古典ライブラリー

紫式部日記 第21章

二の宮の五十日

寛弘七年正月十五日、二の宮敦良親王の五十日の祝い。作者は小少将の君と局を一つにして暮らしている。帝と中宮が並ぶ御前で、女房たちの装いや、袖口の配色の失敗を書きとめる。宴では公卿たちが催馬楽を謡い管絃を奏で、右大臣の失態の気まずさと、笛の贈り物を記して日記は終わる。

  1. 1またまたまたののの日ひ日ひひ夕ゆふ夕ゆふゆうつかたつかたつかた、、、いつしかいつしかいつしかととと霞かす霞かすかすみみみたるたるたる空そら空そらそらをををつくりつくりつくりつゞけつゞけつづけたるたるたる軒のき軒のきのきのののひまひまひまなきなきなきにてにてにて、、、たゞたゞただ渡わた渡わたわた殿どの殿どのどののののうへうへうえのののほどほどほどをををほのかほのかほのかににに見み見みみててて、、、中なか中なかなか務つかさ務つかさつかさのののめのとめのとめのとゝゝとよべよべよべののの御おほん御おほんおおん口くち口くちくちずさみずさみずさみをををめでめでめできこゆきこゆきこゆ。。。
  2. 2このこのこの命みやう命みやうみょう婦ぶ婦ぶぶぞぞぞ、、、ものものものゝゝのこゝろこゝろこころえええてててかどかどしくかどかどしくかどかどしくははは侍はべ侍はべはべるるる人ひと人ひとひとなれなれなれ。。。
  3. 3あからさまあからさまあからさまにににまかでまかでまかでゝゝて、、、二に二ににののの宮みや宮みやみやののの御おほん御おほんおおんいかいかいかははは正しやう正しやうしょう月ぐわつ月ぐわつがつ十五日じふごにち十五日じふごにちじゅうごにち、、、そのそのその曉あかつき曉あかつきあかつきまゐるまゐるまいるににに、、、小こ小ここ少せう少せうしょう將しやう將しやうしょうののの君きみ君きみきみ、、、明あ明ああけけけはてはてはてゝゝてはしたなくはしたなくはしたなくなりなりなりたるたるたるににに參まゐ參まゐまいりりり給たま給たまたまへへえりりり。。。
  4. 4例れい例れいれいのののおなじおなじおなじ所ところ所ところところににに居ゐ居ゐいたりたりたり。。。二ふた二ふたふた人り人りりののの局つぼね局つぼねつぼねをををひとつひとつひとつにににあはせあはせあわせててて、、、かたみかたみかたみににに里さと里さとさとなるなるなるほどほどほどもももすむすむすむ。。。一ひと一ひとひとたびたびたびにににまゐりまゐりまいりてててははは几帳きちやう几帳きちやうきちょうばかりばかりばかりへだてへだてへだてにてにてにてありありあり。。。殿との殿とのとのぞぞぞわたらわたらわたらせせせ給たま給たまたまふふう。。。
  5. 5かたみかたみかたみににに知し知ししらららぬぬぬ人ひと人ひとひともももかたらはかたらはかたらわるゝるゝるるなどなどなど、、、聞き聞きききききにくゝにくゝにくく、、、されどされどされどたれたれたれもももさるさるさるうとうとしきうとうとしきうとうとしきことことことなけれなけれなければばば、、、心こころ心こころこころやすくやすくやすくてててなむなむなん。。。
  6. 6日ひ日ひひたけたけたけてててまうまうもうのぼるのぼるのぼる。。。かのかのかの君きみ君きみきみははは櫻さくら櫻さくらさくらののの織おり織おりおり物もの物ものもののののうちきうちきうちき、、、赤あか赤あかあか色いろ色いろいろのののからからからぎぬぎぬぎぬ、、、例れい例れいれいののの摺すり摺すりすり裳も裳もも着き着きき給たま給たまたまへへえりりり。。。紅こう紅こうこう梅ばい梅ばいばいににに萠もえ萠もえもえ黄ぎ黄ぎぎ、、、柳やなぎ柳やなぎやなぎのののからからからぎぬぎぬぎぬ、、、ものものものすりめすりめすりめなどなどなど今いま今いまいまめかしけれめかしけれめかしければばば、、、とりとりとりもももかへかへかへつつつべくべくべくぞぞぞわかやかわかやかわかやかなるなるなる。。。
  7. 7うへうへうえ人びと人びとびとどもどもども十七人じふしちにん十七人じふしちにんじゅうしちにんぞぞぞ宮みや宮みやみやののの御おほん御おほんおおん方かた方かたかたにににまゐりまゐりまいりたるたるたる。。。いといといと宮みや宮みやみやののの御おほん御おほんおおんまかなひまかなひまかないははは橘たちばな橘たちばなたちばなののの三さん三さんさん位み位みみ。。。とりとりとりつぐつぐつぐ人ひと人ひとひと、、、はしはしはしにににははは小こ小ここ大たい大たいたい夫ふ夫ふふ、、、式しき式しきしき部ぶ部ぶぶ、、、うちうちうちにににははは小こ小ここ少せう少せうしょう將しやう將しやうしょう。。。
  8. 8みかどみかどみかどきさいきさいきさい、、、みみみ帳ちやう帳ちやうちょうののの內うち內うちうちににに二ふた二ふたふたところところところながらながらながらおはしますおはしますおわします。。。朝あさ朝あさあさ日ひ日ひひのののひかりひかりひかりあひあひあいてててまばゆきまばゆきまばゆきまでまでまで耻はづか耻はづかはずかしげしげしげなるなるなる御お御おおまへまへまえなりなりなり。。。
  9. 9うへうへうえははは御おほん御おほんおおんなほしなほしなおし、、、こぐちこぐちこぐち奉たてまつ奉たてまつたてまつりりり、、、宮みや宮みやみやははは例れい例れいれいののの紅くれなゐ紅くれなゐくれないののの御おほん御おほんおおんぞぞぞ、、、紅こう紅こうこう梅ばい梅ばいばい、、、もえぎもえぎもえぎ、、、柳やなぎ柳やなぎやなぎ、、、山やま山やまやま吹ぶき吹ぶきぶきののの御おほん御おほんおおんぞぞぞ、、、上うへ上うへうえにににはははえびえびえび染ぞめ染ぞめぞめののの織おり織おりおり物もの物ものものののの御おほん御おほんおおんぞぞぞ、、、柳やなぎ柳やなぎやなぎのののうへうへうえしろしろしろののの御おほん御おほんおおんこうちきこうちきこうちき、、、もんもんもんももも色いろ色いろいろもももめづらしくめづらしくめずらしく今いま今いまいまめかしきめかしきめかしき奉たてまつ奉たてまつたてまつれれれりりり。。。
  10. 10あなたあなたあなたはははいといといとけそうけそうけそうなれなれなればばば、、、このこのこの奥おく奥おくおくにににやをらやをらやおらすべりすべりすべりとゞまりとゞまりとどまりててて居ゐ居ゐいたりたりたり。。。
  11. 11中なか中なかなか務つかさ務つかさつかさののの乳めの乳めのめの母と母とと、、、宮みや宮みやみやいだきいだきいだき奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりててて、、、御み御みみ帳ちやう帳ちやうちょうのののはざまはざまはざまよりよりより南みなみ南みなみみなみざまざまざまにににいでいでいで奉たてまつ奉たてまつたてまつるるる。。。
  12. 12こまかこまかこまかにににそはそはしくそはそはしくそわそわしくなどなどなどはははあらあらあらぬぬぬかたちかたちかたちののの、、、たゞたゞただゆるらかゆるらかゆるらかにににものものしきものものしきものものしきさまさまさまうちうちうちしししててて、、、さるさるさるかたかたかたににに人ひと人ひとひとをををしししつつつべくべくべく、、、かどかどしきかどかどしきかどかどしきけはひけはひけわいぞぞぞしししたるたるたる。。。えびえびえび染ぞめ染ぞめぞめののの織おり織おりおり物もの物ものものののの小こ小ここ袿うちき袿うちきうちき、、、無む無むむ紋もん紋もんもんののの靑あを靑あをあお色いろ色いろいろににに櫻さくら櫻さくらさくらのののからからからぎぬぎぬぎぬ着き着ききたりたりたり。。。
  13. 13そのそのその日ひ日ひひののの人ひと人ひとひとのののさうぞくさうぞくそうぞく、、、いづれいづれいずれとととなくなくなくつくしつくしつくしたるたるたるををを、、、袖そで袖そでそで口ぐち口ぐちぐちのののあはひあはひあわいわろうわろうわろう重かさ重かさかさねねねたるたるたる人ひと人ひとひとしもしもしも、、、御お御おおまへまへまえのののものものものとりとりとりいるいるいるとてとてとて、、、そこらそこらそこらののの上達部かんだちめ上達部かんだちめかんだちめ殿てん殿てんてん上じやう上じやうじょう人びと人びとびとにににさしさしさしいでいでいでゝゝて、、、まぼらまぼらまぼられれれつるつるつることことことこそこそこそ、、、後のち後のちのちににに宰さい宰さいさい相しやう相しやうしょうののの君きみ君きみきみなどなどなど口くち口くちくちをしがりをしがりおしがり給たま給たまたまふふうめりめりめりししし。。。
  14. 14さるさるさるははは惡あ惡ああしくしくしくももも侍はべ侍はべはべらららざりざりざりききき。。。たゞたゞただあはひあはひあわいのののさめさめさめたるたるたるなりなりなり。。。
  15. 15小こ小ここ大たい大たいたい夫ふ夫ふふははは、、、くれなゐくれなゐくれない一ひと一ひとひとかさねかさねかさね、、、うへうへうえににに紅こう紅こうこう梅ばい梅ばいばいののの濃こ濃ここききき薄うす薄うすうすききき五いつ五いついつつつつををを重かさ重かさかさねねねたりたりたり。。。からからからぎぬぎぬぎぬ櫻さくら櫻さくらさくら、、、源げん源げんげん式しき式しきしき部ぶ部ぶぶははは、、、濃こ濃ここきききにににまたまたまた紅こう紅こうこう梅ばい梅ばいばいののの綾あや綾あやあやぞぞぞ着き着ききててて侍はべ侍はべはべるるるめりめりめりししし。。。
  16. 16織おり織おりおり物もの物ものものならならならぬぬぬをををわろしわろしわろしとととにににややや、、、それそれそれあながちあながちあながちのののことことことけそうけそうけそうなるなるなるにににしもしもしもこそこそこそ、、、とりとりとりあやまちあやまちあやまちのののはははののの見み見みみえええたらたらたらむむん、、、そばめそばめそばめをををもももえらえらえらせせせ給たま給たまたまふふうべけれべけれべけれ。。。きぬきぬきぬのののおとりおとりおとりまさりまさりまさりはははいふいふいうべきべきべきことことことならならならずずず。。。
  17. 17もちひもちひもちい參まゐ參まゐまいらららせせせ給たま給たまたまふふうことことことゞゞどもももはてはてはてゝゝて、、、御おほん御おほんおおんだいだいだいなどなどなどまかでまかでまかでゝゝて、、、廂ひさし廂ひさしひさしのののみすみすみすあぐるあぐるあぐるきはきはきわににに、、、うへうへうえののの女房にようばう女房にようばうにょうぼうははは御み御みみ帳ちやう帳ちやうちょうののの西にし西にしにし面おもて面おもておもてのののひひひのののおましおましおましにににおしおしおし重かさ重かさかさねねねたるたるたるやうやうようにてにてにて、、、なみなみなみゐゐいたるたるたる。。。
  18. 18三さん三さんさん位み位みみをををはじめはじめはじめててて內ない內ないない侍し侍ししのののすけすけすけたちたちたちもももあまたあまたあまた參まゐ參まゐまいれれれりりり。。。宮みや宮みやみやののの人ひと人ひとひと々びと々びとびとははは、、、わかわかわかうどうどうどはははなげしなげしなげしのののしもしもしも、、、東ひんがし東ひんがしひんがしののの廂ひさし廂ひさしひさしののの南みなみ南みなみみなみのののさうじさうじそうじ放はな放はなはなちちちてててみすみすみすかけかけかけたるたるたるににに上じやう上じやうじょう臈らふ臈らふろうははは居ゐ居ゐいたりたりたり。。。
  19. 19御み御みみ帳ちやう帳ちやうちょうのののひんがしひんがしひんがしのののはざまはざまはざま唯ただ唯ただただすこしすこしすこしあるあるあるににに、、、大だい大だいだい納な納なな言ごん言ごんごんののの君きみ君きみきみ、、、小こ小ここ少せう少せうしょう將しやう將しやうしょうののの君きみ君きみきみ居ゐ居ゐいたまへたまへたまえるるる所ところ所ところところににに尋たづ尋たづたずねねね行ゆ行ゆゆきききててて見み見みみるるる。。。
  20. 20うへうへうえはははひらひらひらしきしきしきののの御おほん御おほんおおん座ざ座ざざににに御お御おお膳もの膳ものもの參まゐ參まゐまいりりりすゑすゑすえたりたりたり。。。おおおまへまへまえのののものものものしししたるたるたるさまさまさまいひいひいいつくさつくさつくさむむんかたかたかたなしなしなし。。。
  21. 21すのこすのこすのこににに北きた北きたきたむきむきむきににに西にし西にしにしをををかみかみかみにてにてにて、、、上達部かんだちめ上達部かんだちめかんだちめ、、、左さ左ささ右う右うゆう內ない內ないないのののおほいとのおほいとのおおいとの、、、春とう春とうとう宮ぐう宮ぐうぐうののの大だい大だいだい夫ぶ夫ぶぶ、、、四し四しし條でう條でうじょうののの大だい大だいだい納な納なな言ごん言ごんごん、、、それそれそれよりよりよりしもしもしもはははえええ見み見みみ侍はべ侍はべはべらららざりざりざりききき。。。
  22. 22御おほん御おほんおおんあそびあそびあそびありありあり。。。殿てん殿てんてん上じやう上じやうじょう人びと人びとびとはははこのこのこの對たい對たいたいののの辰たつ辰たつたつ巳み巳みみにににあたりあたりあたりたるたるたる廊らう廊らうろうにににさぶらふさぶらふさぶらう。。。地ぢ地ぢじ下げ下げげはははさだまれさだまれさだまれりりり。。。
  23. 23かげまさかげまさかげまさののの朝あ朝ああ臣そん臣そんそん、、、これかぜこれかぜこれかぜののの朝あ朝ああ臣そん臣そんそん、、、ゆきよしゆきよしゆきよし、、、ともまさともまさともまさなどなどなどやうやうようののの人ひと人ひとひと々びと々びとびと、、、うへうへうえににに四し四しし條でう條でうじょうののの大だい大だいだい納な納なな言ごん言ごんごんはははうしうしうしとりとりとり、、、頭とう頭とうとうののの辨べん辨べんべん琵び琵びび琶は琶はわ、、、ことことことははは左ひだり左ひだりひだりののの宰さい宰さいさい相しやう相しやうしょう、、、中將ちゆうじやう中將ちゆうじやうちゅうじょうさうさうそうののの笛ふえ笛ふえふえとととぞぞぞ。。。
  24. 24雙さう雙さうそう調でう調でうじょうののの聲こゑ聲こゑこえにてにてにてあなたふとあなたふとあなたうと、、、次つぎ次つぎつぎにににむしろだむしろだむしろだ、、、このこのこの殿との殿とのとのなどなどなどうたふうたふうたう。。。かくかくかくのののものものものははは鳥とり鳥とりとりののの破は破はは急きふ急きふきゅうをををあそぶあそぶあそぶ。。。とととののの座ざ座ざざにににもももてうしてうしちょうしなどなどなどをををふくふくふく。。。
  25. 25歌うた歌うたうたにににはははうしうしうしうちうちうちたがへたがへたがえててて咎とが咎とがとがめめめらるらるらる。。。伊い伊いい勢せ勢せせののの海うみ海うみうみにににぞぞぞありありありししし。。。右みぎ右みぎみぎのののおとゞおとゞおとど「「「和わ和わわ琴ごん琴ごんごんいといといとおもしろしおもしろしおもしろし」」」などなどなど聞き聞きききききはやしはやしはやしたまひたまひたまい、、、ざれざれざれたまふたまふたまうめりめりめりししし。。。
  26. 26はてはてはてにににははは、、、いみじきいみじきいみじきあやまちあやまちあやまちのののいとほしきいとほしきいとおしきこそこそこそ見み見みみるるる人ひと人ひとひとののの身み身みみさへさへさへひえひえひえはべりはべりはべりしかしかしか。。。御おほん御おほんおおん贈おくり贈おくりおくり物もの物ものもの笛ふえ笛ふえふえ二ふた二ふたふた箱はこ箱はこはこににに入い入いいれれれてててとととぞぞぞ見み見みみえええ侍はべ侍はべはべりりりししし。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

翌日の夕方、早くも霞んでいる空を、建て続いた軒のすきまもないので、ただ渡殿の屋根の上のあたりにほのかに見て、中務の乳母と、昨夜の殿の口ずさみをおほめ申し上げる。

この命婦こそ、物の道理をわきまえていて、才気のある人です。

ちょっと里に下がっていて、二の宮の五十日の祝いは正月十五日で、その明け方に参上すると、小少将の君は、夜がすっかり明けてきまりが悪くなってから参上なさった。

いつものように同じ所にいる。二人の局を一つに合わせて、どちらかが里にいるあいだも住んでいる。二人いっしょに参上しているときは、几帳だけを隔てにしている。殿がそれをご覧になって、

「互いに知らない男が訪ねてきたらどうする」などとおっしゃるのは聞き苦しいけれど、どちらもそんなよそよそしいことはないので、気楽にしています。

日が高くなってから中宮さまの御前に参上する。あの君(小少将の君)は桜の織物の袿に、赤色の唐衣、いつもの摺裳を着ていらっしゃった。わたしは紅梅に萌黄、柳の唐衣、裳の摺り目なども当世風だったので、取り替えたいほど若々しい。

帝付きの女房が十七人、中宮さまの御方に参上していた。幼い宮のお給仕役は橘の三位。取り次ぐ人は、端の方には小大輔と源式部、内の方には小少将の君。

帝と中宮さまが、御帳台の中にお二人そろっていらっしゃる。朝日の光が差しこんで、まばゆいほどに気後れするような御前である。

帝は御直衣に小口の袴をお召しになり、中宮さまはいつもの紅の御衣に、紅梅・萌黄・柳・山吹の御衣、上には葡萄染の織物の御衣、柳の上白の御小袿という、紋も色もめずらしく当世風なものをお召しになっていた。

あちらはたいそう晴れがましいので、わたしはこの奥にそっとすべり込んで控えていた。

中務の乳母が宮をお抱き申し上げて、御帳台のすきまから南の方へお連れ申し上げる。

細やかでせかせかしたところのない容貌で、ただゆったりと堂々としたようすで、そういう役目にふさわしく人を教え導きそうな、才気のある雰囲気をしている。葡萄染の織物の小袿に、無紋の青色に桜の唐衣を着ていた。

その日の女房たちの装束は、だれもみな心を尽くしていたが、袖口の配色を悪く重ねていた人が、ちょうど御前の物を取り入れるときに、大勢の上達部や殿上人の前に(袖口を)差し出して、じろじろ見られてしまったことを、後で宰相の君などが残念がっていらっしゃったようです。

とはいえ、それほど悪くもありませんでした。ただ色の取り合わせがさえなかっただけです。

小大輔は、紅の一襲に、上に紅梅の濃いのと薄いのを五つ重ねていた。唐衣は桜。源式部は、濃い紅に、また紅梅の綾を着ていたようでした。

織物でないのを悪いとでもいうのだろうか。それは無理なことで、晴れがましいときにこそ、ちょっとした誤りが見えたりすると、横目でちらりとも見られてしまうものだろう。衣の優劣は言うまでもない。

餅をお差し上げになる儀がすべて終わって、お膳なども下げられ、廂の御簾を巻き上げるころ、帝付きの女房たちは御帳台の西面の昼の御座に押し重なるようにして並んで座っている。

三位をはじめとして、典侍たちも大勢参上していた。中宮方の女房は、若い女房は長押の下に、東の廂の南の障子を取り払って御簾をかけたところに上臈の女房は座っていた。

御帳台の東のすきまがほんの少しあるところに、大納言の君と小少将の君が座っていらっしゃる所に、わたしは訪ねて行って見る。

帝は平敷の御座にお食事を差し上げてある。御前の調度のようすは言いつくしようがない。

簀子に北向きに、西を上座にして、上達部、左右内の大臣、春宮の大夫、四条の大納言が座り、それより下座は見ることができませんでした。

管絃の遊びがある。殿上人はこの対の東南にあたる廊に控えている。地下の楽人は定まっている。

景斉の朝臣、惟風の朝臣、行義、遠理などのような人々で、上の座では四条の大納言(公任)が拍子をとり、頭の弁が琵琶、琴は左の宰相、中将は笙の笛だったとか。

双調の調子で「安名尊」、次に「席田」、「この殿」などを謡う。楽器の演奏では「鳥の破急」を奏する。殿上の座でも調子などを吹く。

歌では拍子を打ち間違えてとがめられた。「伊勢の海」のときだった。右の大臣が「和琴がたいそうおもしろい」などと聞きほめなさって、ふざけていらっしゃったようだった。

最後に、(右大臣の)ひどい失態がお気の毒で、見ている人の身まで冷えるほどでございました。(帝への)御贈り物は、笛を二つの箱に入れてと見えました。

意訳

道長の「野辺に小松の」の口ずさみを、翌日、中務の乳母とともにほめる。

中務の乳母は物の道理をわきまえた才気ある人だと評する。

二の宮敦良親王の五十日の祝いが正月十五日に行われる。作者は明け方に参上し、小少将の君は遅れてやって来た。

作者と小少将の君は二人で一つの局を使っていた。親しい二人の暮らしぶりがわかる。

道長は、知らない男が来たらどうすると冗談を言うが、二人のあいだに隠しごとはないので気にしない。

小少将の君と作者の装束。作者は自分の衣が若々しすぎて、取り替えたいほどだったという。

帝付きの女房も祝いに来ている。給仕役や取り次ぎの女房の名を記す。

帝と中宮が並んで御帳台の中にいる。朝日に照らされた御前はまばゆいほどである。

帝と中宮の装束を書きとめる。

作者は晴れがましい場を避けて、奥に控えている。最後まで人目を避ける作者の姿である。

中務の乳母が二の宮を抱いて進み出る。

中務の乳母の堂々とした姿を描く。

袖口の配色を失敗した女房が、公卿たちの前で見られてしまった。宰相の君たちが残念がる。

作者は、悪くはなかった、ただ配色がさえなかっただけだとかばう。

ほかの女房たちの装束。

晴れの場では、ちょっとした失敗も人目につく。作者は女房たちの心得として書き添える。

餅の儀が終わり、帝付きの女房たちが居並ぶ。

中宮方の女房たちの座。

作者は親しい大納言の君と小少将の君のところへ行って見物する。

帝の御膳の豪華さは言いつくせない。

公卿たちの座。作者はそれより下座は見えなかったとことわる。

管絃の遊び。楽人の配置を記す。

公任が拍子をとり、公卿たちがそれぞれ楽器を受け持つ。

演奏された曲名まで記録する。

「伊勢の海」で拍子を打ち間違えた人がいた。右大臣顕光は浮かれて和琴をほめ、ふざけていた。

最後に、右大臣の大きな失態があり、見ている者まで身の冷える思いをした。帝への贈り物の笛のことを記して、日記は終わる。華やかな宴の最後に、気まずい失態と淡々とした記録を置いて筆をおく終わり方は、この日記らしい。

語釈・文法注

文法

「かたみに知らぬ人もかたらはるゝ」
道長の冗談の言葉。互いに知らない男を(局に)引き入れて語らうことになるだろう、とからかった。
「いと宮」
幼い宮。二の宮敦良親王のこと。
「あなたふと」「むしろだ」「この殿」「伊勢の海」
いずれも催馬楽の曲名。「安名尊(あなたふと)」「席田(むしろだ)」「此殿(このとの)」「伊勢海(いせのうみ)」。
「かくのものは鳥の破急をあそぶ」
底本は「かく」の下に小字の注記がある。楽器で演奏する曲は「鳥の破急(迦陵頻の破と急)」を奏した、と解した。
「との座にもてうしなどをふく」
底本のまま。殿上の座でも調子(音合わせの曲)などを吹く、と解した。
「うしうちたがへて」
「うし」は拍子(ひょうし)。拍子を打ち間違えて。

解説

寛弘七年(1010)正月十五日、前年十一月に生まれた二の宮敦良親王(のちの後朱雀天皇)の五十日の祝いが行われた。日記の最後の記事である。作者は親友の小少将の君と局を共にし、晴れの場では奥に控えて、帝と中宮が並ぶ御前のようすや女房たちの装束、宴の管絃を書きとめている。

日記は、右大臣顕光の失態の気まずさと、帝への贈り物の笛のことを記して唐突に終わる。この終わり方から、現存の本文はもとの日記の一部ではないかとも考えられている。

『紫式部日記』は、敦成・敦良の二皇子の誕生という道長家の慶事の記録を骨格としながら、その中に作者自身の孤独や内省、同僚や同時代の才女たちへの鋭い観察を織りこんでいる。『源氏物語』の作者の素顔と、一条朝の宮廷の姿を伝える貴重な作品である。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(紫式部日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、416–418頁(コマ220–221)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日