古今和歌集 巻第十一 恋歌一 476番
見ずもあらず
見なかったわけでもなく、はっきり見たわけでもない人が恋しいので、わけもなく今日一日、物思いにふけって過ごすのだろうか。

現代語訳
〔詞書〕右近の馬場の騎射の日、向かい側に立ててあった車の下簾から、女の顔がほのかに見えたので、詠んで贈った歌。
見なかったわけでもなく、はっきり見たわけでもない人が恋しいので、わけもなく今日一日、物思いにふけって過ごすのだろうか。
意訳
ちらりと見えた女性の顔が忘れられず、一日中物思いにふけってしまう、と一目惚れの心を詠む。
語釈・文法注
- ひをり
- 五月に行われる騎射の行事。
- 下簾
- 牛車の簾の内側に垂らす布。
- あやなく
- わけもなく。
和歌
- 作者
- 在原業平(ありわらのなりひら) 825–880
平城天皇の皇子阿保親王の子。右近衛権中将などを務め、「在五中将」と呼ばれた。仮名序は「その心餘りて詞たらず」と評する。『伊勢物語』の主人公「昔男」のモデルとされる。六歌仙・三十六歌仙の一人。 - 出典
- 『古今和歌集』巻第十一・恋歌一・476番
- 歌体
- 短歌
- 状況
- 詞書「右近の馬場のひをりの日むかひにたてたりける車の下簾より女の顏のほのかに見えければよみて遣しける」(右近の馬場の騎射の日、向かい側に立ててあった車の下簾から、女の顔がほのかに見えたので、詠んで贈った歌)。
修辞
- 対句
- 「見ずもあらず」「見もせぬ」。
解説
在原業平の歌。『伊勢物語』第九十九段にも見える。
関連
出典
- 底本
- 有朋堂文庫『古今和歌集・後撰和歌集』 塚本哲三校訂、有朋堂書店、大正15年(1926)、92頁(コマ59)。正保四年版『八代集』を底本とする。国立国会図書館デジタルコレクション(保護期間満了)
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部(本文は底本による。現代語訳・注は当サイト)
- 更新日