古今和歌集 巻第十八 雑歌下 994番
風ふけば
風が吹くと沖の白波が立つ、その竜田山を、夜中にあなたは一人で越えているのだろうか。
場面イラスト(準備中)
- 1題題だいしらずしらずしらず詞書
- 2風風かぜふけばふけばふけば初句
- 3おきつおきつおきつ白浪白浪しらなみ二句
- 4たつたたつたたつた山山やま三句
- 5よはにやきみがよはにやきみがよわにやきみが四句
- 6ひとりこゆらむひとりこゆらむひとりこゆらむ結句
- 7或人或人あるいとこのこのこの歌歌うたはむかしはむかしわむかし大和大和やまとののの國國くになりけるなりけるなりける人人ひとのむすめにあるのむすめにあるのむすめにある人人ひとすみすみすみ渡渡わたりけるこのりけるこのりけるこの女女おんなおやもなくなりておやもなくなりておやもなくなりて家家いえもわろくなりゆくあひだこのもわろくなりゆくあひだこのもわろくなりゆくあいだこの男男おとこ河内河内こうちののの國國くにににに人人ひとををを相知相知あいしりてりてりて通通かよひつつかれやうにのみなりゆきけりさりけれどもつらげなるけしきもひつつかれやうにのみなりゆきけりさりけれどもつらげなるけしきもひつつかれようにのみなりゆきけりさりけれどもつらげなるけしきも見見みえでえでえで河內河內こうちへへへいくごとにいくごとにいくごとに男男おとこのこゝろののこゝろののこころの如如ごとくにしつついだしやりければあやしとくにしつついだしやりければあやしとくにしつついだしやりければあやしと思思おもひてもしなきまにことごころもやあるとひてもしなきまにことごころもやあるといてもしなきまにことごころもやあるとうたがうたがうたがひてひてひて月月つきのおもしろかりけるのおもしろかりけるのおもしろかりける夜夜よ河内河内こうちへへへいくまねにていくまねにていくまねにて前栽前栽せんざいののの中中なかにかくれてにかくれてにかくれて見見みければければければ夜夜よふくるまでふくるまでふくるまで琴琴ことをををかきならしつつうちなげきてこのかきならしつつうちなげきてこのかきならしつつうちなげきてこの歌歌うたをををよみてねにければこれよみてねにければこれよみてねにければこれををを聞聞ききてそれよりまたほかへもまからずなりにけりとなむいひつたへたるきてそれよりまたほかへもまからずなりにけりとなむいひつたへたるきてそれよりまたおかえもまからずなりにけりとなむいいつたえたる左注
現代語訳
風が吹くと沖の白波が立つ、その竜田山を、夜中にあなたは一人で越えているのだろうか。
〔左注〕ある人は、この歌について次のように言い伝えている。昔、大和の国にいた人の娘に、ある男が通って住んでいた。この女は親もなくなって家も貧しくなっていくうちに、この男は河内の国に別の女を知って通うようになり、だんだん離れがちになっていった。しかし女はつらそうな様子も見せず、男が河内へ行くたびに男の心のままに送り出していたので、男は不審に思い、もしや自分の留守中に他の男でもいるのかと疑って、月の美しい夜、河内へ行くふりをして植え込みの中に隠れて見ていると、女は夜更けまで琴をかき鳴らしながら嘆いて、この歌を詠んで寝てしまった。これを聞いて、男はそれからは他の女のもとへ行かなくなったという。
意訳
別の女のもとへ夜道を通う夫の身を案じる、妻の歌。
語釈・文法注
- たつた山
- 「立つ」と「竜田山」。
和歌
- 作者
- 読人しらず(よみびとしらず)
作者の名が伝わらない歌。『古今和歌集』の約四割を占め、撰者の時代より古い歌や、民謡・宴席で歌い継がれた歌、身分の低い人や女性の歌などを含む。 - 出典
- 『古今和歌集』巻第十八・雑歌下・994番
- 歌体
- 短歌
- 状況
- 題しらず(詠まれた事情は伝わらない)。
修辞
- 序詞
- 上二句が「たつ」を導く。
解説
左注は、河内の女のもとへ通う夫を、大和の妻が恨みもせずに案じて詠んだので、夫が心を改めたという話を伝える。『伊勢物語』第二十三段(筒井筒)にも見える。
関連
出典
- 底本
- 有朋堂文庫『古今和歌集・後撰和歌集』 塚本哲三校訂、有朋堂書店、大正15年(1926)、180頁(コマ103)。正保四年版『八代集』を底本とする。国立国会図書館デジタルコレクション(保護期間満了)
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部(本文は底本による。現代語訳・注は当サイト)
- 更新日