう秋秋あきののの袖袖そでにぞありけるにぞありけるにぞありける」」」
- 9といひやりけれどといひやりけれどといいやりけれど返返かえしもせずなりにければしもせずなりにければしもせずなりにければ、、、かくとしもなしかくとしもなしかくとしもなし。。。かゝるかゝるかかる事事ことどもどもどもををを聞聞ききあはれがりてきあはれがりてきあわれがりて、、、このこのこの男男おとこののの友友ともだちどもだちどもだちども集集あつまりてまりてまりて來來きててて慰慰なぐさめければめければめければ、、、酒酒さけ飮飮のませなどしてませなどしてませなどして、、、いさゝかいさゝかいささか遊遊あそびのけぢかきのけぢかきのけじかきをぞをぞをぞしけるしけるしける。。。
- 10よるになりければよるになりければよるになりければ、、、このこのこの男男おとこ、、、かゝるかゝるかかる歌歌うたをぞをぞをぞ詠詠よみたりけるみたりけるみたりける、、、
- 11「「「身身みをををうみのうみのうみの思思おもひなぎさひなぎさいなぎさははは今宵今宵こよいかなかなかな浦浦うらににに立立たつつつ浪浪なみうちわすれつゝうちわすれつゝうちわすれつつ」」」
- 12とぞよみたりけるとぞよみたりけるとぞよみたりける。。。かゝりければかゝりければかかりければ、、、これこれこれをををあはれがりてぞあはれにあはれがりてぞあはれにあわれがりてぞあわれに明明あかしけるしけるしける。。。これもこれもこれも返返かえしなししなししなし。。。さてさてさて又又またののの夜夜よののの月月つきをををかしかりければかしかりければかしかりければ、、、すのこにすのこにすのこに居居いててて、、、大空大空おおぞらををを眺眺ながめてめてめて居居いたりけるたりけるたりける程程ほどににに、、、夜夜よののの更更ふけゆけばけゆけばけゆけば風風かぜいといといと涼涼すずしううちしううちしゅううち吹吹ふきつゝきつゝきつつ、、、苦苦くるしきまでおぼえければしきまでおぼえければしきまでおぼえければ、、、ものゝゆゑものゝゆゑもののゆえ知知しるるる友友ともだちのだちのだちの許許もとににに、、、これのみぞかねてこれのみぞかねてこれのみぞかねて月見月見つきみるらむとてるらむとてるらむとて、、、かゝるかゝるかかる歌歌うたをををよみてつかはしけるよみてつかはしけるよみてつかわしける、、、
- 13「「「なげきつゝなげきつゝなげきつつ空空そらなるなるなる月月つきとながむればなみだぞとながむればなみだぞとながむればなみだぞ天天あめののの川川がわとながるゝとながるゝとながるる」」」
- 14さりけるさりけるさりけるほどにほどにほどに、、、いといといと深深ふかからぬからぬからぬ事事ことなりければもとのつかさになりにけりなりければもとのつかさになりにけりなりければもとのつかさになりにけり。。。このこのこの友友ともだちどもだちどもだちどもははは、、、友則友則とものりがががほどなりけりほどなりけりほどなりけり。。。
- 15同同おなじじじ男男おとこ、、、しれるしれるしれる人人ひとののの許許もとににに常常つねににに通通かよふにふにふに、、、いとにくさげなるいとにくさげなるいとにくさげなる女女おんなのあるのあるのあるををを、、、女女おんなはははおとなになればおとなになればおとなになれば、、、こよなくなだらかになるなれどこよなくなだらかになるなれどこよなくなだらかになるなれど、、、このこのこの女女おんなををを憂憂うしとしとしと笑笑わらひけれどひけれどいけれど、、、見見みるたびにるたびにるたびに、、、やうやうよくなりもてやうやうよくなりもてようようよくなりもて行行ゆくくく。。。殊殊ことののの外外ほかにおひまさりしてにおひまさりしてにおいまさりして見見みえければえければえければ、、、
- 16「「「沼水沼水ぬまみずににに君君きみははは」」」。。。
- 17女女おんな、、、このかへしこのかへしこのかえし、、、
- 18「「「かゝるものみるまみるまぞかゝるものみるまみるまぞかかるものみるまみるまぞうとまるゝうとまるゝうとまるる心心こころあさまのぬまにあさまのぬまにあさまのぬまに生生おふればふればふれば」」」
- 19ととと返返かえしたりけるしたりけるしたりける。。。このこのこの男男おとこににに女女おんなのいへりけるのいへりけるのいえりける、、、
- 20「「「いつはりいつはりいつわりををを森森もりををを誓誓ちかへへえ我我われををを思思おもはゞはゞわば」」」。。。
- 21女女おんなののの思思おもふふう男男おとこをををしてしてして、、、たしかにいだすたしかにいだすたしかにいだすををを見見みててて、、、
- 22「「「あらあらあらはははなるなるなる事事ことあらがふなあらがふなあらがうな櫻櫻さくらばなばなばな春春はるはははかぎりとかぎりとかぎりと散散ちるるるををを見見みえつゝえつゝえつつ」」」。。。
- 23かへしかへしかへし。。。
- 24「「「色色いろにいでゝあだににいでゝあだににいでてあだに見見みゆともゆともゆとも櫻櫻さくら花花はな風風かぜののの吹吹ふかずばかずばかずば散散ちらじとぞらじとぞらじとぞ思思おもふふう」」」。。。
- 25ののの京京きょう六條六條ろくじょうわたりにわたりにわたりに、、、處々處々ところどころ崩崩くずれてれてれて草草くさ生生おひひひ茂茂しげりてりてりて、、、さすがにさすがにさすがに所々所々ところどころしとみあまたさゝげしとみあまたさゝげしとみあまたささげ渡渡わたしたるしたるしたる所所ところありありあり。。。すのもとにすのもとにすのもとに女女おんなどもなどあまたどもなどあまたどもなどあまた見見みえければえければえければ、、、このこのこの男男おとこ猶猶なおもすきてもすきてもすきて、、、供供ともなるわらはしてなるわらはしてなるわらわして、、、「「「などかくなどかくなどかく荒荒あれたるぞれたるぞれたるぞ」」」ととと言言いひければひければいければ、、、「「「たがかくたがかくたがかくはははのたまふぞのたまふぞのたまうぞ」」」ととと言言いひければひければいければ、、、「「「大路大路おおじ行行ゆくくく人人ひと」」」といひけるにといひけるにといいけるに、、、くづれよりくづれよりくずれより女女おんなどもあまたどもあまたどもあまた出出いでゝでゝでて、、、かくかくかく言言いひかけたりけるひかけたりけるいかけたりける、、、
- 26「「「人人ひとののの秋秋あきににに庭庭にわさへさへさへ荒荒あれてれてれて道道みちもなくよもぎもなくよもぎもなくよもぎ茂茂しげれるれるれる宿宿やどとやとやとやははは見見みぬぬぬ」」」
- 27といへりければといへりければといえりければ、、、わらわらわらはははののの口口くちにいひいれてにいひいれてにいいいれて、、、
- 28「「「たがたがたが秋秋あきにあひてあれたるにあひてあれたるにあいてあれたる宿宿ねならむならむならむ我我わだにだにだに庭庭にわのくさのくさのくさはははおほさじおほさじおおさじ」」」。。。
- 29さてさてさて時々時々ときどき通通かよひけれどひけれどひけれど、、、いかなるいかなるいかなる人人ひとのすかすならむとつゝましかりければのすかすならむとつゝましかりければのすかすならむとつつましかりければ、、、人人ひとにもそこそこともにもそこそこともにもそこそことも言言いはははででで通通かよふふふ程程ほどににに、、、皆人皆人みなひと物物ものへへへいにけりいにけりいにけり。。。唯唯ただ獨獨ひとりありてありてありて、、、「「「もしもしもし人人ひと問問とはゞこれはゞこれわばこれををを奉奉たてまつれれれ」」」とてとてとて、、、文文ふみ書書かきてきてきて出出いだしけるしけるしける、、、
- 30「「「我我わががが宿宿やどはははならのみやこぞならのみやこぞならのみやこぞ山山やまこゆばかりにこゆばかりにこゆばかりにはははあらあらあらはははさでとへさでとへさでとえ」」」
- 31とありければとありければとありければ、、、このこのこの男男おとこいたくいたくいたく口惜口惜くちおしがりてしがりてしがりて、、、そのそのその家家いえににに置置おきたるものにきたるものにきたるものに、、、物物ものなどくれてなどくれてなどくれて問問とひけれどひけれどいけれど、、、ふつとふつとふつと言言いはははででで唯唯ただ「「「ならへならへならえ」」」とぞいひけるとぞいひけるとぞいいける。。。
- 32尋尋たずねむねむねむ方方かたなしなしなし。。。さるさるさる程程ほどににに思思おもひひい忘忘わすれにけるにれにけるにれにけるに、、、このこのこの男男おとこののの親親おや初瀨初瀨はつせににに參參まいりけるりけるりける供供ともにありてにありてにありて、、、まことさるまことさるまことさる事事ことありきかしありきかしありきかし、、、こゝやそならむこゝやそならむここやそならむ、、、かしこやそならむなどかしこやそならむなどかしこやそならむなど思思おもふふう程程ほどににに、、、供供ともなるなるなる男男おとこどもなどにどもなどにどもなどに語語かたらひなどしけりらひなどしけりらいなどしけり。。。
- 33さてかのさてかのさてかの初瀨初瀨はつせににに詣詣もうでゝでゝでて、、、三條三條さんじょうよりかへりけるによりかへりけるによりかえりけるに、、、本本もとといふといふという所所ところににに、、、相知相知あいしれるれるれる法師法師ほうしももも俗俗ぞくもあまたもあまたもあまた出出いででで來來きててて、、、「「「けふけふきょう日日ひはははしたになりぬしたになりぬしたになりぬ。。。のあなたにのあなたにのあなたにははは、、、人人ひとののの宿宿やどりりり給給たまふべきふべきうべき家家いえももも候候そうらはずはずわず。。。此處此處ここにとまらせにとまらせにとまらせ給給たまへへえ」」」といひてといひてといいて、、、かどならべにかどならべにかどならべに、、、家家いえ二二ふたつつつををを一一ひとつにつにつに造造つくりりり合合あわせたるせたるせたる、、、をかしげなるにぞとゞめけるをかしげなるにぞとゞめけるおかしげなるにぞとどめける。。。
- 34さりければとゞまりにけりさりければとゞまりにけりさりければとどまりにけり。。。あるじなどあるじなどあるじなど人々人々ひとびとしければしければしければ、、、物物ものなどなどなど食食くひてひていて、、、騒騒さわがしきがしきがしき程程ほどしづまりしづまりしずまり、、、程程ほどなくなくなく夕暮夕暮ゆうぐれにににはははなりてけりなりてけりなりてけり。。。さりければさりければさりければ、、、戶戶どのもとにたゝずみのもとにたゝずみのもとにたたずみ出出いでゝでゝでて見見みるにるにるに、、、このこのこの南南みなみののの家家けののの北北きたなるなるなる家家いえにてにてにて、、、ののの木木きといふものといふものというものをぞをぞをぞふたきみきふたきみきふたきみき植植うゑたりけるゑたりけるえたりける。。。
- 35「「「あやしくことあやしくことあやしくこと木木きをもをもをも植植うゑでゑでえで」」」などいひてなどいひてなどいいて、、、さしのぞきたりけるにさしのぞきたりけるにさしのぞきたりけるに、、、淸淸きよげなるげなるげなる蔀蔀しとみどもあけどもあけどもあけ渡渡わたしてしてして、、、女女おんなどもあまたどもあまたどもあまた居居おりりり。。。「「「あやしあやしあやし」」」などおのがなどおのがなどおのがうちうちうち言言いひてひていて、、、供供ともなりけるなりけるなりける人人ひとををを呼呼よびびび寄寄よせてせてせて、、、「「「このこのこの人人ひとはははこのこのこの南南みなみににに宿宿やどれるかれるかれるか」」」ととと問問とひけりひけりいけり。。。
- 36ついぢのくづれよりついぢのくづれよりついじのくずれより見見みししし人人ひとははは、、、いかにいかにいかに忘忘わすれざりけるにかれざりけるにかれざりけるにか、、、若若もししし男男おとこなどになどになどに具具ぐしてしてして來來きたるにやなどくもたるにやなどくもたるにやなどくも手手てににに思思おもひひい亂亂みだるゝるゝるるほどにほどにほどに、、、
- 37「「「悔悔くやしくもなくぞとだにもいひてけるしくもなくぞとだにもいひてけるしくもなくぞとだにもいいてけるにだににだににだに來來きてもとてもとてもとはははねばねばねば」」」
- 38といひけりといひけりといいけり。。。「「「このこのこの庭庭にわさへさへさへ荒荒あれてれてれて」」」といひしといひしといいし人人ひとののの手手てなりけりなりけりなりけり。。。京京きょうさへなまさへなまさえなま戀戀こいしきしきしき旅旅たびのののほどなりければほどなりければほどなりければ、、、硯硯すずりこひこひこい出出いでゝでゝでて、、、
- 39「「「楢楢ならののの木木きのならふのならふのならう程程ほどとととははは敎敎おしへねどへねどえねど名名なにやおふとてにやおふとてにやおうとて宿宿やどはははかりつるかりつるかりつる」」」
- 40といひたりければといひたりければといいたりければ、、、「「「あなあなあな、、、うちつけのうちつけのうちつけの事事ことややや」」」とてとてとて、、、かくぞかくぞかくぞ言言いひひい出出いだしたりけるしたりけるしたりける、、、
- 41「「「門過門過かどすぎてぎてぎてつせつせつせ川川がわまでわたるせもまでわたるせもまでわたるせも我我わがためとやがためとやがためとや君君きみはははこたへむこたへむこたえむ」」」。。。
- 42そのそのその夜夜よとまりつとまりつとまりつ。。。つとめてつとめてつとめて、、、男男おとこ、、、
- 43「「「朝朝あさまだきまだきまだき立立たつつつ雲雲くももなししらなみのかへるがへるもかへりきぬべしもなししらなみのかへるがへるもかへりきぬべしもなししらなみのかえるがえるもかえりきぬべし」」」。。。
現代語訳
〔付載一〕今は昔のこと、二人の男が一人の女に求婚した。先に求婚した男は、官位がまさっていて、その時の帝の近くにお仕えしていた。あとから求婚したもう一人の男は、その同じ帝の母后の兄弟の末の方で、官位は劣っていた。それをどう思ったのか、あとから求婚した男に、その女は逢ってしまった。そうなったので、初めから言い寄っていた男は、(相手の)宿縁が深かったのだと思った。こうして、何かにつけておもしろくなく、けしからぬことを、事あるごとに、帝が無礼だとお思いになるにちがいないことを作り出しては申し上げていたうちに、この男(あとの男)は宮仕えをたいへんつらく思って、ただ遊び歩くことばかりを好んでいたので、衛府の官人なのに宮仕えもしないということが言い出されて、その就いていた官をお取り上げになってしまった。そこで男は、世の中をつらいと思って、家に籠もって思った。人の命というものは、いつまでもあるものではない、そう思えば、はかない官職など何になろう、こんな浮き世には交わらず、ひたすら山深く離れて仏道修行に就いてしまおうかと思ったが、親は近くにさえ放さない。父母がかわいがっている人だったので、何もかもつらいことも、このことにさまたげられた。ちょうど秋であったので、物がたいへんしみじみと思われて、夕暮れにこんなひとりごとを言った。
「つらい世の中には、門を閉ざしているとも見えないのに、どうしてわが家は出にくいのだろう」
と言ってすねていたうちに、なまじっか張り合って時々言葉を交わしていた人のもとから、蔦の紅葉の美しいのを折って、そのままその葉に「これをどう見るか」と書いてよこした。
「浮いて立つ、立田の野山の露の紅葉葉は、物思う秋の袖――涙に染まった袖であることよ」
と言いやったけれど、返しもしないままになったので、どうということもない。こうした事どもを聞いて気の毒に思って、この男の友人たちが集まって来て慰めたので、酒を飲ませるなどして、少しばかりの気のおけない遊びをした。夜になったので、この男は、こんな歌をよんだ。
「わが身を憂しと思う物思いも、今夜は渚に寄せる浦の波のように、うち忘れて凪いでいることよ」
とよんだ。そこで、人々はこれをしみじみと思って、しみじみと夜を明かした。これも返歌はない。さて次の夜の月が美しかったので、簀子に座って大空をながめていたうちに、夜が更けていくにつれて風がたいそう涼しく吹いて、苦しいほどに思われたので、物の情趣を知る友人のもとに、この人だけは前から月を見ているだろうと思って、こんな歌をよんで送った。
「嘆きながら空の月と向かい合ってながめていると、涙が天の川のように流れることだ」
そうするうちに、それほど深い罪でもなかったので、もとの官に戻った。この友人たちは、躬恒や友則ほどの人々であった。
〔付載二〕同じ男が、知っている人のもとにいつも通っていたが、そこにたいへん醜い女がいたのを、女は大人になると、このうえなく見よくなるものだけれど、この女をいやだと笑っていたが、見るたびに、だんだんよくなっていく。思いのほかに成長して見えたので、
「沼の水であなたはないけれど、このような海松布(みるめ)は、見るたびに生い茂っていくことだ」。
女の返し、
「このような海松布は、見るたびに疎ましく思われます。浅い心の沼に生えているのですから」
と返した。この男に、女が言った歌、
「偽りを正すという糺の森の木綿だすきをかけて、誓ってください。わたしを思うのなら」。
女が思っている男を、男がはっきりと見つけ出したのを見て、
「はっきりしたことを言い争わないでください。桜の花が春は限りと散るのを見せていながら」。
女の返し。
「色に出て浮気に見えても、桜の花は、風が吹かなければ散るまいと思います」。
〔付載三〕西の京の六条あたりに、築地があちこち崩れて、草が生い茂って、それでもさすがに所々に蔀をたくさん上げ渡した所があった。簾のもとに女たちなどが大勢見えたので、この男はやはり物好きで、供の童に「どうしてこんなに荒れているのか」と言わせたところ、「誰がそんなことをおっしゃるのか」と言ったので、「大路を行く者だ」と言うと、崩れから女たちが大勢出て来て、こう言いかけた。
「人に飽きられて、庭まで荒れて道もなく、蓬の茂る宿とは見えませんか」
と言ったので、童の口に言い入れて(童に言わせて)、
「誰に飽きられて荒れた宿なのでしょう。わたしなら、庭の草など生やさせはしないのに」。
そうして時々通ったけれど、どんな人がだましているのだろうと気がかりだったので、人にもどこそこだとも言わずに通っているうちに、皆どこかへ行ってしまった。ただ一人残っていて、「もし人が尋ねたら、これをさし上げよ」と言って、手紙を書いて残しておいた。
「わたしの家は奈良の都です。男山を越えるくらいの所にあるとは明かしませんが、尋ねて来てください」
とあったので、この男はたいへん残念がって、その家に置いてあった者に、物などを与えて尋ねたけれど、まったく言わずに、ただ「奈良へ」とだけ言った。探す手立てもない。そうするうちに思い忘れてしまっていたが、この男の親が初瀬に参詣する供として行って、本当にそんなことがあったっけ、ここがそうだろうか、あそこがそうだろうかなどと思いながら、供の男たちなどに話したりした。さてその初瀬に参詣して、三条から帰ってくる時に、飛鳥本という所で、知り合いの法師も俗人も大勢出て来て、「今日は日が中途半端になりました。奈良坂の向こうには、お泊まりになれるような家もございません。ここにお泊まりください」と言って、門を並べて、家二つを一つに造り合わせた、趣のある家に泊めた。そこで泊まった。主人なども立派な人なので、食事などをして、騒がしいのも静まり、まもなく夕暮れになった。そこで、戸口にたたずみ出て見ると、この南の家の北にある家に、楢の木というものを二本植えていた。「変だな、ほかの木を植えないで」などと言って、のぞいて見ると、こぎれいな蔀を開け放して、女たちが大勢いた。「変だ」などと仲間うちで言って、供の人を呼び寄せて、「この人はこの南の家に泊まっているのか」と尋ねた。築地の崩れから見たあの人は、どうして忘れなかったのだろうか、もしや男などと連れ立って来ているのだろうかなどと、あれこれ思い乱れているうちに、
「悔しいことです。せめて「泣く」とだけでも言えばよかった。道の途中にさえ来て尋ねてもくださらないのだから」
と言った。「この庭さえ荒れて」と言った人の筆跡であった。京さえ少し恋しい旅の途中だったので、硯を求め出して、
「楢の木が並ぶ(慣らふ)ほどとは教えてくれなかったけれど、その名を負っているかと、この宿を借りたのです」
と言ったところ、「まあ、いきなりのことを」と言って、こう言い出した。
「門を過ぎて、初瀬川まで渡る瀬――通う道も、わたしのためだとでも、あなたは答えるのでしょうか」。
その夜は泊まった。翌朝、男が、
「夜明け前、立つ雲もない。白波が返るように、何度でも帰って来るつもりです」。
意訳
〔付載一〕恋に勝った男が、恋に敗れた男の讒言で官を失う。世を捨てようにも親が離さず、門を閉ざしているわけでもないのに家から出られない――「うき世には門させりとも見えなくに」とすねる男を、友人たちが酒で慰め、男も「今夜は渚の波のように物思いを忘れた」とよむ。やがて罪も軽かったので官に戻る。『平中物語』の第1段前半とほぼ同じ話で、主人公は平中(平貞文)である。
〔付載二〕醜いと笑っていた女が、会うたびに美しくなる。男は「海松布(みるめ)が見るたびに伸びる」とからかい、女は「浅い心の沼に生えた海松布だから疎ましい」と切り返す。恋人の浮気を「桜の散る」になぞらえて責め合う贈答が続く。
〔付載三〕西の京の荒れた屋敷で、女たちと歌を交わした男。女は「奈良の都にいる」とだけ書き残して姿を消した。忘れかけたころ、初瀬詣での帰りに泊まった飛鳥本の家の隣に、楢の木を植えた家があり、そこに昔の女がいた。女の「せめて泣くとでも言えばよかった」という歌、男の「楢の名に引かれて宿を借りた」という返しで、二人はふたたび結ばれる。荒れた屋敷の女との出会いと再会という、物語らしい展開をもつ話である。
語釈・文法注
- 付載の説話
- 底本の第173段のあとに「一本に以下五頁あり」と小字で注記して載る三話。『平中物語』の第1段前半・第37段・第34段・第36段とほぼ一致し、「附載説話」と呼ばれる。
- 帝の母きさいの御兄末
- 帝の母后の兄弟の末の子孫。
- たいだいしき
- けしからぬ、不都合な。
- 衞府
- 宮中を警護する役所(近衛府・衛門府・兵衛府)。
- ひがみ
- 「ひがむ」はすねる、ひねくれる。
- なまいどみて
- 「なま」は中途半端に、「いどむ」は張り合う。
- たつた
- 立田(竜田)。紅葉の名所。「立つ」を掛ける。
- 躬恒友則
- 凡河内躬恒と紀友則。『古今和歌集』の撰者。ここでは友人たちが彼らほどの歌人であったことをいう。
- みる
- 海松(みる)。海藻。「見る」を掛ける。
- たゞすの森
- 糺の森。京都の下鴨神社の森。「正す」を掛ける。
- ゆふだすき
- 木綿襷。神事のときにかける木綿のたすき。「かけ」を導く。
- 西の京
- 平安京の右京。早くから荒廃していた。
- ついぢ
- 築地。土を固めて作った塀。
- 男山
- 山城国の石清水八幡宮のある山。京から奈良へ向かう途中にある。
- 飛鳥本
- 大和国の地名。初瀬から奈良へ向かう途中。
- 奈良坂
- 奈良から山城へ越える坂。
- 楢の木
- 「楢」に「奈良」と「慣らふ(ならう)」を掛ける。
- たまほこ
- 玉桙。「道」にかかる枕詞。ここでは道の意。
- はつせ川
- 初瀬川。大和国の川。
文法
- 宿世の深くありけると思ひけり
- 恋に敗れた男が、相手の男と女の宿縁が深かったのだと思ったことをいう。
- おぼしめしぬべき事
- 「ぬべし」は強意+推量。
- 聞えないける
- 底本は「聞えないける」と刷る。「聞えなしける(申し上げた)」の意に解した。
- 行ひにや就きなむ
- 「や」は疑問、「な」は強意、「む」は意志。
- いでがてにする
- 「がてに」は「…しにくく」。
- かくとしもなし
- 底本の本文。どうということもなく終わった、の意に解した。
- もとのつかさになりにけり
- 「に」は完了「ぬ」の連用形。
- おひまさりして
- 成長してよくなること。
- あらがふな
- 「な」は禁止の終助詞。
- 散らじとぞ思ふ
- 「じ」は打消推量。
- わらはの口にいひいれて
- 童に言葉を教えて言わせること。
- などくも手に
- 底本の本文。「とさまかうざまに(あれこれと)」の意に解した。
- 悔しくもなくぞとだにもいひてける
- 底本の本文。「なく」に「泣く」を響かせる。
- たまほこにだに來てもとはねば
- 底本はこの句の脇に小字の注記(欠字の疑い)があるが、翻刻に入れていない。
- かへりきぬべし
- 「ぬべし」は強意+推量。
和歌
うき世には 門させりとも 見えなくに など我が宿の いでがてにする
- 詠者
- 男(平中)
- 状況
- 讒言で官を解かれ、世を捨てようにも親が許さず、家に籠もって。『古今和歌集』雑下にも入る(在原業平の子の滋春、または読人しらず)。
うきたつた 野山の露の もみぢ葉は 物思ふ秋の 袖にぞありける
- 詠者
- 張り合っていた人
- 状況
- 籠もっている男に、蔦の紅葉の葉に書いて。
修辞
- 掛詞
- 「うきたつ」に「浮き立つ」と「立田」を掛ける。
身をうみの 思ひなぎさは 今宵かな 浦に立つ浪 うちわすれつゝ
- 詠者
- 男(平中)
- 状況
- 友人たちに慰められた夜に。
修辞
- 掛詞
- 「うみ」に「憂み」と「海」、「なぎさ」に「渚」と「凪ぎ」を掛ける。
- 縁語
- 「海」「渚」「浦」「浪」。
なげきつゝ 空なる月と ながむれば なみだぞ天の 川とながるゝ
- 詠者
- 男(平中)
- 状況
- 次の夜、月を見て友人に。
修辞
- 見立て
- 涙を天の川に見立てる。
沼水に 君はあらねど かゝるもの みるまみるまに おひまさりけり
- 詠者
- 男(平中)
- 状況
- 見るたびに美しくなる女に。
修辞
- 掛詞
- 「みる」に「海松」と「見る」を掛ける。
かゝるもの みるまみるまぞ うとまるゝ 心あさまの ぬまに生ふれば
- 詠者
- 女
- 状況
- 男の歌への返し。
修辞
- 掛詞
- 「みる」に「海松」と「見る」、「あさま」に「浅間」と「浅ま(浅い)」を掛ける。
いつはりを たゞすの森の ゆふだすき かけてを誓へ 我を思はゞ
- 詠者
- 女
- 状況
- 男に。『新古今和歌集』恋三にも入る(平定文の歌として)。
修辞
- 掛詞
- 「たゞす」に「糺(の森)」と「正す」を掛ける。
- 序詞
- 「たゞすの森のゆふだすき」が「かけ」を導く。
あらはなる 事あらがふな 櫻ばな 春はかぎりと 散るを見えつゝ
- 詠者
- 男
- 状況
- 女の思う男を見つけ出して。
修辞
- 比喩
- 散る桜に女の心変わりをたとえる。
色にいでゝ あだに見ゆとも 櫻花 風の吹かずば 散らじとぞ思ふ
- 詠者
- 女
- 状況
- 男の歌への返し。
修辞
- 比喩
- 「風」に言い寄る男をたとえる。
人の秋に 庭さへ荒れて 道もなく よもぎ茂れる 宿とやは見ぬ
- 詠者
- 西の京の女たち
- 状況
- 「どうしてこんなに荒れているのか」と尋ねられて。
修辞
- 掛詞
- 「秋」に「飽き」を掛ける。
たが秋に あひてあれたる 宿ならむ 我だに庭の くさはおほさじ
- 詠者
- 男
- 状況
- 女たちの歌への返し。
修辞
- 掛詞
- 「秋」に「飽き」を掛ける。
我が宿は ならのみやこぞ 男山 こゆばかりには あらはさでとへ
- 詠者
- 西の京の女
- 状況
- 姿を消すにあたり、男に残した手紙。
悔しくも なくぞとだにも いひてける たまほこにだに 來てもとはねば
- 詠者
- 西の京の女
- 状況
- 飛鳥本で男と隣り合わせて。
修辞
- 掛詞
- 「なく」に「泣く」と「無く」を響かせる。
楢の木の ならふ程とは 敎へねど 名にやおふとて 宿はかりつる
- 詠者
- 男
- 状況
- 女の歌への返し。
修辞
- 掛詞
- 「楢」に「奈良」と「ならふ」を掛ける。
門過ぎて はつせ川まで わたるせも 我がためとや 君はこたへむ
- 詠者
- 西の京の女
- 状況
- 男の歌への返し。
朝まだき 立つ雲もなし しらなみの かへるがへるも かへりきぬべし
- 詠者
- 男
- 状況
- 女のもとに泊まった翌朝に。
修辞
- 序詞
- 「しらなみの」が「かへる」を導く。
解説
底本の国文大観本は、第173段のあとに「一本に以下五頁あり」と小字で注記して、この三つの話を載せている。これらは『大和物語』の一部の伝本にだけ見えるもので、「附載説話」と呼ばれる。内容は『平中物語』の第1段前半・第37段・第34段・第36段とほぼ一致し、もとは平中(平貞文)の物語であったものが、『大和物語』の写本の末尾に書き加えられたと考えられている。
一つ目の話は、恋の恨みから讒言されて官を失った男が、世を捨てることもできずに家に籠もり、友人たちに慰められてやがて復職するまでを、歌とともにたどる。「うき世には門させりとも見えなくになど我が宿のいでがてにする」は、『古今和歌集』にも入っている歌である。
三つ目の話は、西の京の荒れた屋敷で出会った女と、初瀬詣での帰りに奈良の近くで再会する話で、荒れた屋敷の女、旅先での偶然の再会など、のちの物語にしばしば見られる要素をもっている。通行本文の『大和物語』は第173段で終わるが、この付載の説話を読むと、平中の物語と『大和物語』とが、同じ歌語りの世界の中で互いに交わっていたことが分かる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部四 雑下(大和物語) 板倉屋書房、明治36年(1903)、77〜81頁(コマ43–45)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日