万葉集 巻第十一 2820〜2823番
斯くだにも 妹を待ちなむ
こうしてでも妹を待とう、夜更けに出た月が傾くまで、と言えば、木の間から移る月の光を惜しんでうろうろするうちに夜が更けた、と答える。白浜の波のように寄りもせず荒々しい妹に恋い続けている、と問えば、かえってあなたこそ私に白浜の波のように寄る時もない、と答える。問答の歌四首(二組)。
場面イラスト(準備中)
題詞(問答)
- 1斯斯かくくくだにだにだにももも如是谷裳2820 問
- 2妹妹いもををを待待まちちちなむなむなん妹乎待南
- 3さささ夜夜よ深深ふけけけててて左夜深而
- 4出出いででで來來こししし月月つきののの出來月之
- 5傾傾かたぶくくくまでまでまでににに傾二手荷
- 6木木こ間間のまよりよりより木間從2821 答
- 7うつろふうつろふうつろう月月つきののの移歷月之
- 8影影かげををを惜惜おしみしみしみ影惜
- 9徘徊徘徊たちもとおるるるににに徘徊爾
- 10さささ夜夜よふけふけふけにににけりけりけり左夜深去家里
- 11栲栲たく領巾領巾ひれののの栲領巾乃2822 問
- 12白白しら濱濱はま浪浪なみののの白濱浪乃
- 13寄寄よりりりももも肯肯あへへえずずず不肯緣
- 14荒荒あらぶるぶるぶる妹妹いもににに荒振妹爾
- 15戀戀こひひいつつつつつつぞぞぞ居居おるるる戀乍曾居
- 16かへらかへらかえらまままににに加敝良末爾2823 答
- 17君君きみこそこそこそ吾吾われににに君社吾爾
- 18栲栲たく領巾領巾ひれののの栲領巾之
- 19白白しら濱濱はま浪浪なみののの白濱浪乃
- 20寄寄よるるる時時ときももも無無なききき緣時毛無
現代語訳
〔2820〕こうしてでも、いとしい人を待っていよう。夜が更けてから出た月が傾くまでも。
〔2821〕木の間から移ってゆく月の光が惜しくて、うろうろしているうちに、夜が更けてしまったことだ。
〔2822〕(栲領巾の)白浜に寄せる波のようには寄りつこうともしない、つれないいとしい人に、恋い続けていることだ。
〔2823〕かえって、あなたこそ私に、(栲領巾の)白浜に寄せる波のように寄って来る時もないのに。
意訳
問答の歌である。月が傾くまで恋人を待とうという歌に、月の光を惜しんでうろうろしているうちに夜が更けて遅れたと弁解する組と、寄りつこうともしないつれない女を恨む男に、むしろあなたこそ寄って来ないではないかと女が切り返す組とが並ぶ。
語釈・文法注
文法・本文
- 斯くだにも
- こうしてでも。
- 徘徊る
- 「たちもとほる」。行きつ戻りつする。
- 栲領巾
- 「たくひれ」。白い領巾。「白」にかかる枕詞。
- 寄りも肯へず
- 寄りつこうともしない。
- かへらまに
- かえって、逆に。
和歌
- 作者
- 作者未詳
- 出典
- 『万葉集』巻第十一・相聞・2820〜2823番
- 歌体
- 短歌(五七五七七)
- 時期
- 作者未詳(時代を問わない)
- 状況
- 問答。作者未詳。
修辞
- 問答
- 2821番は「さ夜」「月」を、2823番は「栲領巾の白濱浪の」を受けて答える。
- 枕詞
- 「栲領巾の」を両首に用いる。
解説
2823番は、相手の言葉をそのまま受けて逆に責め返す、問答らしい機知に富んだ答えである。
関連
出典
- 底本
- 佐佐木信綱編『新訓万葉集』下巻 岩波文庫、昭和2年(1927)、459頁(コマ22)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 原文
- 佐佐木信綱編『白文万葉集』下巻 岩波書店、昭和5年(1930)、528頁(コマ28)。万葉仮名の原文。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日